JSR「バイオ医薬品」開発を加速させる事業の凄み 少しでも早く、患者のもとへ薬を届けるために

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遺伝子組み換え技術や細胞培養技術といったバイオテクノロジーを使って作られるバイオ医薬品は、従来治療が困難とされていた疾患の治療薬として、近年需要が高まっている。しかし、より多くの人がその恩恵を受けられるようになるには、開発の迅速化やコストの抑制といった大きな課題を乗り越えなければならない。そうした課題の解決に向けて、バイオ医薬品の創薬支援サービスや材料などを提供することで、開発プロセス全体をサポートしているのがJSRのライフサイエンス事業だ。バイオ医薬品が医療にもたらす価値やJSRが果たす役割について、JSRライフサイエンス株式会社代表取締役社長の野村英昭氏に聞いた。

バイオ医薬品の登場がもたらした「変化」

古来、人類は自然界に存在する植物などの天然物から薬を作り出してきた。その蓄積と科学の発展に伴い、自然界にはない化合物を作る技術を獲得。19世紀初頭には、天然物よりも強い効果を得られる化学合成医薬品が誕生した。現在一般的に使われる医薬品の多くも、化学合成によって作られる「低分子医薬品」である。

一方、バイオテクノロジーの進歩により、この30年余りで発展してきたのがバイオ医薬品だ。人工培養で増やした細胞がタンパク質を分泌する機能を応用して作られるバイオ医薬品は、人間の体内にある酵素、サイトカイン、そして抗体を対象に作られるため、低分子医薬品と比べて副作用が少ないなどの特徴がある。

「バイオ医薬品はこれまで治療薬がなかった、あるいは治療効果が十分でなかった疾患に対して目覚ましい効果を示すことから、従来の治療法を劇的に変えるものとなりました。糖尿病や自己免疫疾患、がんの治療にバイオ医薬品が用いられるなど、近年非常にニーズが高まっており、市場規模も顕著に拡大しています」(野村氏)

JSRライフサイエンス株式会社 代表取締役社長 兼 JSR株式会社 ライフサイエンス事業部 バイオプロセス部長 野村 英昭氏
JSRライフサイエンス株式会社 代表取締役社長 兼
JSR株式会社 ライフサイエンス事業部 バイオプロセス部長
野村 英昭

バイオ医薬品の普及を阻む「大きな課題」

バイオ医薬品への期待が高まる一方で、普及に向けては課題も少なくない。

医薬品の開発プロセスは、大きく「基礎研究」「非臨床試験」「臨床試験(治験)」「承認・商業化」の4段階に分けることができるが、この各プロセスにおいて、バイオ医薬品は低分子医薬品と異なる難題が存在するという。野村氏は次のように説明する。

医薬品の開発プロセス

「まず基礎研究では、疾患の原因究明はもちろんのこと、人間の体内で作られる生理活性タンパク質や抗原と疾患との因果関係の調査に重きが置かれます。非臨床試験では、候補物質の安全性や効果を調査しますが、バイオ医薬品の場合、動物では作用しないことがあるため、ヒトの細胞やヒトに近いサルでの試験をするケースもあります。

臨床試験では、ヒトを対象に有効性や安全性を確かめると同時に、とくに抗体医薬品の場合は適切な患者さんに薬を投与するために、その患者さんの抗原を確認する必要があります。そのため医薬品の開発と並行して疾患の診断薬の開発も求められ、低分子医薬品に比べ開発の困難性が増しています。承認の段階では、低分子医薬品よりもバイオ医薬品のほうが必要になるデータの種類が多く、また商業化は製造が複雑で、高い技術とそれに伴う設備が必要になるためコストがかかります」

このように各プロセスで手間を要するため、バイオ医薬品の上市には平均で12年かかるとされ、患者のもとに届くまでに多大な時間を要する。商業化までにかかる開発コストも数千億円に上るといわれる。そのため、バイオ医薬品自体の価格も高額になりやすく、その恩恵を受けられない患者も多く存在するのが現状だ。

