企業に伴走し100年「日本事務器」が見据える未来 老舗SIer、時代と共に変化し革新し続けた軌跡
日本のICT史と、ともにある「日本事務器」とは?
2024年2月に創業100周年を迎えたICTトータルソリューション&サービスを提供する日本事務器。1924年に日本事務器商会として創業し、キャビネット、タイプライタ、タイムレコーダ、貨幣計数器などの企業向け輸入事務機器の取り扱いからスタート。29年には国産第一号(出典:「日本事務器株式会社七十五年史」)となるビジブルレコーダバイデキス(顧客台帳などを管理するツール)を開発・発売。61年からは超小型電子計算機の取り扱いを決定し、80年以降は日本語ワードプロセッサーやパーソナルコンピュータなど、日本でもICT導入が始まる中、民間企業だけでなく、医療・福祉、学校、行政などの公共セクターにもシステム提供を開始した。
現在では、グループ従業員数1215名、売上高は306億円(2023年3月期)に上る。クライアント約8000社は、中堅企業が中心だ。
「私たちは関東大震災直後の焼け野原の中で起業した会社です。当時は情報を整理して格納するインデックス付きキャビネットを取り扱うなど、それぞれの時代に合ったツールを提供し、お客様の事業や経営のお手伝いをするビジネスを行ってきました」
そう語るのは同社代表取締役社長の田中啓一氏。創業者である田中啓次郎氏は祖父に当たる。1999年に入社後、2007年に社長に就任し、現在に至っている。
「当社では“ラストワンマイル”の立ち位置を大事にしています。通常はお客様から注文をいただき、製品を納入して、検収をいただいて完了となりますが、私たちはそこからがスタートだと考えています。私たちの大きなミッションは、お客様が製品を使いこなして、効果を出し、ビジネスの成長を感じてもらえるようお手伝いすることだと考えています。かつての導入後のサービスは保守メンテナンスが中心でしたが、今ではクラウド時代に対応し、SaaS(Software as a Service)をはじめとして新たな価値も提供するようになっています」
現在、ICT市場で大きなテーマとなっているのがDX(デジタルトランスフォーメーション)だ。DXは今や経営やマネジメントに欠かすことができないプロセスであり、企業ごとにトライ・アンド・エラーを繰り返しているのが現状といえる。
DXを加速させる「W×I×C」とは?
「基幹システムを含めて、すべてがDXの範疇にあります。しかし、本来はある目的のためにICTソリューションを活用するはずなのに、DXの導入自体が目的になっているきらいもあります。その中で、私たちはワークスタイル変革の必要要素としてW×I×Cというテーマを掲げました。W=Workplace、I=IT solutions、C=Change Managementといった要素を改善、意識して取り組むことで今以上にお客様に、つねに質の高いサービスをお届けすることができると考えています。また、不確実性の高い時代において、私たち自身も自らの考えに固執せず、Ring a Bell、つまり、頭の中でチリンと鐘が鳴るような、ひらめき、気づきを得られるように意識しています。そのため、社内にはつねに最新のテクノロジーに触れられる環境を用意し、お客様にひらめきを促すような提案をし続けたいと考えているのです」
田中氏は同社の長い歴史の中で、ICTの役割も大きく変化してきていると感じているそうだ。
「今までは、ICTの活用シーンは、仕事をした結果を集計し、管理するという事後処理が中心でした。しかし今は、商売そのものでICTが必要とされており、ICTがビジネスを主導していく方向にシフトしていることを忘れてはなりません。現在はICTの価値がフロントエンドまで広がってきており、さらに、将来は世界中の人が自分でプログラムを組んで仕事をする時代がやってくるかもしれません」
こうした激変する時代において、同社の強みはどこにあるのだろうか。田中氏は続ける。
