躍進を続けるニップンの食品事業の「変革」とは 固定観念にとらわれない商品開発を目指して

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ニップン 取締役常務執行役員 食品事業本部長 川﨑裕章氏
ニップンは、祖業である製粉事業を基盤としながら、成長ドライバーとなる食品事業を柱に総合食品企業として多角化戦略を進めている。さらなる事業拡大を見据えるうえで、家庭用食品のブランド力・商品力向上を図るべく、同社は「変革」を始めた。マーケティング専門部署を新たに設置し、これまでの常識にとらわれない消費者起点の商品開発に取り組んでいるという。変革と拡大の現在地について話を聞いた。 

製粉の枠を超えて価値を創出

長期ビジョンに売上高5000億円の目標を掲げるニップンは、現在まで好調に業績が推移している。2026年度までに設定した売上高4000億円、営業利益150億円の中期目標を、早くも23年度に達成する見込みだ。とくに成長分野として期待しているのは食品事業で、23年度は前年度から11.1%の増収が見込まれている。好調の要因について食品事業本部長の川﨑裕章氏は次のように説明する。

ニップン 取締役常務執行役員 食品事業本部長 川﨑裕章氏
取締役常務執行役員
食品事業本部長
川﨑 裕章氏

「1つ目の要因は、上昇したコストの価格転嫁が実現したことです。近年は地政学リスクの高まりによって、原材料の小麦やエネルギーなどコスト上昇がありましたが、企業努力では吸収できないコスト上昇分を価格転嫁することで適正な収益力を回復しました。2つ目は、食品事業が好調であること。当社の食品事業は外食、中食、内食※1のすべてにおいて商品を展開していますが、1食完結型のワンプレート冷凍食品の販売数量拡大や、新型コロナウイルス感染症の5類移行に伴う外食店向けのプレミックス※2の需要拡大が売上高の伸長を牽引しています」

好調な売り上げに甘んじることなく、長期ビジョンの達成を目指している同社だが、同時に経営理念に打ち出す「人々のウェルビーイング(幸せ・健康・笑顔)の追求」にも注力している。重点的に取り組んでいるのは、家庭用食品事業の成長戦略だ。

※1 中食は弁当や総菜などの調理済み食品、内食は家庭で調理する食品
※2 プレミックスとは天ぷら粉やから揚げ粉など、小麦粉を主原料にさまざまな副資材を混ぜ合わせて作られている食品素材のこと
オーマイプレミアム「至福の蟹トマトクリーム」
オーマイプレミアム 「至極の蟹トマトクリーム」

「自社ブランドの価値を高めて、よりおいしい食品をお届けしたいと考えています。例えば、当社の冷凍パスタブランド『オーマイプレミアム』は23年に発売20周年を迎えました。これまで順調に成長しているブランドではありますが、シリーズ初の期間限定の冷凍パスタを販売したり、高価格帯の『オーマイプレミアム 至極』シリーズを展開したりと攻めた施策を打ってきました。おかげさまで市場からの反応は上々で、売り上げ拡大を実現できています」

消費者のインサイトから新発想の乾燥パスタを開発

これまで以上に消費者に評価され、選ばれるブランドを育成するため、同社は22年10月にマーケティング専門部署を新設した。以前は商品開発や営業の部門にひも付く形でマーケティングチームがあったが「商品を『作る』部門から独立させることで、われわれが持つ技術や設備を基準に『何を作れるか』と考えるのではなく、『消費者が何を欲しているか』を軸に考えてもらうことが狙いです」と川﨑氏は説明する。

マーケティング専門部署は、消費者の声や購買行動の徹底的な分析を担う組織として、消費者のインサイトを可視化するためにさまざまな取り組みを開始。消費者の自宅を訪問してパスタの調理実態を把握するほか、買い物に帯同して購買行動も分析している。また、商品開発時には、消費者調査を繰り返し実施して購入動向を考察した。こうしたマーケットインの発想で調査を進める中で、ある発見があった。それは、家で食べるパスタに対する消費者の「あきらめ」だ。

「消費者は家で食べるパスタ(乾燥パスタ)に対して『ある程度満足しているが、おいしさに関しては“こんなものだ”』というあきらめがあること、また乾燥パスタに対して『どれを食べてもあまり変わらない』『おいしさはソースで決まる』と期待値が低く、価格重視で選んでいる実態が浮き彫りになりました。同時に麺は『もちっとした食感』への高い嗜好があることも判明。本場イタリアのアルデンテ(やや芯が残り、歯ごたえのある食感)を追求してきたメーカーとしては盲点で、消費者が『欲しいパスタがない』とあきらめている可能性に気づきました」

これまでの常識が揺らぐような結果だったが、消費者の潜在的なニーズを確信し、もちっとした食感を追求した乾燥パスタの商品化を決定。乾燥パスタならではの表面のハリがありながらも、もちっとした食感を楽しめるように小麦粉の配合割合を追求。麺の細さも0.1ミリ単位で試作を重ねた。

「もちっとおいしいスパゲッティ」
「もちっとおいしいスパゲッティ」は、さまざまなソースに合う1.5ミリと、たらこやナポリタンと相性がいいやや太め、もちもちとした食感の1.8ミリの2種類を展開

そして新製品「もちっとおいしいスパゲッティ」が完成し、24年2月に「オーマイプレミアム」から発売。消費者モニターや小売店に試食してもらうと食感とおいしさの違いに驚きの声が上がったという。「おいしさには自信があります。従来、乾燥パスタのパッケージはゆで時間の早さや保存用チャック付きなどの機能訴求が定番ですが、そうではなくおいしさと食感を全面的に打ち出しています」と川﨑氏は胸を張る。

「おいしさ」への追求を妥協せず新しい市場を創造する

新発売の乾燥パスタには、ある重要な狙いがある。

「『おいしさを求める潜在マーケット』を広げていき、新しい市場を創造することを目指しています。機能やコストパフォーマンスも大事ですが、消費者の期待を超えるようなおいしい商品を提供することが、ブランド価値向上につながり、ひいてはニップンの発展に寄与すると確信しています」と川﨑氏は言葉に力を込める。

食生活をもっと豊かなものにするために邁進する姿勢は、経営理念の「人々のウェルビーイングの追求」そのものだ。

「今後も固定観念に縛られることなく商品開発を進めていきたい。そのためには社員一人ひとりがアイデアを出すことをあきらめず、変革と挑戦のムードを社内に広げていければと考えています」

基盤としている製粉事業から領域を広げ、総合食品企業として飛躍を遂げようとしているニップン。「おいしさの当たり前」を変え、さらに豊かな食生活をかなえるためにどのような歩みを進めていくのか注目だ。

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