キリンビバレッジ「健康経営」で開拓する新領域 ドリームインキュベータと共に市場を開拓

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キリンビバレッジとドリームインキュベータのメンバー
今、健康経営®︎が注目を集めている。この流れに乗って、企業の健康経営推進を支援するビジネスに挑戦しているのがキリンビバレッジだ。ただ、メーカーにとってソリューション事業は不慣れな領域。軌道に乗せるまで、同社が伴走のパートナーとして選んだのが、ビジネスプロデュースを強みとする戦略コンサルティングファーム、ドリームインキュベータだった。両社のタッグは社会をどのように変えるのか。新規事業の狙いと展望について話を聞いた。

あなたが働く業界の「健康度」はいかに?

近年、企業経営にとって無視できない潮流となっているのが健康経営だ。

健康経営とは、企業が従業員の健康管理を経営的な視点で考えて戦略的に取り組むこと。経済産業省はその普及を目指し、2014年から「健康経営銘柄」の選定を始め、16年には「健康経営優良法人認定制度」を創設。さらに政府は23年3月期決算期から上場企業などに対し、有価証券報告書に人的資本情報の記載を義務づけている。

従業員の精神的健康や身体的健康に関する情報は、開示項目の1つ。今後、それらの開示に積極的でない企業は投資家から冷ややかな視線を浴びることになる。なぜ投資家が企業に健康経営を求めるのか。ドリームインキュベータの菅裕紀氏は次のように解説する。

ドリームインキュベータ マネジャー 菅 裕紀氏
ドリームインキュベータ
マネジャー
菅 裕紀

「健康が生産性に影響するからです。これまでは従業員1人当たりの売上高や営業利益といった財務指標が生産性の目安の1つになっていました。一方、プレゼンティーズム(出勤しているが健康問題で業務効率が低下している状況)なども生産性に影響を与えることがわかってきて、その可視化を求める動きが強まっているのです」

人が働く以上、健康経営はどの業界でも避けて通れないテーマである。ただ、この流れに対応できている企業ばかりではない。ドリームインキュベータが東証プライム市場の上場企業の開示状況や企業選定状況などを調査して5段階で評価したところ、経営層のコミットメントが高く、指標の開示や独自の取り組みを行っているレベル5の企業は全体のわずか1割にとどまった。一方、まったく開示していないレベル1の企業は約半数程度あった。
※ドリームインキュベータ「東証プライム企業を対象としたIR調査」(2023年12月)

「業界によっても温度差があります。輸送機械や金融業界は従業員の有所見率が低いうえに開示レベルも高いのですが、公共サービスやエネルギー、建設業界は有所見率が高く、それを課題として認識しているがゆえに健康経営に積極的です。反対に外食・中食業界や小売業界は健康課題が大きく、かつ開示が遅れている企業が多い。健康経営を進める際には、業界の特徴や自社の課題を踏まえて取り組むべきでしょう」(菅氏)

健康度の業界比較
※東証プライム市場上場企業(約1,800社)の統合報告書及びIR発表資料、及び厚生労働省・定期健康診断実施結果の統計より、2023年12月にドリームインキュベータにて作成

スムージーのモノ売りからソリューションビジネスへ

業界や企業によって健康経営の課題はさまざまだ。何から手をつけていいのかわからずに足踏みしている企業もあれば、すでに施策を打ってはいるが効果を可視化できずに尻すぼみになっている企業もある。そうした悩みを抱える企業に向けて、健康経営のトータル支援サービス「KIRIN naturals」を提供しているのがキリンビバレッジである。

KIRINnaturalsのサービスイメージ

支援内容は多岐にわたるが、ユニークなのはポイントシステムだろう。キリンビバレッジは顧客企業にウェルネス動画やオンライン健康セミナーなどの各種健康プログラムを提供。顧客企業の従業員がそれらのプログラムに対してアクションを起こせばポイントが付与され、従業員はポイントをキリンビバレッジのスムージーなどと交換できる。健康経営は従業員への動機づけでつまずくケースが多いが、インセンティブをつけることでその課題を解決する。顧客企業、従業員、キリンビバレッジの三者に利益がある三方よしのスキームである。

ただ、最初から現在のように整った形ではなかった。17年に新規事業として立ち上げたときのビジネスモデルは、スムージーの置き型販売というモノ売りにすぎなかった。キリンビバレッジの善田英樹氏はこう明かす。

