顧客共創の舞台裏とテクノロジー活用による実践 経営と現場を結ぶ「CXフォーラム2024」
協 賛 ジェネシスクラウドサービス セールスフォース・ジャパン TMJ ナイスジャパン 富士通コミュニケーションサービス 三井情報 ServiceNow Japan
後 援 公益社団法人消費者関連専門家会議 公益社団法⼈⽇本マーケティング協会 ⼀般社団法⼈⽇本コールセンター協会 ⽇本ダイレクトマーケティング学会
基調講演 Ⅰ
CX3.0®のアップデート
顧客サービスコンサルティングに豊富な経験を持つCXコンサルティングCCMCのJohn A. Goodman氏はCXの最新トレンドを解説した。
顧客サービスは課題の即時解決を求められるようになり、権限を持った担当者が柔軟に対応することが必要。それが苦情対応を超えて、顧客にDelight(喜び)をもたらす。テクノロジーの進化で、カスタマージャーニーの全データの統合・分析が可能になり、顧客モニタリングが事業機会を生むと期待される。AIの利用は「まだ挙動を監視し、エラーに備えた防弾チョッキが必要」とした。
顧客の期待を超えるには、不良率やスペックを見る従来の品質管理を見直して、顧客ロイヤルティーへの影響などを含めた再定義が必要になっている。コロナ禍以降の労働力不足への対応では、従業員を顧客に影響を与える内部顧客と捉えて業務上の痛点を解消し、従業員を高く評価して信頼を醸成することで、高いパフォーマンスを引き出すことができ、CX向上につながると指摘。社会の変化に対応したCX強化戦略の検討を促した。
基調講演 Ⅱ
AI本格化時代に向けた顧客共創のセンターピン
~経営と現場をつなぐのは、誰か?~
IT化や働き方の多様化で顧客対応は複雑さを増している。「CX向上には、いくつもの課題を一挙に解決するセンターピンを狙う必要がある」とするマーケッターの神田昌典氏は女性リーダー登用を提案した。
男性中心の経営陣に対し、顧客と接する現場の声を届けるには「高いコミュニケーション能力を持つ現場リーダーの女性を、象徴的なポジションの『CCXO』(最高顧客体験責任者)に登用すべき」とし、女性のリーダーシップ能力は男性より優れていることを示す調査結果を紹介した。
アジアなど海外の成長力を取り込むには、生成AIで言語の壁を越えたデジタルマーケティングによるCX提供が重要と指摘。例外的なクレーム対応などは人が担うが、その経験をデータ化すればAIを成長させられる。
最後に、顧客を喜ばせることがビジネス成功のカギとした著名投資家ウォーレン・バフェット氏のスピーチを紹介。「顧客との親密な関係を従業員に築かせることが大事。従業員の尊重にCXの本質がある」と語った。
特別講演
丸亀製麺が実践する❝逆張り❞のCX戦略
~成果を最大化するKANDO(感動)ドリブンマーケティング~
「感動体験の創造」が価値の源泉とする丸亀製麺は、讃岐の製麺所を彷彿とさせる空間づくりや、店で小麦粉と水・塩からうどんを打つ、手づくり・できたてへのこだわりなど、手間暇をかけた人の力による高いCXの提供を目指している。トリドールホールディングスでマーケティング戦略を担う南雲克明氏は「非効率に見えるかもしれないが、効率との二律背反ではなく『二律両立』を狙う。人のぬくもり、手づくりの懐かしさという国内・海外共通の普遍的な消費者のインサイトを追求した先にこそ独自の市場創造がある」と語る。
同社は、「感動体験の創造」こそが市場を創造し顧客を創るというパーパスを軸にすべての戦略を統合。ミッション・ビジョンのキーワードにも「感動」を掲げる。「マーケティングが未来図とそこへの道筋を描いて全社を巻き込めば、バラバラの戦略よりも成果が出やすい」と同氏。
CX向上のカギとなる人は、強い内発的動機を持つことが必要としてEX(従業員体験)の強化にも注力。「麺職人」従業員のインタビュー動画制作や、前日のお客様の感情や評価を数値化した「丸亀感動スコア」の店舗への高速フィードバックを推進して従業員の貢献の実感や誇りを高めることを目指している。