そうしたバイオ医薬品を取り巻く課題の解決に寄与しているのがJSRである。同社のライフサイエンス事業では、バイオ医薬品の候補になる物質の探索から製造までの開発プロセスを製薬会社から受託し、開発プロセス全体にコミットしている。

JSRならではのライフサイエンス「4つの事業」

JSRはもともと、1957年に設立された合成ゴムなどの石油化学製品の製造を祖業とする企業だ。そこで培った高分子技術を生かし、ライフサイエンス事業を展開。有力企業のM&Aなどを通じて順調に事業を拡大し、現在では半導体材料などのデジタルソリューション事業と並ぶコアビジネスとなっている。

ライフサイエンス事業で手がけるのは、「CRO(医薬品開発業務受託)」「CDMO(医薬品開発製造受託)」「IVD(体外診断用医薬品)」「BPM(バイオプロセス材料)」の4つだ。

ライフサイエンス事業の内容

「当社のCRO事業は、疾患に関わる細胞を患者さんからいただき、培養技術を用いて必要な細胞だけを高純度に増やし、普遍的な試験として試験管レベルで効果を確認していることが特徴です。ヒトの細胞を用いることで臨床試験(治験)の成功確率を高めるとともに、動物の犠牲を少なくしているなどの点で優位性があるとみています。

CDMO事業では、複雑なバイオ医薬品でもしっかり物質を同定し品質を担保できる高い技術力と最新設備の活用により、安定的・効率的に生産できる体制を整えています。それらによってバイオ医薬品の開発期間の短縮やコストの低減、高品質な医薬品の開発・製造に寄与しています」(野村氏)

また、IVD事業では、抗体医薬品の開発時に求められる診断薬を含め、近年患者数が増加している自己免疫疾患に対する診断薬などを迅速に開発。BPM事業では、バイオ医薬品の原材料費の多くを占める、培養に用いる培地と製品の精製時に用いるアフィニティ樹脂を、かねて培ってきた高分子技術を生かして製造・販売している。これらの4事業によって、基礎研究から商業化まで一気通貫したサポートが可能になっているのだ。

バイオ医薬品の開発においては、それぞれの事業を担うJSRグループ各社が横で連携し、ニーズの把握や開発の迅速化、製品の拡販にもつながっているという。そうした4つの事業のシナジー効果を発揮できる理由は、事業に携わるメンバーの精神にあると野村氏は話す。

「JSRのライフサイエンス事業の最たる強みは、技術とサービスを磨き上げること。顧客、ひいては患者さんに尽くすというメンタリティーです。当社は半導体材料をはじめとするBtoBビジネスで大口顧客にも1対1で接し、技術ハードルの高い顧客要求に応えてきました。

それには、単に製品を納入するだけでなく、その周辺の技術・サービスの提供など、細かに対応することが求められます。ライフサイエンス事業に従事する社員の多くもそうしたビジネスを経験していることから、その姿勢が染み付いているのです。顧客にとことん尽くし応えるところに、JSRのDNAがあると考えています」

病気と闘う患者に、少しでも早く届けるために

バイオ医薬品市場は、超高齢化社会の本格化や個別医療の浸透に向けて、今後さらなる需要の高まりが予想されている。その中でJSRは、「High-performingなライフサイエンスサービスプロバイダーを目指す」というビジョンを掲げ、事業の深化と進化に向けて邁進している。

JSRライフサイエンス CEO 野村 英昭氏

「顧客の価値・強みを高めるために必要な『信頼性が高く、革新的かつ技術的に差別化されたサービスや製品の提供』を通して、イノベーターに選ばれるパートナーとなりたいと考えています。そのために優秀な人材を確保し、高い品質基準を満たして、絶え間なくイノベーションを追求していきます」(野村氏)

顧客である製薬会社を通して、バイオ医薬品の開発成功確率の向上、開発スピードの加速、製造コストの削減を支援するJSRのライフサイエンス事業。その根底には、「病気と闘う患者さんに、いい薬を少しでも安価に、そして早く提供することで社会に貢献したい」(野村氏)という思いがある。バイオ医薬品の恩恵を誰もが享受できる世界の実現に、JSRは大きな役割を果たしてくれそうだ。

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