「1つ目は当社には、100年の歴史の中で手がけてきた多くの案件により培われてきた課題解決能力があるということです。2つ目はさまざまな業種や業界に精通した知見を持っていること。民間企業をはじめ、医療・福祉、学校、行政などお客様ごとのニーズを的確に捉えてきた提案力があります。3つ目は広範なITニーズに対応できる技術力で、ITインフラ構築からセキュリティーまで幅広いITニーズをトータルでサポートすることが可能です。そして最後の4つ目は、システム発展を見据えたサポート力です。運用・保守はもちろん、再構築までを見据えたシステムのライフサイクル全般に対し、きめ細かなサポートが提供できるというのが、当社の強みです」
創業100周年、変化する顧客と時代に伴走し続ける
「この中で、最大の強みといえるのは、やはり業界ごとのお客様の悩みや課題を深く理解しようと努めていることが挙げられるでしょう。これはお客様と一緒に『どうなりたいか』を考える際に必要な要素の1つですが、そのときもコンサル的な立場ではなく、あくまでお客様と同じ目線で同じ方向を見ることにこだわっているのが特徴だといえます」
同社の拠点は全国に広がり、海外ではアジア地域の拠点として、シンガポールにも現地法人を開設している。今後も海外の案件に取り組み、日本の顧客が海外で展開する事業活動のサポートや、さまざまな課題改善のため、ITを活用し力になっていきたいという。
創業100周年を迎えた同社だが、競合が淘汰されていく中で、なぜ存続することができたのだろうか。その秘訣を田中氏はこう語る。
「私たちは、まだビジネスに必要不可欠とされていない時代からコンピュータを取り扱ってきました。昔の話ですが、当時ドル箱だった事務機器と比べれば、コンピュータは毎年赤字続きでした。しかし、実はこうした『既存事業』と『成長事業』に対し、もう1つ『創造事業』を加えて、まったく新しい分野にチャレンジしている状態こそが次への打ち手ができている状態だと考えています。既存事業と成長事業が互いに尊重し合うような雰囲気をつくりつつ、新たな創造事業を模索する。こうした打ち手をつねに講じていけば、次世代にも生き残る道を見つけられるのではないかと考えています」
また、同社の組織体制も、変化しながら革新を続けてきた。現場や拠点にかかわらずワンチームとなって動ける体制は、同社の強みでもある。
業種軸ではヘルスケア、民需、公共の部署に分けられており、職種では営業部門とシステム部門、アカウント(顧客対応)部門に分けられている。これらの部門が障壁なくコミュニケーションでき、ワンチームとして動けるように、トラブルも社内のSNSで逐次共有しているそうだ。
「かつては同じ拠点でも、職種間のコミュニケーションがなく、民需で当たり前にやっていることがヘルスケアでは思いつきもしないという状況になっていたため、今は縦割り組織をやめ、情報共有に力を入れています。また、お客様に対しては、営業部門、システム部門、アカウント(顧客対応)部門が三位一体となって対応することで、日本事務器として、つねにワンチームで動ける組織体制を構築しています」
働き方改革についても、コロナ禍以前の2017年からいち早くテレワークを導入しているほか、オフィス形態はフリーアドレス、コアタイムなしのフレックスタイム制を採用している。社内の個人認証ではウェアラブルデバイスを活用しており、ドアの開け閉めから交通費の精算、複合機でのプリント作業など、さまざまな場面で使用されている。また、災害時の安否確認も、こちらで一律管理しているそうだ。さらに同社では健康保険組合を自前で有しており、健康経営®にも積極的に取り組んでいる。
創業100周年を迎え、次のステップを見据える日本事務器。100周年記念サイトや社史も作成し、今年はステークホルダーに対し、感謝を伝えるイベントも開催していく予定だ。田中氏は今後もラストワンマイル、つまり、顧客との距離の近さを大事にしていきたいという。
「お客様のことを考えるときに、経営者、情報システム担当者、実際のシステム利用者という3種類のキーマンがいると考えています。これら3者の意見を、それぞれ深く聞くことを通じて、よりよいソリューションを提供していきたい。私たちはその時代ごとに価値のある会社でなければならないし、これからも時代ごとに必要とされる価値を提供していきたいと考えています」
※「健康経営®」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。