脱クッキー時代「見せる広告」から「見たい広告」へ リテールメディアが秘める新しい広告の可能性

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LMIグループ取締役副社長の望田竜太氏(右)と、スカイフォール代表取締役社長の長谷川智一氏(左)
LMIグループ取締役副社長・共同創業者の望田竜太氏(右)と、Skyfall代表取締役社長の長谷川智一氏(左)
2024年からサードパーティークッキー(第三者から提供されるクッキー)の段階的な廃止が発表されている。クッキーとはサイト閲覧時に訪問者が訪れたサイトや入力したデータ、日付などが記録される仕組みだ。多くの広告主が大手プラットフォーマー提供のサードパーティークッキーを活用して、自社に合ったユーザーに広告を配信してきた。この流れに規制がかかることで注目を集めているのが、ユーザーが報酬(リワード)の獲得を目的に自ら能動的に広告に対してアクションするリワード広告だ。リワード広告自体は以前からある仕組みだが、今リアルの世界にも拡張する動きが起きている。今までアシックスやセブン-イレブンをはじめとする1200社以上の小売店舗の課題解決をしてきたリテールテック企業のLMIグループ取締役副社長・共同創業者の望田竜太氏と、リワード広告業界No.1のシェアを誇るSkyfall代表取締役社長の長谷川智一氏に、広告の未来について語り合ってもらった。
※AppsFlyerパフォーマンスインデックス調べ

クッキー廃止の影響を受けにくいリワード広告

──サードパーティークッキーの廃止で、広告はどのように変わっていくでしょうか。

長谷川 広告にクッキーを使う目的は2つあります。1つは、ユーザー情報を取得して最適なユーザーに広告を出すため。もう1つは、広告を見たユーザーをトラッキングしてコンバージョン(広告の最終目標の達成)が起きたかどうかを計測するためです。今回、サードパーティークッキーに待ったがかかった根本的な理由は、主に前者の目的で使われることに対してです。ユーザーが自分の情報を取得され、先回りして広告を出されたり同じ広告が何度も表示されることに対して嫌悪感を抱くようになったわけです。

この風潮の中で注目されているのがリワード広告です。リワード広告とは、ある条件に対してユーザーがアクションを起こすことで何らかの報酬が発生する広告のことで、マンガアプリなどで目にする機会が多いかと思います。ユーザーがオファー(広告)を一定条件まで利用すると、マンガを読むのに必要なコインが付与されるといったものですね。リワード広告は広告効果の計測もクッキーに依存しません。サードパーティークッキーが廃止されても影響を受けず、私たちが提供するリワード広告配信プラットフォーム「SKYFLAG」も導入実績が増えています。

LMIグループ取締役副社長の望田竜太氏(右)と、スカイフォール代表取締役社長の長谷川智一氏(左)
Skyfall代表取締役社長
長谷川 智一 氏 
1990年生まれ。大阪府出身。2013年にアドウェイズに入社してリワードメディアへのメディアコンサルティングに従事。16年にセガゲームス(現セガ)に新規事業の立ち上げメンバーとして入社し、営業/運用/サービスディレクションなど多岐にわたる業務に従事。17年10月にSkyfallを設立し、代表取締役社長に就任

現状ではマンガアプリやゲームアプリといったオンラインサービスでの活用が中心です。リワード広告がもっと認知されれば、今後は生活に密着した領域や、オンラインだけでなくオフラインにも活用の幅を広げていきたいと考えています。

望田 LMIグループは、もともとは店舗の看板を設営する内装業から始まった会社です。リアルの商空間事業が発展する中で、2015年ごろからデジタルサイネージやビーコン、AIカメラなどのリテールテックの提供を始めました。リアルとデジタルの両方を手がける中で感じたのが、小売りのお客様はせっかく自社で持っている顧客データをビジネスになかなか生かせていないこと。世界の名だたる大手プラットフォーマーは顧客データという無形資産をマネタイズして成長した企業ばかりです。一方、リアルの小売業は、店頭のトラフィック、入店者の決済データといった豊富な顧客データを持っているのに、それをビジネスにする動きがなかったのです。

LMIグループ取締役副社長 望田 竜太 氏
LMIグループ取締役副社長・共同創業者
望田 竜太
早稲田大学卒業後、リサ・パートナーズにてPEファンド部門に所属。投資実行・投資先管理業務に携わる。その後、PwCコンサルティングの戦略チームに転じ、BDD、PMI、業務改革、新規事業創出、DX等、さまざまなテーマを経験し、2020年より取締役としてLMIグループに参画

