半導体「三種の神器」に見るAIの新たな潮流とは? 日本企業を支えるオランダ発の半導体メーカー

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。NXPジャパン代表取締役社長の和島正幸氏
AI活用は生成AIの登場で大きく前進したが、もう1つ見逃せない動きがある。それはエッジAIだ。デバイスからデータを受け取ってクラウド上で処理する従来型のクラウドAIと違い、エッジAIはエッジ(システムの末端側)でAI処理を行う。この潮流が追い風になりそうなのが、半導体メーカーのNXPだ。NXPジャパン代表取締役社長の和島正幸氏に、エッジAI時代の半導体について話を聞いた。

非常に大きな位置を占めている日本市場

――NXPジャパンについて教えてください。

NXP Semiconductorsは、オランダのフィリップス社の半導体部門が2006年に分社した会社と、米国モトローラの半導体事業が2004年にスピンオフしてできたフリースケール・セミコンダクタが、2015年に経営統合してできた半導体メーカーです。それぞれの得意な製品群が一緒になっただけでなく、欧州と米国の企業文化が統合して、国を超えた動きをしていることが特徴ですね。

NXPジャパン代表取締役社長の和島正幸氏インタビューカット
NXPジャパン
代表取締役社長 和島正幸

当社では世界を6つの地域に分けて地域別売り上げを計上しています。その中でNXPジャパンはアジアの一部としてではなく、単独で本社に直接レポーティングしています。

単独の地域として捉えているのは、日本が重要な市場だからです。半導体市場全体で見ると日本の国内購買成長率は緩やかですが、日本企業が企画や設計において技術的に牽引しながら世界中で製造しており、当社の中でも引き続き非常に大きな位置を占めています。


――現在はどのようなセグメントで事業を展開していますか。

会社全体では、「オートモーティブ」の売り上げが約半分を占め、残りを「インダストリアル&IoT」「通信インフラストラクチャ」「モバイル」でそれぞれ約3分の1ずつを分け合っています。日本は「オートモーティブ」と「インダストリアル&IoT」、つまり自動車と産業機器の市場が大きくなっています。

NXPは車載半導体でトップクラスのシェア※1を持ち、日本においても自動車産業で大きなプレゼンスを持っています。インダストリアルでも同程度のポテンシャルがありますが、産業機器は少量多品種で、十分に参入しきれていませんでした。近年はようやく体制が整い、自動車分野と肩を並べられるように注力しているところです。

※1 Gartner, Market Share: Semiconductors by End Market, Worldwide, 2022

エッジAIでIoTを次のステージへ

――AIやIoTなどの需要増加により、半導体市場の売上高は2030年までに1兆ドル(1ドル=145円換算で約145兆円)に達するという予測があります※2

半導体市場を牽引するドライバーは、時代によって変わります。2000年代はPCや携帯電話、ゲーム機、10年代はスマートフォン、そしてクラウドサービスの基盤となるデータセンターでした。

20年代は、まさにIoTやAIの時代です。例えば私たちが得意としている自動車業界では、100年に一度のアーキテクチャ変革期を迎え、コネクテッド化や電動化、高知能化が進み、今後はさらに自動運転が広がるでしょう。このような高機能化が進むと、全体の生産台数が変わらなくても半導体の需要は大きくなります。産業分野でも、IoT化により工場全体がネットワークでつながり、かつAIによるインテリジェント化で、より精緻かつ効率的に物をつくる方向に行くことは間違いないでしょう。

※2 McKinsey & Company:The semiconductor decade: A trillion-dollar industry, 2022

半導体市場の波を牽引するマクロトレンドのグラフ

そこで注目したいのが「エッジAI」です。現在はデバイス側で取ったデータをネットワークでクラウドに送り、クラウド側のAIで処理をして結果をデバイス側に返す「クラウドAI」が主流です。例えば、スマートスピーカーがAIで音声認識して言葉を返すのも、話した内容をクラウドに上げ、クラウド側でAI機能を用いて判定し、感知されるという仕組みです。

