「オフピーク定期券」導入したい3つの理由とは? コスト削減だけでなく持続的成長の後押しにも
コロナ禍による混雑緩和ニーズの高まりがきっかけ
日本の鉄道は、今から100年以上前の大正時代から混雑していたといわれる。1940年代には、軍事輸送を優先するため官庁が時差出勤を敢行。その後も断続的に、行政によるオフピーク通勤キャンペーンが展開されてきたことからもわかるように、朝のピーク時間帯の混雑緩和は長年の社会課題となっている。
鉄道事業者も、決して手をこまねいていたわけではない。車両の改良や複線化、複々線化といったハード面のテコ入れは大きな効果をもたらした。東日本旅客鉄道(以下、JR東日本)の場合、湘南新宿ラインや上野東京ラインといった輸送体系のブラッシュアップも、混雑緩和に大きく貢献している。
ただ、こうしたハード面の対策は、時間もコストもかかる。さらなる混雑緩和を実現するため、JR東日本が実施に踏み切ったのが、2023年3月より通勤定期券に新しく加わった「オフピーク定期券」だ。モビリティ・サービス部門 運賃・運輸収入ユニット マネージャーの見持昌史氏は、その背景について次のように説明する。
「きっかけは新型コロナウイルス感染症の拡大です。『3密回避』など、混雑緩和のニーズが今までになく強まりました。また、テレワークが一気に普及するなど、多くの企業で柔軟な働き方を支援する勤務制度が整ってきたことで、オフピーク通勤が受け入れられるようになってきたのではないかと考えました」
平日朝のピーク時間帯“以外”に定期券として利用できる「オフピーク定期券」は、SuicaおよびモバイルSuicaで利用できる。ピーク時間帯に乗車した場合は、IC普通運賃が発生する仕組みだ。ちなみに、定期券区間のピーク時間帯利用が月2~3回程度であれば、「オフピーク定期券」のほうが割安だという。
「オフピーク定期券」導入で考えられるメリット
「オフピーク定期券」を導入することは、企業にどんなメリットをもたらすのだろう。見持氏の話から、大きく3つのメリットが考えられる。
まず、「採用競争力の強化」が挙げられそうだ。少子高齢化が進んで労働人口が減少している今、「人材に選ばれる企業」は働きやすく、働きがいのある環境が必須だ。育児や介護との両立など、働き手のニーズが多様化していることも踏まえれば、「オフピーク定期券」の導入は多様な通勤スタイルや働き方に対応していることのアピールにもなろう。採用市場におけるプレゼンスが向上して優秀な人材を確保しやすくなるだけでなく、離職を防ぐ効果もあるかもしれない。
次に、「従業員エンゲージメントの向上」も期待できそうだ。フレックスタイム制度がいま一つ普及していないことでもわかるように、通勤時間の柔軟性を担保する制度があっても、現実には活用されず、周囲と歩調を合わせてしまう人は少なくない。心の負担が積み重なれば、従業員エンゲージメントはどうしても下がってしまう。
しかし、「オフピーク定期券」を導入すれば、そうしたある種の同調圧力を緩める効果も期待できるのではないか。ピーク時間帯での通勤による負担が解消され、安心・快適な通勤が実現すれば、労働意欲や従業員エンゲージメントの向上にもつながるだろう。
実際、JR東日本が実施した「オフピーク定期券」購入者アンケート調査によれば、利用後に「気兼ねなくオフピーク通勤できる」と回答した人は約62%(あてはまる・ややあてはまるの合計)、「ワーク・ライフ・バランスが向上した」は約47%(同)を占めた。裏を返せば、今までは気兼ねしてオフピーク通勤ができず、ワーク・ライフ・バランスも十分には整っていなかったということだ。「オフピーク定期券」の導入は、そんな硬直化した状況を一変させるインパクトを持つことがわかる。
最後に、「経費削減」だ。通常の通勤定期券よりも約10%割安なのは大きい。JR東日本によれば、「対象エリアの定期券を所持している社員数が200名の企業で、JR区間の6カ月定期運賃が1人平均6万7980円(東京駅ー横浜駅に相当)」の場合、オフピーク定期券にすることで年間のコストメリットは310万円にも上るそうだ。
「コロナ禍で在宅勤務の多かった企業は、定期券代の支給から実費精算に切り替えたところもあると思います。オフィス出社が増えたからといって通常の通勤定期券へ一気に戻すのではなく、『オフピーク定期券』を第3の選択肢として取り入れていただければ、経費の抑制に貢献できると考えています」(見持氏)
ウェルビーイングと生産性の向上にもつながる
興味深いのは、「オフピーク定期券」を購入している社員が必ずしも大手のみではないということだ。前出のJR東日本が実施したアンケート調査によれば、最も多いのは1000名以上(32.3%)だが、次いで多いのは5名以上100名未満(29.8%)。100名以上300名未満(14.6%)と5名未満(7.1%)を加えれば、比較的小規模な企業が51.5%と半数以上を占めている。
一般的に働き方改革は大企業のほうが進んでいるとされるが、この結果は、小規模な企業の社員でも「オフピーク定期券」の購入に踏み切るほど柔軟な働き方が浸透してきたことを示しているといえよう。採用面でのブランディングや、従業員エンゲージメント向上による離職防止が、企業規模を問わず重要な経営課題となってきたということだ。
つまり、従業員がどのような働き方を求めているのか、規模を問わず企業が真摯に見つめなければならない時代が到来しているとも捉えられる。従業員の心身の健康に投資し、ウェルビーイングと生産性の向上を後押しして、社員と企業のWin-Winの関係を築いていく。「オフピーク定期券」の導入は、その方法の1つとしても有効といえるのではないだろうか。
オフピーク定期券がさらにおトクに
2024年3月25日有効開始分から、オフピーク定期券購入金額に対して「5%」のJRE POINTの還元がスタート。さらに、2024年10月よりオフピーク定期運賃が、通常の通勤定期運賃より約15%割安となり、JRE POINT還元と合わせると最大約20%おトクになる。
>>詳しくはこちら