一方、海外に目を向ければ、小売業が自社でリテールメディア(小売業が媒体社としてオンラインや店舗で提供する広告媒体)を持つ動きが始まっていました。リテールメディアは店頭で消費者の購買行動に近く、入店者データを分析すれば顧客の属性や行動に合わせた広告も打ちやすい。デジタル広告「第3の波」と評する人もいて、今後は日本でも広がる可能性を秘めています。ただ、リテールメディアは初期投資が必要なうえ、実店舗のお客様にはデジタルの知見が蓄積されていません。そこで私たちが代わりにリテールメディア「AdCoinz(アドコインズ)」を2023年11月からスタートさせました。

リワード型リテールメディアが新しい市場をつくる

──「AdCoinz」はどのようなスキームの広告なのでしょうか。

望田 大型書店チェーンの例をご紹介しましょう。書店の店頭にデジタルサイネージがあり、そこに英会話学校が広告主として広告を出稿します。来店者がデジタルサイネージに表示された英会話学校のQRコードを読み取ってSNS登録というアクションを起こすと、書店で使える500円分のクーポンがリワードとして付与されます。既存のリテールメディアは店舗に置いてある商品の販促に使われるケースが多いですが、それは既存の販促費が広告費に置き換わっただけ。「AdCoinz」は外部から広告主を連れてくることで新たな市場を生み出します。さらに、リアルな場に来ているユーザーを対象にしているので、広告主との親和性も高くなります。全体のスキームはビジネスモデル特許申請中です。

長谷川 広告は認知を目的としたものと、獲得を目的としたものがあります。認知目的でわかりやすいのは、デジタルサイネージなどの視認型。一方、獲得目的の1つの形がリワード広告です。小売店にとってリワード型のリテールメディアは、新たな収入源ができると同時に、クーポン発行などの効果で店頭の売り上げ増も期待できる。新たな収益を得ると同時に、既存の収益にもよい影響が出るところがポイントですね。

AdCoinzのビジネスモデル
AdCoinzのビジネスモデル

望田 リワード型にした理由はほかにもあります。もともと私たちは商空間事業でテクノロジーを使って効果測定をしていました。例えば某店舗では可変型什器でレイアウトをつくり、天井に設置したAIカメラで店内の人の行き来を測定しました。そして、どのレイアウトにすると行き来が増えるかを検証し、売り上げ増に結び付けた事例もあります。リテールメディアも効果測定できたほうがいいですが、視認型はその点がわかりにくい。一方、リワード型は広告効果がはっきりわかります。当社で行ったテスト検証の段階では、コンバージョン率はアフィリエイト広告と比較して3倍でした。

リアル広告で人の時間や移動を最適化する

長谷川 リワード型リテールメディアはすばらしい取り組みだと考えており、私たちも日々可能性を摸索しています。その中で、LMIグループより協業のお声がけをいただき、ご一緒させていただくことを判断しました。Skyfallの持つノウハウと、LMIグループが持つノウハウを掛け合わせることで、新たな市場の可能性を早期から検証していくことができると考えました。アフィリエイト広告市場が年4000億円の規模に対して 、リワード広告は年500億円とまだまだ伸びしろがあると考えており、リワード広告のさらなる発展に向けて、今回の取り組みを成功させたいと考えています。

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リワード広告の形態をリテールメディアで実現
実際に店頭に設置される「AdCoinz」の設備
実際に店頭に設置される「AdCoinz」の設備の一例

望田 リワード型リテールメディアは始まったばかりで、まずはいかにリード(見込み客)を獲得するかに注力しますが、すぐにリードの質が問われるようになるでしょう。「たくさん送客してくれるけど、みんな長続きしない」では広告主に支持されませんから。その点、Skyfallの「SKYFLAG」は、ユーザーが継続的にアクションを起こして初めてリワードが発生するロングCPEリワード型であり、リードの質が高い。そのノウハウを「AdCoinz」にも応用させてもらえたらうれしいです。

現在は小売りチェーン全店に同じ広告を配信する仕組みなので、広告主もある程度の規模をお持ちのお客様になります。ただ、将来は店舗単位で広告を打てるようにしたい。実現すれば、ある駅前スーパーのリテールメディアに、近所の小さな美容室が広告を出稿できるようになります。すると、例えばいつも行きつけの遠い美容室までわざわざ通っていたワーキングマザーが、「予約で1000円オフなら行ってみようかな」と試してみてくれるかもしれません。そうやって人の時間や移動が最適化されれば一人ひとりの幸せにつながり、地域でお金が回って地域経済も活性化します。私たちが描いているのは、そういった世界観。社会的意義の高い仕組みなので、しっかり広げていきたいと思います。

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