海外展開企業は必見、税務管理の意外な落とし穴 ルネサス エレクトロニクスの事例も紹介

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海外取引で思わぬ課税を受け、赤字に転落…といった事態を避けるために
昨今は海外に工場を持つ、EC(電子商取引)を通じて海外で販売するなど、さまざまな形で海外進出している日本企業が増えている。そんな中、海外進出している多くの企業が課題とするのが、消費税などをはじめとした間接税の問題だ。日本国内では、もっぱらインボイス制度が目先の対応事項となっているが、海外進出企業は、各国の課税当局に合わせた対応など気をつけなければならないポイントが多く、手続きを間違えれば課税によって赤字に転落するおそれもある。今回は国際税務に詳しいデロイト トーマツ グループの溝口史子氏とトムソン・ロイターの橋爪整氏、また税務管理改革に取り組むルネサス エレクトロニクスのアンドリュー・ブレイ氏に、グローバルの間接税に関する昨今のトピックや、適切な対応方法について聞いた。

免税が否認され、赤字に転落することも

――近年はコロナ禍によるEC取引の増加など、海外へ直接販売を行う企業も増えています。そうした企業が直面しやすい間接税のリスクについて、お聞かせください。

溝口史子氏(以下、溝口) 各国当局による税務調査で、間接税については主に「免税取引の否認」「課税漏れ」「帳簿類の保管の不備」「不正」の4つの指摘事項が目立ちます。それぞれリスクがありますが、中でも日本企業が注意しなければならないのは「免税取引の否認」でしょう。

EUでは、域内越境取引が免税になるシステムがあります。例えば日本からフランスに輸出して販売すると、日本でいう消費税であるVAT(付加価値税)がかかりますが、フランスからドイツやイタリアなどEU域内で国境を越えて輸出すると免税になります。

EU全域でビジネスをする日本企業は必然的に域内越境取引が多くなるので、免税が適用される前提で売り上げなどを立てているのですが、ここが落とし穴。帳票の不備がなくても、取引先の属性やサプライチェーン全体の構造によって後から免税が否認されることがあるのです。欧州の多くは間接税20%以上。利益率10%で黒字だった事業が後で免税を否認されると、売り上げの20%以上を追徴されて赤字に転落することも考えられます。

デロイト トーマツ税理士法人 パートナー 間接税サービス部門長 溝口史子氏
デロイト トーマツ税理士法人 パートナー 間接税サービス部門長 溝口史子氏
ドイツで税理士として勤務した経験を生かし、EU付加価値税法についての助言、諸外国の付加価値税制度および米国セールスアンドユースタックスについての助言を提供する。国際取引のコスト・リスク・ビジネスを考慮した各国間接税法の分析に基づくストラクチャリング案件に従事する。政府研究会委員として付加価値税の国際的な潮流に根差した消費税制度の改正提言も行う

近年、各国当局は課税を強化しており、課税リスクがさらに高まりつつあります。その動きの1つが、eインボイス(電子インボイス)です。2022年12月、欧州委員会が「デジタル時代のVAT(ViDA)」政策パッケージを公表しました。その中で欧州27カ国でのeインボイスの共通フォーマットによる発行が、28年からEU域内の免税取引に対して義務化されることが示されました。eインボイスは取引から4日以内の提出が求められる見通しです。これはCTC(Continuous Transaction Controls)モデルと呼ばれ、適時に即時的に管理することで不正を減らすことが狙いです。

eインボイスの導入で、税務コンプライアンスも変わります。日本の消費税制は、期中に記帳して年末に税務申告を作成するというサイクルですが、eインボイスは取引単位であり、即時性が求められます。日本はインボイス方式が導入されたばかりですが、世界ではeインボイス義務化の動きが広がりつつあります。そのことを海外でビジネスをする企業は直視しなければいけません。

グローバルな間接税ガバナンスの難しさ

――グローバルに事業を運営する企業は、実際、どのような点に税務管理の難しさを感じているのでしょうか?

橋爪整氏(以下、橋爪) トムソン・ロイターはグローバルでテクノロジーソリューションを展開しており、税務のソリューションはフォーチュン500のうち約400社にご利用いただいています。グローバル展開するお客様からは、税務に関するグローバルガバナンスに関するお悩みをよく聞きます。地域やビジネスユニットごとにサイロ化が起こり、管理が難しいというのです。

トムソン・ロイター ソリューションセールス部門長 橋爪整氏
トムソン・ロイター ソリューションセールス部門長 橋爪整氏
日本ヒューレット・パッカード(現 日本HP)、レクシスネクシス・ジャパンを経て現職。税務、貿易、リーガルを含む幅広い領域を統括するソリューション営業本部本部長として就任。グローバル企業や大学・官公庁における最新テクノロジーの活用や標準化の支援、コンプライアンス教育、KYC/KY3P、法規制対応におけるDX促進やリーガルリスクマネジメント領域で長年の経験を持つ。テクノロジー活用施策に従事し、国際化とともに加速する日本企業のデジタル化 、サステイナビリティやアカウンタビリティ向上に貢献

アンドリュー・ブレイ氏(以下、アンドリュー) 私たちルネサス エレクトロニクスは、日本の企業3社が統合して発足し、その後、米国2社、欧州1社の大規模な買収を経て、グローバルに事業を展開している半導体企業です。これまで、それぞれの拠点ごとに事業が展開され、独自のデータ管理が行われていました。税管理に関しても、かつては各拠点でシステムやデータが別々でした。間接税そのものは理論的に難しくないのですが、材料やお客様によって詳細が変わり、管理の仕方が非常に複雑でしたね。

