企業内コミュニティがもたらす本当の効果とは NTTテクノクロスの実践例をプロが読み解く

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ビジネスリサーチラボ代表取締役 伊達洋駆氏 NTTテクノクロス First Penguin Lab事務局 福島隆寛氏 森本龍太郎氏
右から、ビジネスリサーチラボ 代表取締役の伊達洋駆氏、NTTテクノクロス First Penguin Lab事務局 福島隆寛氏、森本龍太郎氏
VUCAの時代といわれて久しい。社会情勢の変化や生成AIの登場など、VUCAを実感する場面も増えてきた。こうした環境の中で生き抜くためにさまざまな挑戦がなされている。NTTテクノクロスでは、社員の自主性や成長、交流を促進し、新たな組織風土を醸成する企業内コミュニティを生み出すため、First Penguin Lab®と名付けたプラットフォームを運用している。変化の激しい時代に企業内コミュニティはどのような効果をもたらすのか。NTTテクノクロス担当者が、組織・人事領域で研究知と実践知を用いたコンサルティングサービスを展開しているビジネスリサーチラボ代表取締役の伊達洋駆氏に話を聞いた。
※First Penguin LabはNTTテクノクロスの登録商標です

First Penguin Labの効果を言語化する

福島 NTTテクノクロスは、2017年にNTTソフトウェアとNTTアイティの合併とともに、NTTアドバンステクノロジの一部事業の譲渡を受け誕生した企業です。3社ともNTTグループという共通点はありますが、それぞれ組織風土が異なり、社員のスキルや価値観もバラエティに富んでいました。

そうした中、組織風土の醸成を目的としてFirst Penguin Labを始め、来年度で8年目となります。First Penguin Labでは参加者自らがやりたいことを表明し、コミュニティをつくって業務時間中に活動しています。学術的に、このようなコミュニティは、どのような価値、効果が認められているのでしょうか。

ビジネスリサーチラボ代表取締役 伊達洋駆氏
伊達洋駆氏
ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)など

伊達 共通の関心や目的を持つ人々が交流しながら学びを得る集団として、実践コミュニティという概念があります。主に1990年代から注目され、教育研究の一環として始まりました。その特徴の1つは、職場から離れて活動することです。

物理的にも心理的にも距離を置くことで、職場の当たり前を客観的に見つめ直すことができる。参加者に新たな学びの機会を提供する実践コミュニティは、企業内でも有効であり、経営学者たちも注目しています。First Penguin Labは、学術的にも重要な効果を持つとされる実践コミュニティの一例であるといえるでしょう。

NTTテクノクロス First Penguin Lab事務局 福島隆寛氏
福島隆寛氏
NTTテクノクロス First Penguin Lab事務局

福島 First Penguin Labでは自分の興味関心を大事にしており、すぐに会社の役に立つかどうかはわからない活動も認めています。イノベーションの確率を高めるという効果もあると思いますが、興味関心というポジティブな感情を持って活動するメリットがあると考えています。

伊達 単に仕事をするだけでなく、なぜその仕事をしているのか、どのように成長できるのかに興味を持っている人々は、学習目標志向性を持ち、自己成長に意欲的な人々といえます。例えばゲームやゴルフといった特定の領域に関心を持った人々が集まり、共通の話題を共有することに重点を置いたコミュニティを関心コミュニティと呼びます。組織や年齢、性別に関係なく、人々が集まる関心コミュニティでは、さらに多様性が担保されます。新たな視点やアイデアが生まれやすくなるのですが、コミュニケーションの難しさがあり、意見の対立や誤解が生じる可能性があります。

関心コミュニティで重要なのは、ポジティブな雰囲気。ポジティブな感情は、人々の思考や行動のレパートリーを広げる効果があり、発想や行動の多様性が増し、個人の資源形成につながります。ポジティブな雰囲気があることで、人々はお互いを支援し、協力しやすくなるのです。