パネルディスカッション(1)
最新テクノロジー活用の現実解
テクノロジーに関するパネルディスカッションは、ラーニングイットの向川啓太氏の進行で生成AIをはじめとする新しい技術のCX活用についての現状と課題を議論した。
ジェネシスクラウドサービスのポール・伊藤・リッチー氏は今後、コンタクトセンターにAI導入が進むと予想。感動体験の提供には、顧客データをスピーディーに活用して顧客を知ることが重要だとした。DXではオペレーター支援による効率化が注目されてきたが、AIには「戸惑っている人にどんな手助けが必要かを予測する、ぬくもりのある対応」を期待。実現すれば「コンタクトセンターのプロフィットセンターへの変革も進むだろう」と語った。
コンタクトセンター構築に長年の実績がある三井情報の大島正行氏は、「正しい答えが必要なプロダクトサポートシーンでは、まだ生成AIは利用しにくいが、顧客を豊かにする付加価値情報の提供など、それほど厳格さが求められない分野で利用が進む」と予想。「AIを戦力とするには、社内データを2次利用しやすい形で蓄積するデータマネジメントが大事。その支援をしたい」と語った。
パネルディスカッション(2)
新たなCX創造により次世代ステージに進むアウトソーサー
「コンタクトセンターのアウトソーサーの仕事は、顧客という企業の生命線を握っている」と話す畑中伸介氏の進行で、ベンダー2社のトップが果たしていきたいとする役割を語った。
「ベンダーの業務領域は、コンタクトセンターの請負業務から、クライアント企業が持っていない、現場に関するわれわれの知見を生かした業務の見直しや、コア業務に貢献することへと拡大している」とTMJの丸山英毅氏は語る。
生成AIの導入を一部業務から徐々に拡大する一方、人をハイタッチな顧客対応に集中させるという次世代センターへの取り組みを進め、「感動体験を実現するナレッジをクライアントや社会に還元していきたい」とした。
富士通コミュニケーションサービスの金井美紀和氏も「現場インサイトに対するクライアントの期待は増している」と実感する。同社は、AIを使った顧客応対ロールプレイングツールで社内教育を効率化。完全テレワークが可能な働き方や、商談貢献度のフィードバックで働きやすさ・働きがいを追求する。「オペレーターが顧客対応だけでなく、CX改善も提案する環境を整えたい」と語った。
特別講演 Ⅰ
CXの目標設定
~失敗から学んだ着眼点~
信販会社オリエントコーポレーション(以下、オリコ)は、中期経営計画(2022~25年)でDX、EXとともにCXへの注力を掲げた。CX推進室が中心となって社員に「顧客視点で行動する意識」の浸透を図る一方、顧客に対しては、本社内24部署が参画する横断組織で知恵を絞り、VOC(顧客の声)改善活動を推進している。
顧客からの評価は、NPS(ネットプロモータースコア)、継続利用意向などの指標で測定。目標値も定めてKPI(重要業績評価指標)としたが、初年度は各指標とも大幅未達という結果になった。オリコの平澤綾子氏は「業界ベンチマークなどを参考にしたものの、現状分析が不十分だったため目標値が希望的数値になってしまった」と原因を分析。その後は、評価指標や顧客調査の設問設計、目標と施策の連動性を見直し、目標値を再設定して挽回を図っている。
社員のEX向上とも関係するCX意識の浸透には難しさを実感してきた。平澤氏は「CXへの取り組みに関心の薄い社員には、こちらの本気度が伝わるように努力を続けたい」と力を込めた。
特別講演 Ⅱ
CX経営の成果と課題
住設機器メーカーのLIXILは、製品の取り付け・メンテナンスを請け負うグループ会社のLIXILトータルサービスと共同でCX向上に取り組んでいる。LIXILの木嶋幹夫氏は「顧客体験は部分ではなく全体を通してよくなければ、高い評価を得られない。一連のCXを改善することが大切」とする。機器の不具合について顧客から相談を受けたカスタマーサービスは、修理・交換工事を行うLIXILトータルサービスに引き継ぐが、情報がきちんと伝わっていなければ顧客は不満を抱く。両社のシームレスな連携はCX向上のカギだ。
