PwCあらたとPwC京都が統合で描く新ビジョン 「トラストサービス」の強化で社会課題に対応
「統合ありき」ではなく存在価値まで立ち返って検討
——新法人の前身となるPwCあらた有限責任監査法人(以下、PwCあらた)とPwC京都監査法人(以下、PwC京都)は、いずれも中央青山監査法人(以下、中央青山)を出発点として、両社それぞれ成長してきました。
井野 PwCあらたは、国際水準の監査を行いたいと考えたメンバーが、中央青山の業務停止処分を契機に2006年に立ち上げました。PwCのグローバルネットワークの価値を支持していただいた企業や金融機関の期待に応える国際水準の高品質な監査をするという思いを、愚直に貫いてきました。
鍵 PwC京都は、07年に設立しました。中央青山から名称変更された、旧みすず監査法人の京都事務所の大半のクライアントから、独立する形での出発に理解を得られたことが大きな後押しとなっています。人を大切に、丁寧なコミュニケーションでベンチャー企業から大規模なグローバル企業まで幅広く監査を提供してきたのが特徴で、IPOを目指す企業も数多く支援してきました。
——統合に至る経緯をお聞かせください。
井野 同じPwCのネットワークファームとして、これまでも人的交流やポリシーの共有を行ってきました。ただ、これまではそれぞれが単独法人として優先して取り組むべきことが多数あり、統合を検討する余裕はありませんでした。
22年2月から、少人数の執行メンバーで議論を始めましたが、最初は統合ありきの議論ではありませんでした。気候変動やデジタル化、地政学リスクの高まりといった課題がある中で、パンデミックを経験し、今後の経済社会の激しい変化に監査法人はどのように対応していくべきか、存在価値まで立ち返って深く考えようという問題意識が先にありました。
鍵 監査のデジタル化が加速し、サステナビリティ情報開示の議論が世界中で進む中で、監査業務の品質管理のあり方についての意見交換を含め、1年以上かけて議論を重ねてきました。激しい環境変化に対して基盤を分厚くしていくことにより、高品質なサービスを顧客に提供できるという結論に至りました。一緒に働くメンバーも、活躍できるフィールドが広がることで成長の機会が得られ、それがクライアントへの貢献にもつながると考えました。
社会の複雑化で重要度を増す「トラスト」の確保
——統合によって名称も一新されました。
井野 今回の統合は、どちらかに寄せるものではありません。両法人がそれまでの歴史を閉じ、それぞれの強みやいいところを持ち寄って新しい法人をつくっていこうという思いから、新たな名称を決めました。この名称には、PwCというグローバルなネットワークを活用できる日本で唯一の監査法人であることを簡潔明瞭に伝える意思を込めています。
鍵 職員には「全員が創業メンバーになる」とのメッセージを伝えています。「Japan」という大きな名前が冠になることで、より大きなチャレンジへの意欲も高まっていると感じています。
——具体的に、それぞれの強みは?
井野 PwCでは「社会における信頼を構築し、重要な課題を解決する」というパーパスを掲げています。PwCあらたは会計監査に加え、企業のビジネスに関するさまざまな報告の適切さや、企業サービスなどの安全性などを証明することで「信頼」を提供する、トラストサービスを展開してきましたが、これをさらに加速させたいと考えています。
一方、PwC京都はクライアントとの深い信頼関係を築き上げてきた歴史があります。新法人ではPwC京都が培ってきた経験を活かし、より深い信頼関係の下で、社会がクライアントに寄せる信頼(トラスト)がさらに豊かで確かなものになるようなトラストサービスを推進していくことで、私たちのビジョンをより早く確実に実現できるようになると考えています。
鍵 PwCあらたには会計士をはじめとするさまざまな領域の専門家が集結して多彩なアシュアランス業務を行ってきた背景があります。監査業務だけでなく、非監査業務にも高品質に対応できるPwCあらたのノウハウによって、提供できるトラストサービスの幅がさらに広がっていくと確信しています。
——統合後に目指す姿をお聞かせください。
井野 統合を発表してから組織間の交流を意識的に深めてきており、「非常に刺激になっている」という声がメンバーから多く寄せられています。今後、ボトムアップでさまざまなアイデアが生まれそうな手応えをすでに感じています。両者の知見を掛け合わせ、幅広い領域に深く入り込んでいきたいです。
鍵 財務・非財務情報だけでなく、ガバナンスや業務プロセスなど、幅広い領域でトラストサービスのニーズが広がっています。人が安心して暮らすために不可欠な「信頼できるもの」を世の中に保証できるよう、サービスを提供していきます。
監査法人の社会的な存在意義を全うするために
——30年までに、「統合されたアシュアランスサービス」の実現を目指すそうですね。
井野 社会の複雑性は、今後さらに増していきます。信頼できる情報がわかりにくくなり、混沌とした無秩序な時代が来るかもしれません。今後、AIを含むテクノロジーの発展や地球環境の変化など、より広範な領域で“信頼の空白”が生じると予想され、情報やデータの安全性・信頼性を確保する重要性は格段に増しています。この空白を埋めるため、私たちはアシュアランスサービスを進化させたい。今回の統合はその一つにすぎません。新しい時代の多様なステークホルダーの関心事にアンテナを張り、客観的視点をもって分析し研究する「トラスト・インサイト・センター」が活動を始めており、これは私たちの新しいレーダーになると期待しています。また、中期の取り組み例として、GPSやIoTなどで収集される改ざんされやすいデータの信頼性を確保するための研究も、外部機関と開始しています。
鍵 もちろん、監査の品質を高めることが一丁目一番地です。監査法人の社会的存在意義を全うし、あらゆるステークホルダーに「信頼」を提供したい。さらに、新たな不安に立ち向かうためには非監査の領域にも取り組む必要があると考えています。だからこそ、今回の統合によるシナジーを私たち自身も期待しています。
井野 予測不可能な変化に即応して社会課題を解決するトラストビジネスのリーディングファームを目指し、高品質の監査業務と非監査業務を両輪で進めていきますので、ぜひご期待ください。
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