産官学連携

気候変動のメカニズム解明は
世界経済や産業の発展と密接不可分な関係にある
首都大学東京

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松本教授は、アジアモンスーンによる極端な気候変動が引き起こす洪水や干ばつの研究も進めている。たとえば、バングラデシュ、ベトナムやタイで発生した大洪水のメカニズムなどの研究だ。バングラデシュは洪水が多く、雨季に国土の6~7割が浸水するほどの大規模洪水が起きたこともある。洪水が発生すると、雨季のコメの収穫量は減少する。ところが乾季のコメの収穫量が逆に増える傾向があることが明らかになった。これは洪水の水が乾季まで残ってコメ作りに利用できるからである。「バングラデシュは、灌漑の整備により今では雨季よりも乾季のコメの収穫量が多くなっていて、結果的に気候変動にもうまく適応できるようになっている事例です」。

地理環境科学域 教授
松本 淳

そう語る松本教授は、2006年からアジアのモンスーン気候を研究する国際的プロジェクト「モンスーンアジア水文気候研究計画(MAHASRI)」のリーダーを務めている。10カ国以上(100人以上)が参加するこの研究で、世界の6割以上の人が住んでいるアジアモンスーン気候地域での豪雨の発生メカニズムや、その前兆現象などが解明できてきたという。また、東南アジア地域での人材育成や防災支援にも貢献している。

国内においては、ゲリラ豪雨の予測にもつながる首都圏広域における雷の観測システムの構築にも取り組んでおり、雷活動のリアルタイムでの観測・解析による落雷や豪雨の予測を研究中である。

森林伐採は降水量を減らすのか、それとも増やすのか

熱帯雨林の面積減少が、地球温暖化に関わりのあることは今ではよく知られている。実際、森林伐採により降水量が減少し、気候変動をもたらすという報告もある。ところが、同じく地理環境科学域の高橋洋助教は「現実にはそういう現象はあまりありません」と、意外な事実を明かす。「10~100㌔㍍程度のスケールの森林伐採では強い雨や長雨が降りやすくなり降水量が増える傾向があります。一方、100㌔㍍以上のスケールの伐採では降水量が減少すると考えられますが、大規模な森林伐採が進むアマゾン域の全体の総降水量を見ると森林伐採に対応した降水量の減少は認められないのです。長期的な降水量の観測データがないので森林伐採が気候に与える影響はわからない部分もまだまだ多いのです」。

地理環境科学域 助教
高橋 洋

そう語る高橋洋助教は人間活動による地表面の改変(森林伐採、耕作地化、都市化など)の気候への影響について気候モデルと衛星地球観測データを組み合わせて研究している。たとえば、どれくらいのスケールで森林伐採するとどんなことが起きるのか、森林を農地化または住宅化したら気候にどんな影響があるのかなどについて流体力学や熱力学、気象学に基づくシミュレーションを行っている。いずれは都市開発が気候に与える影響も予測できるようになるだろうし、気候変動が産業や経済などに与える影響もシミュレーションできるようになるかもしれない。「社会経済への影響などを知るために、人文社会系の研究者や企業とも連携していきたいと思います」と高橋洋助教は語る。

気候研究のシンクタンク
「気候学国際研究センター」設立

2020年開催の東京オリンピックとパラリンピックは、梅雨明けから8月末という気温が一年で一番高く、時に大気が不安定になる真夏の時期に行われる。ゲリラ豪雨や落雷、さらに熱中症対策にも気を配る必要がある。首都大学東京地理環境科学域の気候学研究室では、アジアにおける気候研究の拠点として、幅広い視点からの研究を留学生や国内外の共同研究者と推進するとともに、真夏に発生する極端気象の予測などで社会ニーズに答えるために、都市環境科学研究科附属の「気候学国際研究センター」を7月に設立予定だ。

極端気象の予測に必要な気象データの収集・解析、予測結果のリアルタイムでの発信には、企業や自治体などとの連携が不可欠である。ビッグデータを活用して大都市のさまざまな大気現象を解析できれば、新たなビジネスチャンスもきっと生まれることだろう。

お問い合わせ
首都大学東京
東京都八王子市南大沢1-1
 http://www.tmu.ac.jp/
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