ルネサス エレクトロニクス 情報システム統括部 統括部長 アンドリュー・ブレイ氏
ルネサス エレクトロニクス 情報システム統括部 統括部長 アンドリュー・ブレイ氏
ルネサス エレクトロニクスによるダイアログ・セミコンダクターの買収に伴い、現職に就任。製造、エンジニアリング、営業、総務、管理部門など幅広い分野をサポートするグローバルIT組織の指揮に携わる。また、組織を単一のグローバル企業へと変革する数多くのプロジェクトのリーダーとして、今のルネサス体制の構築にも貢献

橋爪 とくに間接税の処理ミスは、法人税とは異なり、企業の財務状況に大きな影響を与えてキャッシュフローの問題を引き起こす可能性があります。また、eインボイスに象徴されるように、今や税制はデジタルを前提としたものになっています。それに対して従来の新税制対応のように手作業で対応しているとミスが生じやすい。企業は間接税の正確な計算と報告のために、適切なシステムと専門知識を持つ必要があります。

アンドリュー  まさにeインボイスの対応は課題です。eインボイスは、各国から要請されているフォーマットが異なります。eインボイスは改ざん防止のためにタイムスタンプを押す必要がありますが、地域で時差があるのでグローバルで管理するのが大変です。1つのシステムのクラウド上で電子帳簿の管理をして、全世界で統一されたタイムスタンプを押すことが許容されるといいのですが。

溝口 世界の間接税の多くは1954年にフランスで始まったVAT制度に立脚しており、制度そのもののばらつきはあまりないのですが、執行が各国で異なります。現実的に日本本社の税務担当者が現地の税務をすべて把握するのは困難です。しかし、現地に丸投げするのもガバナンスに問題があります。リスクを可視化したうえでダッシュボードで管理して、申告書がきちんと提出されているかどうか、申告額はどうかといったポイントをチェックするところから始めるといいのではないでしょうか。

橋爪 これまで日本企業は国際税務において間接税をあまり重視してきませんでした。しかし、リスクが高まり続ける今、ガバナンス体制の整備と税制への迅速な電子的対応が急務です。地域統括会社に任せるのではなく、本社で子会社の情報を一元管理したり、海外シェアードサービスセンターで業務の一括処理を行うなどのアプローチが求められます。

間接税シフトの時代に求められる税務システム

アンドリュー 現在、当社ではビジネスの一元化を実現するため、1つの統合されたシステムに集約する「OneRenesas」プロジェクトを進行中です。ERP(統合業務システム)を中心に事業計画、営業、調達、財務、そして税務のシステムも、このプロジェクトで集約します。2024年内に運用予定ですが、運用が始まれば、各地域が同じシステムとデータソースを共有することになり、A国がB国の税務をサポートできるような機会も生まれるでしょう。

こだわったのは、標準化されたシステムを使うことでした。日本企業はカスタマイズしたシステムを使う傾向がありますが、世界中の税務当局はつねにルールを変えており、標準化されたシステムを使用することで、迅速かつ簡単に最新情報を取得することができます。

溝口 完全に同意です。22年の日本の消費税収は23兆円超で過去最高の税収となったように、現在、世界の税収は直接税から間接税へとシフトしています。これは当局が関心を寄せる税務コンプライアンスの中心が間接税に移ったことを意味しています。実際、各地の当局は頻繁に間接税の制度改正を行うようになりました。そのときシステムの中にマスターデータを持ってしまうと、制度改正のたびに改修が必要になってしまう。そうではなく、つねに各国の税制をモニタリングしてデータベースにしているクラウドのシステムを導入したほうが、早く対応ができるし、改修のコストも抑えられます。

アンドリュー 今回のプロジェクトは、ジェネレーションジャーニー、つまり次世代まで何十年先も使うことを視野に入れて進めています。一方、未来を予測することは容易ではありません。税制はもちろん、市場や私たちの扱う製品も変化している可能性があります。だとすると、テクノロジーに強い基盤を持ち、変化に対応できるシステムが欠かせません。その観点で今回税務システムとして導入したのが、トムソン・ロイターの「ONESOURCE」でした。

橋爪 トムソン・ロイターは間接税のソリューションとして、間接税計算エンジンの「ONESOURCE Indirect Tax Determination」と、コンプライアンスを管理する「ONESOURCE Indirect Tax Compliance」をラインナップしています。 情報の鮮度とカバレッジの広さが特徴で、204カ国の税制の最新動向をキャッチアップしたうえで情報データベースを構築、コンテンツをお客様にご提供しています。導入に関しては、日本語対応可能なプロジェクトマネージャーと各国の税制に対応したソリューションの導入経験が豊富なグローバルチームとの連携により、グローバル単位での開発・運用・ビジネスプロセスの最適化をお手伝いしています。

私たちのミッションは、海外事業を拡大する日本のお客様が、各国の複雑な間接税制度への適応を含め、税制への効率的な対応を通じて事業の成長に集中できるようサポートすることです。日本企業にとって海外市場の持つ意味は今後さらに増してくるはずです。これらのソリューションを通じて、今後もグローバルに事業を展開するお客様のコンプライアンスに関わるリスクを減らし、業務負担を軽減するお手伝いをしていきたいですね。

グローバルな間接税対策・税務管理を強化するツールはこちら

溝口氏、橋爪氏、アンドリュー氏
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