現場を変えるDX戦略 カミナシ現場DX FORUM 2023
企画協力:東洋経済新報社
基調講演
DXで目指す姿と現場のGAPを埋めるアプローチ
「DXが目指すのは、現実世界をデジタル空間に再現するデジタルツインの構築だ」とINDUSTRIAL-Xの八子知礼氏は語る。勘や経験に替わり、データを使ったデジタルツインで将来をシミュレーションした最適解をフィードバックすれば現実のビジネスを改善できる。ただし、この理想の実現には、まずペーパーレス化から始める必要がある。紙の帳票のままでは、データを分析できず、システムにデータを入力する作業も手間がかかる。ミスも起こりやすく、印刷、保管、輸送コストも発生する。また、紙の業務は属人性が高くなり、業務の効率性、品質を損なうおそれがある。
「人手不足で疲弊する現場が新しいことに取り組むにはペーパーレス化、クラウド化による作業リモート化で負荷を減らし、余力を持たせることが必要」とした八子氏は「すでにあるデジタル化のためのツールを積極的に導入すべき」と指摘。その投資を決断するためには「DXの効果を定量的に試算し、コスト削減効果を把握することが有効」と語った。
事例講演1
500店舗展開を目指すホテルチェーンの守りのDX戦略
国内外にホテルチェーンを展開するルートインジャパンの小名木義孝氏は「DXといっても何をするのか」というところから始まった取り組みを紹介。「専門用語に惑わされず、シンプルに考えることが大事」と振り返った。
同社はDXを攻めと守りに整理して、まず社内向けの守りのDXに着手。明確な目標と進捗管理を意識した。課題として、膨大な事務作業や複雑な業務プロセスが、ホテル店舗責任者の育成およびサービス品質統一の障害になっていたことから、紙の書類をデジタル化して業務を効率化することを目指してカミナシを導入。業務フローをクラウド化して簡素化することで、1店舗当たり1日5分の目標を大幅に上回る40分もの作業時間削減を達成した。成果がオンライン報告会で全社に共有されると、目に見える効果に手応えを感じた従業員からさまざまなDXのアイデアが出てくるようになった。「専門知識がなくてもDXはできると実感した従業員のモチベーション向上が大きい。今後は顧客向けのサービス向上を目指す攻めのDXにも挑みたい」。
事例講演2
検収・点検業務のデジタル化で事故・クレーム未然防止へ
製品検査や設備点検で使う紙のチェック表を、カミナシでデジタル化した産業機械メーカー、中央技建工業の上窪幸介氏は「導入前は成果が出るのか半信半疑だったが、今では当社に欠かせないツール」と語る。
紙は破損のおそれ、保管後の検索性のなさに課題があり、デジタル化を目指したが「当初はペーパーレス化に対する従業員の理解、デジタル化されたデータの活用に不安があった」ものの、まずは目前の課題に取り組むことで動き始めた。産業機械製品や社内設備の検査・点検などのチェック表をデジタル化すると、表計算ソフトへの転記などの工数を年間約400時間分削減できた。チェック表をカミナシで簡単に作成できるので、新たに設備機器の月次点検に導入すると、点検の抜け漏れが防げるようになり、故障件数が激減。工場内の安全チェックの項目にヘルメット着用ルールを加えて指導すると、着用率は3倍以上になり、安全意識が向上。効果は顕著だった。カミナシ自体の「使い方を説明するウェビナーやサポートも丁寧だったので容易にデジタルの帳票、点検表を作成できた。今後はISO書類などに活用の幅を広げたい」。
主催者講演
これからの時代に求められる現場改革とDX
DX時代といわれる今も、現場には紙の帳票をチェックするアナログな管理が残る。工場の現場で紙管理による非効率さを体験し、現場管理アプリを開発したカミナシの諸岡裕人氏は「人手のかかる管理が現場に押し付けられている」と感じている。
しかし、現場のデジタル化は、現場が主導しなければ進まない。とくにITに苦手意識の強い現場従業員には「わかりやすいツール」が必要だ。専門知識がなくても、用意されたパーツの組み合わせで現場管理アプリを作れるカミナシは有力なツールで、すでに1万を超える現場が導入している。
現場管理アプリは、指示とチェックを通じて正しい作業をナビゲートするためミスが減る。責任者の確認・承認作業も、紙をめくることなく数クリックで完了。記録データをまとめたレポートの自動生成もできる。
シフト制や外国人増加で現場の情報伝達が難しさを増す中、ITの進展で社内で使用するアプリの乱立も予想される。諸岡氏は「今後、従業員管理・社内コミュニケーション機能を搭載するアプリ開発を行い、現場管理がこれ1つで完結できるようにする」と語った。
パネルディスカッション
今こそ考える現場DXの本質
~企業を成長に導くための秘訣を探る~
八子氏と諸岡氏が、村山千代アナウンサーの司会で「現場DX成功のための3カ条」について語った。
1.「身の丈から始めて成功体験をつくる」。いきなり需要予測などの高度な取り組みは難しい。「まずはスモールゴールを目指す」(諸岡氏)。「DXの道のりは長い。息切れしないように小さな成功で人を巻き込む」(八子氏)ことがポイントだ。
2.「現場業務を理解する人が主体者になる」。現場自らが取り組めば「本社システム部の押し付けでなく、自分事化できる」(八子氏)。そこにIT知識のない現場の人でも使いこなせるシステムがあれば「事業会社のIT人材不足の状況も変わるかもしれない」(諸岡氏)。
3.「経営陣は徹底的にコミットすべし」。八子氏は「経営陣が現場に出てDX推進を言い続ける“錦の御旗”が大事」と指摘。諸岡氏も「DXは現場を覚醒させ、人材育成や、挑戦する現場カルチャーの醸成など、お金をかけるだけでは実現できないものを得られる」と経営陣に強力な後押しを求めた。