しかし、生成AIをはじめ、AIの高機能化に伴い処理するデータ量が増え、ネットワークへの負荷が増すことで、遅延や転送コストの課題が生じるようになりました。

一方でAIは、アルゴリズムの簡素化やマイコン/プロセッサ※3のパフォーマンス向上により、クラウド側に置かなくてもデバイス側に組み込んで処理できる環境が整ってきました。デバイス側のAIで処理する仕組みをエッジAIといいます。

※3 コンピュータにおける演算や制御などの機能を1枚の半導体チップに集積したもの

――エッジAIにはどのようなメリットがあるのでしょうか。

まず、遅延が非常に短くなりリアルタイム性が増します。自動車の自動運転がよい例ですが、クラウド側とやり取りして判断を仰ぐより、レーダーなどのセンサー情報を自動車(エッジ)で高速処理することで、より安全性を高めることができます。

データセキュリティ面でも利点があります。データ情報はそれを盗みたい人と守りたい人とのいたちごっこの状態がつねにありますが、データをネットワークで伝送する回数が多いほど、盗まれるリスクは高くなります。データ情報をデバイス側に置き、クラウドやネットワーク上では改ざんできないよう管理したほうが、セキュリティは担保しやすくなります。

クラウドAIとエッジAIの概要図

エッジAIデバイスに必要不可欠な3つの要素

――これからの時代、半導体メーカーとしての貴社の強みはどのような部分になりますか。

当社は「マイコン/プロセッサのポートフォリオ」「コネクティビティのポートフォリオ」、そして「セキュリティの知見」に強みを持っていますが、実はこの3つはエッジAI機能を持ったIoTデバイスに必要不可欠な要素でもあります。

まず、当社のマイコン/プロセッサは、高性能なものから低価格なものまでさまざまなものがあり、統合している機能の違いなどバラエティも豊富です。幅広いポートフォリオの中から、必要な機能とコンピューティング性能、そして低消費電力のバランスが優れているものを利用いただけます。

一方、エッジ・デバイスは完全にネットワークが切り離されているわけではなく、デバイス間同士で、または上位側のネットワークとつながります。そのつながり方はWi-FiやBluetooth、イーサネット(Ethernet)などさまざまな技術に加え、国によっても異なる場合がありますが、NXPはそれらに対応できるコネクティビティのポートフォリオを持っています。

デバイスがネットワークにつながれば、より高度なセキュリティが求められます。当社はセキュリティに関して長年の実績を持ち、もともとローカルで堅牢性を担保する技術を持っていますが、ネットワークにつながると、後からつながったほかのデバイスのセキュリティまで担保する必要が出てきます。そこで上位側から包括的に管理するソフトウェアを開発し、ハードと一緒に提供しています。

――ものづくり企業にとっては心強い味方ですね。

「マイコン/プロセッサのポートフォリオ」「コネクティビティのポートフォリオ」「セキュリティの知見」の3つの要素は、エッジAIの“三種の神器”です。どこか1つに特徴のある半導体メーカーはあっても、3つそろっているところは多くありません。NXPは1社で3つの要素すべてに対応できると自負しています。当社CEOは「2020~30年はNXPの時代だ」と宣言していますが、私も同感です。

これまでプロセッサはA社、コネクティビティデバイスはB社、セキュリティチップはC社と、それぞれを選んで自分でシステムを立ち上げるお客様も多かったですが、NXPは3つの要素をターンキー・システムとして提供するシステム・ソリューションに取り組んでいます。システムとして導入いただければ、お客様は製品をより早いタイミングで市場投入できます。

日本のお客様にはぜひ世界のプラットフォーマーになっていただきたいし、それだけのポテンシャルがあると考えています。日本企業が世界市場で競争力を持って戦えるように、今後も全力でお手伝いしていきたいです。

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NXPジャパン代表取締役社長の和島正幸氏ポートレート
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