セブン‐イレブンのおにぎり「50年の革新」に迫る コメ離れが進む時代に「21億個」売れる秘訣
日本人の「コメ離れ」が進んでいる——。
日本における国民1人当たりのコメの年間消費量は、1962年度の118.3kgをピークに減少傾向にあり、2022年度は50.9kgにまで減少した※1。
農家の経営安定を目指して、自治体が小麦への転作を促す動きも進んでいるほか、記録的な猛暑の影響で、一定の検査基準をクリアした一等米(23年産)の比率が過去最低の61.3%※2となるなど、マーケット事情は芳しくない。
こうした状況下において、コメを使った調理の代表格である「おにぎり」の売り上げを伸ばしてきたのが、コンビニエンスストアチェーン大手のセブン−イレブンだ。1号店の開店(1974年)から程なくしておにぎりの販売をスタート。同社によると、年間販売個数は2003年度に10億個を突破、22年度には約21億個を販売したという。
コメを取り巻く環境が厳しくなる中、なぜ同社は、おにぎりの販売において好調を維持してこられたのか。同社商品本部の金(キム)MD(マーチャンダイザー)は次のように語る。
「半世紀にわたって、おにぎりのおいしさを追求するためのイノベーションを起こし続けてきたことが、いちばんの理由ではないでしょうか」
68.3%のユーザーが「ご飯がおいしい」と回答
同社のおにぎりの歴史をひもといていくと、確かにそこには数々の革新の積み重ねがあった。ただ、当初から順調だったわけではない。販売開始からしばらくは、おにぎりを外で買う意識が世に浸透しておらず、1日2~3個しか売れなかったという。
大きく風向きが変わったのが1978年。のりとご飯を分けて包装することでパリパリ食感を実現したのだ。さらに、「手巻おにぎりツナマヨネーズ」(83年)、おにぎりの先端部からフィルムを抜き出す「パラシュート型包材おにぎり」(84年)、「直巻おむすび」(95年)といった、さまざまな商品を世に送り出してきた。
以降も同社は、高級おにぎりシリーズの先鞭をつける「こだわりおむすび」(2001年)の発売を開始したほか、具材を従来のようにご飯の表面に埋め込むのではなく中心に包み込む製法の開発(03年)、コメ本来のうま味を引き出す低温精米の導入(06年)、振り塩で味付けする製法の開発(12年)など、大きく進化を遂げていった。
もちろん、コメそのものへのこだわりも忘れていない。京都の老舗米屋「八代目儀兵衛」監修のおにぎりの発売(23年)がそれだ。
「独自の目利きとメソッドでブレンドすることで、それぞれのコメの特徴を引き出し、コメ本来の甘さと弾力をより際立たせたのが八代目儀兵衛監修のおにぎりです。おいしさの追求が第一の目的でしたが、結果的に気候変動によるコメの品質低下の影響を吸収し、全国の店舗においしいおにぎりを安定供給するための重要な製法にもなっています」
八代目儀兵衛監修のブレンド米はもともと、こだわりおむすびシリーズでの展開だったが、手巻おにぎりシリーズでも採用。結果、23年のユーザー調査※3では「ご飯がおいしい」との評価が21年、22年を上回った。
「当社がつねに目指している品質は、『家庭で作ったおにぎり』です。この不変のテーマの下、農家やメーカーと共に、コメや具材、のり、製造インフラを改善し続けてきました。こうした積み重ねがあるからこそ、多くの皆様に受け入れられているのだと思います」
70種類のコメから生産状況を踏まえてブレンド
セブン−イレブンにおけるおにぎりのイノベーションの最新版が、24年3月のリニューアルだ。
八代目儀兵衛監修の「こだわりおむすび」シリーズは、70種類のコメから直近の生産状況を踏まえて新たにブレンドを施した「新ブレンド米」に刷新。甘み・粒立ち・うま味がより際立ったおにぎりにアップデートされた。同シリーズでは、希少部位を使用したうま味が強い「サーモンハラス」や、手もぎで採った「紀州南高梅おかか添え」、脂が乗ったサバを炭火でみそ焼きにした「炭火焼さば」など、具材も手を抜いていない。
「コメによく合う定番具材をシンプルに合わせているので、ハッとするようなコメのおいしさをぜひ味わっていただきたいです」
手巻おにぎりシリーズも、八代目儀兵衛監修の新ブレンド米を使用。定番商品の「ツナマヨネーズ」「紅しゃけ」「北海道産昆布」「辛子明太子」「紀州南高梅 」は、具材の品質向上を価格据え置きのまま実現した。
「例えば、紅しゃけは、山漬けと呼ばれる製法に変更することで、余分な水分を抑えてうま味をより凝縮させ、ツナマヨネーズは、マヨネーズがご飯に吸われにくくなるよう改良を加えています。
また、定番の5品については、消費期限を平均8時間延長することを実現しました※4。おいしさを最優先しながら鮮度延長を実現するために、設備の検証などに約3年を費やしましたが、お客様は、欲しいときに欲しい商品がより買いやすくなり、加盟店様にはより安心して商品発注していただけるようになりますし、食品ロス問題の解決にもつながります」
「今がこれまででいちばんおいしい」状態であるために
このように同社では、おいしさと併せておにぎりを通じた社会的な価値の追求にも注力している。すでに代替原料を使った「みらいデリおにぎり」シリーズや、自然由来の原料を配合することでストレス改善効果のある機能性表示食品などの商品開発を行っているほか、今後はプラスチック使用量を削減したおにぎりの包材フィルムについて、環境に配慮した新たな改良も計画しているという。
「健康・地域・環境・人財という当社の4つのテーマをベースにしながら、今後も『今のおにぎりがこれまででいちばんおいしい』状態であり続けられるよう、革新を重ねていきたいです」
コンビニのおにぎりは、売れ筋にして看板商品のため、多くのリソースと情熱が投じられる。結果、そこには日本の産業を象徴するような、改善力と気配りをベースとしたイノベーションが繰り返される。業界をリードしてきたセブン−イレブンでは今後、どのようなイノベーションが起こるのか。まずは、その進化の最新版である24年3月にリニューアルされた味を、かみしめたいところだ。
※2 出典:農林水産省「令和5年産米の農産物検査結果(速報値)」(2023年12月31日現在)
※3 日本デリカフーズ協同組合のアンケート調査(回答者:5万1403人、調査対象地域:全国、調査方法:インターネット調査)
※4 首都圏から順次、展開していく