キリンビバレッジ 企画部 新規事業開発室 主務 善田 英樹氏
キリンビバレッジ
企画部 新規事業開発室 主務
善田 英樹

「スムージーを法人向けに売り始めたら、お客様から『従業員の健康意識を醸成する施策はないか』とご相談をいただくようになりました。そこで18年から、スムージーを発注いただいたお客様に無料サービスとして健康セミナーを提供し始めました。引き合いが強かったので、19年に健康セミナーの有償提供をスタート。モノ売りからソリューションビジネスに転換しました」

ただ、メーカーにとってソリューションビジネスは未知の領域だ。一進一退で伸び悩んでいたため、販売戦略を複数のコンサルに相談。ドリームインキュベータから「企業の健康経営課題を本質的に解決するソリューションをつくりましょう」と提案があり、同社をパートナーに選んだ。

ドリームインキュベータ シニアマネジャー 板坂 遼氏
ドリームインキュベータ
シニアマネジャー
板坂 遼

ドリームインキュベータは、なぜ健康経営という切り口で提案したのか。コンサルタントの板坂遼氏の説明はこうだ。

「新規事業のビジネスプロデュースで私たちは3つの要件を重視しています。まず、社会課題にアプローチできること。次にユーザーが本当に必要としている事業であること。そしてクライアントの強みが生かせること。ヘルスサイエンスに注力するキリンビバレッジ様の場合、この3つがバランスするビジネスが健康経営ソリューションでした」

健康経営で職場の会話が増え、エンゲージメントも向上

キリンビバレッジ「KIRIN naturals」チームは5人。ドリームインキュベータからは常駐1人を含めて5人でサポートに当たり、ソリューション化に向けての全体設計や、一つひとつのメニューやプログラムで具備すべき機能の設計などを支援した。ただ、スキームができても、効果を検証できなければ企業は導入しづらい。そこで23年秋、まずキリンビバレッジ社内で健康改善プログラムの実証実験(以下、PoC)を行って効果を可視化することにした。キリンビバレッジのメンバー、小松夏菜氏はこう話す。

キリンビバレッジ 企画部 新規事業開発室 小松 夏菜氏
キリンビバレッジ
企画部 新規事業開発室
小松 夏菜

「サーベイの設計や分析のノウハウはドリームインキュベータさんに助けてもらいました。また心強かったのが、社内調整のサポートです。PoCは新たな負荷がかかるため、社内で関係者の協力を取り付けるのも一筋縄ではいきません。ドリームインキュベータさんは、その労をいとわずに伴走してくださいました」

最前線で一緒に汗をかく社内外ドライブ力はドリームインキュベータの強みの1つだが、戦術的な話に偏ると本来の目的を見失いかねない。それを防ぐために定期的に戦略会議を行い、視座を上げることも忘れなかったという。

PoCでは、5テーマ(運動・食事・体重・飲酒・睡眠)でプログラムを実施。各プログラム参加者はそれぞれ健康習慣に改善効果が見られたが、運動プログラムは44%、飲酒プログラムは36%と、とくに改善効果が目立った。また、興味深い結果も出た。プログラム参加者は職場内の会話量が増え、それがプレゼンティーズムやワークエンゲージメントの改善にもつながっていることがわかったのだ。キリンビバレッジの高橋正浩氏はこう話す。

キリンビバレッジ 企画部 主査 高橋 正浩氏
キリンビバレッジ
企画部 主査
高橋 正浩

「プログラムにはチームでポイントを競う機能を取り入れました。それをネタに職場での会話が増えたのかもしれません。今回のPoCでは、会話量が1ポイント改善すると、プレゼンティーズムが2ポイント、ワークエンゲージメントが約0.3ポイント改善しました。これを生産性向上に換算すると、1人当たり年間約20万円です。これを可視化できた意義は大きいです」

PoCで一定の効果を確認できた「KIRIN naturals」。今後は健康習慣改善プログラムや効果検証サーベイもソリューションのメニューに加えて、健康経営に取り組む企業に提供していく考えだ。

健康習慣の改善がもたらす試算価値

「健康経営支援はBtoBtoEのソリューションビジネス。これに成功したら、健康経営以外のテーマでも展開できる」と善田氏は意気込むが、今回の協業はドリームインキュベータにとっても大きな意味があるという。最後に板坂氏が抱負を語ってくれた。

「『モノ売りからコト売りへ』はバズワード化していて、最近はモノ売りを単にサブスクにしただけでコト売りと称するケースが少なくありません。一方、キリンビバレッジ様との取り組みでは、ユーザーの課題を本質的に解決するソリューションを一緒に構築することができました。伝統的なメーカーとソリューションビジネスをつくり上げたことは、支援した私たちにとっても自信になります。これをモデルケースにして、引き続き社会課題の解決に取り組んでいきます」

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「健康経営®」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。

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