企業内コミュニティの中に関心コミュニティがあることで、多様性とポジティブな雰囲気の両方のメリットをもたらすでしょう。

ホームとアウェイの行き来によって得られる社員の学び

NTTテクノクロス First Penguin Lab事務局 森本龍太郎氏
森本龍太郎氏
NTTテクノクロス First Penguin Lab事務局

森本 確かに、コミュニティ活動によって通常の業務では得ることのできない体験をしていると思います。First Penguin Labの発足当初は社内との連携がメインでした。徐々に地域や他社様との連携に広がった時期があり、今はまた社内との連携が多くなっています。社内でも組織によって文化がかなり異なりますし、社外に出ればなおさらです。このように、ほかの文化を知る意義は、どのように言語化できるのでしょうか。

伊達 実践コミュニティにおいてはホームとアウェイの行き来が重要であり、その行き来によって学びが深まっていると考えられます。ここで言うホームとアウェイとは、越境学習の文脈で使われる概念です。ホームは、自分が普段働いている環境や文化を指し、慣れ親しんだ場所。一方、アウェイは、自分のホームとは異なる環境や文化を指します。当然、他組織や社外の組織にある文化や考え方に、違和感を抱くことがあるでしょう。しかし、その違和感を通じて学びが生まれ、異なる文化に対する理解や協力につながることがあるのです。

また、興味深いことに、アウェイでの関わりの後にホームに戻ると、今度はホームに違和感を抱くこともわかっています。違和感をもとに改善を試みれば、ホームがよりよい状態になります。アウェイでの学びはホームにもよい効果をもたらすのです。

組織風土を変えていくためのコツとは

森本 社内のさまざまな組織との連携が多くなり、組織風土を変えていくうえではよい流れができていると考えています。組織風土を変えていくための重要なポイントはどこにあるのでしょうか。

伊達 異なる組織はそれぞれ異なる価値観や進め方を持っていることが望ましいですし、実際にそのようになる傾向があります。どの組織も同じ価値観を持っていたら組織は停滞し、危機的な状況に陥る可能性があるからです。異質な考え方や意見を受け入れ、それを意思決定に反映させる風土を醸成していくことが重要なのです。

組織の風土を変える際には、いくつかのポイントがあります。まず、変えたい目標を具体的に設定すること。現状と目標のギャップを把握することも重要です。現状が目標に近い部分もあれば、遠い部分もあるでしょう。例えば、品質よりもスピードを重視したいと考えた場合、現状が品質重視であるならば、スピードを向上させるためのギャップが存在することになります。

このような場合、スピードを重視する部分に限定して変化を試みるというアプローチがあります。部分的な変化を行うことで、反発や批判を最小限に抑えながら、変化を進めることができます。

また、過去の取り組みや成果を認め、その有用性を分析して、現状から変えていくことが重要です。意識の変化を促す際には、行動変容から始めることが効果的でしょう。行動の変化を通じてマインドが変わり、新しいマインドが習慣化されることで、組織の風土が変わっていくのです。

組織の風土改革は大規模な取り組みとなりがちですが、目標設定やギャップの把握、焦点の絞り込み、過去の肯定、行動の変化といったアプローチを通じて、効果的に変化を進めることができます。

福島 最後に、企業内コミュニティが今後どのような意味を持ってくるのか、当社の社員に加え、実際に活動されている方々にエールをお願いします。

伊達 企業内コミュニティのよさは、改善や学習の機会があるだけでなく、楽しむことができる点にもあります。合理的な目的や目標にとらわれすぎず、企業内コミュニティの活動自体を楽しんでほしい。何よりも、内発的な動機づけやモチベーションを持って参加することが大切であり、それによって難しい問題に挑戦したり、継続して取り組んだりすることが可能になります。コミュニティをつくり運営する際には、楽しむことを忘れずに行うことが重要なのです。今後、First Penguin Lab含め、企業内の実践コミュニティがどういう広がりを見せるのか、期待しています。

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ビジネスリサーチラボ代表取締役 伊達洋駆氏 NTTテクノクロス First Penguin Lab事務局 福島隆寛氏 森本龍太郎氏