「ノアの方舟」を標榜する製造業の企業集団とは 後世の日本にモノづくりを残す「NPS研究会」

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第40回NPS研究会総会の様子
「ノアの方舟」を標榜する製造業の精鋭企業集団が日本に存在する。「人間尊重」を基本理念とし、さらには「あらゆる無駄を排除することによって経営効率の向上を図る」を基本思想とするNPS研究会だ。「Made in Japan」を後世にまで残すべく、日々研鑽する会員会社を取材した。

2024年1月13日、帝国ホテル孔雀東の間――。NPS研究会・第40回総会には、会員各社200名余りの経営者・経営幹部が一堂に参集した。紀文食品、横河電機、日本軽金属、オイレス工業、石川ガスケット、バンドー化学、三井ハイテック、クリナップ、岩塚製菓、ゼブラ、太陽化学、JMS、リンガーハット等の錚々たる企業の経営者・経営幹部たちである。

エム・アイ・ピー 代表取締役社長 川﨑 亨 氏
開会挨拶:
エム・アイ・ピー 代表取締役社長
川﨑 享氏 
カトーレック 代表取締役社長 加藤 英輔 氏
改善事例発表:
カトーレック 代表取締役社長
加藤 英輔氏
トヨタ自動車 代表取締役会長 豊田 章男 氏
記念講演:
トヨタ自動車 代表取締役会長
豊田 章男氏

NPS研究会はトヨタ生産方式(TPS)を自動車産業以外の異業種に応用・展開することを目指して、1981年1月に発足した1業種1社の企業集団であり、同年10月、会員会社11社の出資により、NPS研究会の運営母体として、エム・アイ・ピー(MIP)が設立された。「トヨタ生産方式」の生みの親である大野耐一氏を初代最高顧問、その現場における陣頭指揮をとった鈴村喜久男氏を初代実践委員長として迎え入れた。

トヨタグループの各現場において改善活動に従事していた指導員たちも実践委員として参加し、基盤が築かれた。現在は会員会社45社で運営され、日々活発な巡回指導や研究会が実施されている。

総会では吉田敏雄・実践委員長代行による活動方針説明に続いて、カトーレック代表取締役社長・加藤英輔氏による改善事例報告が披露された。2008年入会以降、着実に作業効率と改善効果を高めていく経緯がドラマティックに語られた。この後、トヨタ自動車の代表取締役会長・豊田章男氏の記念講演もあり、参加者は耳を澄ませ、活発な意見が交換された。

ものつくり大学 教授 井坂康志氏
ものつくり大学 教授
井坂 康志氏

「NPS研究会は人間の価値を増幅させるシステムが内蔵され、その真価はいっそう高まっている」と総会の来賓である井坂康志・ものつくり大学教授は語る。

NPS研究会とは何なのか。何を志し、何を実現しようとしているのだろうか。

「モノづくり」を通して後世にまで残すべく「Made in Japan」を追求

NPS研究会の運営母体であるMIPの川﨑享代表取締役社長は、その特徴を次のように説明する。

エム・アイ・ピー 代表取締役社長 川﨑 亨 氏
エム・アイ・ピー
代表取締役社長
川﨑 享氏

「NPS研究会は『モノづくり』にこだわる世界でもユニークな業際集団です。

NPS(New Production System)は『モノづくり』のための経営思想であり、『人間尊重』を基本理念とし、さらには『あらゆる無駄を排除することによって経営効率の向上を図る』を基本思想としています。

モノづくりの経営思想を後世の日本に残す現代の『ノアの方舟』であると自らを位置づけているNPS研究会は、いかなる経営環境の悪化や困難に見舞われても、会員各社だけは勝ち残り、生き延びていくという強い決意とポテンシャルを養う集団です」

NPS研究会は、資本や取引関係の枠組みを超えて、1業種1社を原則とした研究会として組織されている。川﨑氏は「会員各社各人が同じ思想と理念を共有していることから、つねに同じ目線で経営戦略や改善事例を共に学び合うことができます。

また、同じ志を持つ者同士だからこそ、善意の第三者の目でチェックし合い、参加者全員の意識改革を切磋琢磨しながら成長する場を持つことができる、これこそが研究会組織の最大のメリットであり、営利目的のコンサルタントとは一線を画しているところです」と力説する。

さらに川﨑氏は「私たちは創設以来、モノづくりを忘れた民族は滅びるを信念としています」と続けた後、現在の抱負については「現場発祥の経営思想であるNPS、現地・現物・現実の『三現主義』を主軸とし、一人ひとりの限られた人生の時間を大切にして、多くの人が誇りを持って自分の仕事に徹することができる経営風土を日本に残すことに貢献したい。

『後世の日本にモノづくりのための経営思想と優れた製造業を残す』ことこそが私たちの使命であり、今後も『ノアの方舟』に乗り込みたいという同志を迎え入れたいと考えています」と結んだ。

Case1 正田醤油
新鮮な商品の常時提供、不良率も低下

正田醬油 代表取締役社長 正田 隆 氏
代表取締役社長
正田 隆氏

——事業内容をお聞かせください。

醤油やたれのメーカーでしたが、専業メーカーから脱して、「めんつゆ」「ラーメンスープ」「たれ」などの加工調味料の割合も増えています。「おいしいがうれしい」をスローガンに掲げ、いかにして社員に夢を、お客様に感動を与えるか――。このことを使命に日々の活動を行っています。