そこで、両社は共通の顧客アンケートツールを使って、VOCを共有して改善点を探る取り組みを始めた。従業員のCX意識調査を行うなど、以前から顧客起点のサービスを追求してきたLIXILトータルサービスの牧野秀樹氏は「改善すべき問題点だけでなく、お客様のお褒めの声をリアルタイムに聞けることが従業員のモチベーションアップになる」と語る。AI・デジタル活用について2人は、従業員が働きやすい環境づくりに役立て、CX向上につながることを期待していると語った。
海外講演
CXエクセレンスへのチャレンジ
車のサスペンションのスプリングやワイヤーなどの高品質鋼材を製造するCharter Steelは21年から供給先の部品メーカーなどのCX改善に取り組んでいる。同社のBrian Mekka氏は「組織としてCXを理解するところから始めた」と振り返った。
CCMCの支援も受け、まずは経営陣や現場スタッフを対象としたCXトレーニングに着手。CXに関する参考図書の読書会などでCXの概念や戦略を学び、同社ができる取り組みを議論した。「現場スタッフも戦略的議論に巻き込んだことで、社内にCXの意義について理解が深まり、従業員エンゲージメントも大幅に向上した」。また、カスタマーサービスの全階層へのヒアリングと、全顧客を対象にしたアンケート、重要顧客への詳細なインタビューを実施してCXの現状を把握。高い効果を見込める優先事項を特定し、年次計画で取り組みを進めると初年度60%だった顧客満足度は翌年76%にアップした。「顧客からのフィードバックを収集、分析して行動に移すパターンを確立できるかがポイント」と語った。
セッション
顧客接点におけるCX向上に向けたAI活用の新たなステージ
AIの進化はCX改善に貢献すると期待が高まっている。クラウド型コンタクトセンター・ソリューションのジェネシスクラウドサービスの斉藤哲也氏は「データとAIを活用した顧客理解と対応のパーソナライズが注目される」として、AI活用のポイントを解説した。
AIには多様なタイプがある。ウェブ上の顧客行動からニーズを予測し、適切なオペレーターの割り当てを行う「予測型」。会話を自動化するボットや、回答に役立つ情報を提示してオペレーターをサポートする「会話型」。顧客の行動・やり取りを分析して課題の抽出、改善につなげる「分析型」。さらに生成AIもある。「それぞれのAIの特性を理解してうまく組み合わせ、変化に応じてAIをつねに最適化することが重要だ」と発言。
同社のAIソリューション「Pointillist」は、複数チャネルに分断された顧客データを一元管理してカスタマージャーニーを可視化。離脱や問い合わせが集中する箇所の検知や、音声の感情分析などから課題を検知してCXの改善につなげられるとアピールした。
セッション
日本の消費者の声を踏まえたCX戦略
~生成AI活用への道のり~
消費者はわからないことがあったとき、企業のFAQページなどを使った自己解決を望んでいる──とCX調査の結果を説明したナイスジャパンの望月智行氏は「コンタクトセンターに電話をする前に、自己解決することでCXを高めるためには企業のDXが重要」と語った。
DXのポイントは、まず顧客を深く理解すること。AIや分析ツールで、ウェブの行動データなどの顧客情報からカスタマージャーニーを把握すれば、電話以外の方法で解決に導くことができる。単一ツールで一元管理された一貫性のあるナレッジをFAQなどで社外に発信することも重要だ。同社のクラウドコンタクトセンター「CXone」は、これらのポイントを押さえられる。生成AIのソリューションもあり、FAQページを訪れた消費者や、顧客対応するオペレーターが必要とする情報について、AIがナレッジから探し出し、要約して教えてくれる機能などを備えている。「コンタクトセンターにたまるさまざまなデータを活用することで、正確で強力なAIが実現できる」と訴えた。