——NPS研究会に入会した経緯・狙いについてお聞かせください。

大きな理由としては、子会社でコンビニ向けの弁当・総菜をつくっていたのが、次第に競争が厳しくなり、採算割れになったことがあります。立て直しは自力では難しいと考えたのが動機でした。その頃、本体の正田醤油の売り上げ・利益が計画どおりに達成できていなかった事情もあります。

——NPS研究会の活動は、どのような変化・効果をもたらしていますでしょうか。

「NPS効果」と言ってよいと思うのですが、売り上げ・利益ともに順調に推移しています。醤油をベースとしたオーダーメイドの加工調味料に強みがあると思います。現在は指導いただいたかいがあり、顧客の引きに合わせた生産の仕組みと生産性の向上を組み込みました。余分なものをつくらないため、新鮮な商品を常時提供できるし、不良率も低下しました。

結果として棚卸し回転率が向上し、納期順守率99%になったのも大きな成果です。

Case2 新日本ウエックス
リードタイム大幅短縮、クレーム激減

新日本ウェックス 代表取締役社長 廣瀬 純平 氏
代表取締役社長
廣瀬 純平氏

——事業内容をお聞かせください。

主として産業向けにリネン製品を貸して使用済み製品を回収してクリーニングするのが私たちの事業です。さまざまな素材の繊維製品、タオルやシーツ、ユニホームなどを幅広いお客様に供給し、利用された製品を回収してクリーニングして、また供給しています。ホテル、飲食、工場などを顧客としています。

——​NPS研究会に入会した経緯・狙いについてお聞かせください。

現場の混乱に悩まされていたときに、父(現・廣瀬 武 会長)の知人からの紹介で入会しました。当初は現場からの反発もありましたが、社長を先頭に地道に取り組んできました。おかげで、NPS流の生産方式への転換が軌道に乗り、リードタイムの大幅短縮が実現しました。

——NPS研究会の活動はどのような変化・効果をもたらしていますでしょうか。

ありがたいことに、NPS研究会と出合いがあって、さまざまな改革が実現できました。最近では、新型コロナウイルス禍によりリネンサプライ業界も多大な影響を受け、当社も例外はなく大幅な売り上げ減少となりました。しかしながら、NPS研究会で学んだ「生産量に合わせた生産・配送体制」を逸早く構築することにより、乗り越えることができました。新規顧客獲得のための営業にも力を入れたことから、コロナ禍明けの今期は、過去最高の売り上げと利益を見込んでいます。

Case3 新東工業
「モノづくり」の原点に立ち返る

新東工業 代表取締役社長 永井 淳 氏
代表取締役社長
永井 淳氏

——事業内容をお聞かせください。

鋳造装置の製造で1934年に創業し、素材・部品に機能を与える表面処理装置や集塵機などへと事業を拡げ、「ものづくりを支える、ものづくり」に取り組んでいます。例えば集塵機では火災対策技術を提供するなど、設備だけでなく、モノづくりにかかわるソリューションを総合的に提供しています。

——NPS研究会に入会した経緯・狙いについてお聞かせください。

以前は現場がそれぞれ効率向上に取り組んでいたため、全体で見ると非効率になっていることもありました。こうした課題を乗り越え、全体での効率化を達成するために、NPSは最も基本中の基本となる重要な考え方・思想だと確信して入会しました。

——NPS研究会の活動はどのような変化・効果をもたらしているでしょうか。

意識の変化だと思います。規模を追うのではなく、お客様一社一社、注文を受けた一台一台を大切にすることが、私たちの進むべき方向だと意識できました。NPS研究会のよさは、会員同士で互いに切磋琢磨しながら支援し合う関係にあります。これは他には見られない特徴です。実際、社内の知恵だけではどうしても不足してしまうところを、他社の方が自分のように考えてくれます。指導員も豊富な経験と知見を惜しげもなく与えてくれます。「自働化・情報化の時代」にますます重要となる整流化をはじめとするモノづくりの原点について皆様と共に学び、進化させていきたいと考えています。

Case4 キッツ
「改善」を永遠に根付かせるために

キッツ 代表取締役社長 河野 誠 氏
代表取締役社長
河野 誠氏

——事業内容をお聞かせください。

総合バルブメーカーです。バルブは配管内の水や空気、ガス、石油などの流体を流したり止めたりする流体制御機器で、その使用場所は多岐にわたります。現在は流体制御用機器、その付属品の製造・販売をグローバルに展開しています。

——NPS研究会に入会した経緯・狙いについてお聞かせください。

自社の活動の不足を痛感したことがあります。入会後は指導員の先生から指摘を受け、不足に対処する繰り返しを行っており、それが生産性向上につながっています。この改善に真摯に伴走してくれるところが、NPSのすばらしいところと考えています。加えて、気風のよさもあります。頭に浮かんだことを自由に言える風通しのよい環境づくりにも役立っていると思います。

——NPS研究会の活動はどのような変化・効果をもたらしていますでしょうか。

改善を永遠に根付かせることがメーカーにとっていちばんだと考えています。

「改善なくして成長はない」と日頃から考えるようになりました。世の中はDXが進展していますが、標準作業ができていないところに導入しても空中分解するだけでしょう。まずNPSの土台をしっかりと築いて、そのうえでDXを取り込んでいきたいと考えています。

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