非鉄大手「技術のフジクラ」の持続的成長戦略 老舗企業成長のカギは「人財戦略と進取の精神」

拡大
縮小
フジクラの岡田直樹取締役社長のポートレート
電線や光ファイバーを中心に、エネルギー・情報通信分野で事業を展開してきたフジクラ。2023年5月に発表した中期経営計画ではアグレッシブな目標を掲げ、さらなる飛躍を目指している。それに合わせて人材採用も強化中だ。同社ではどのようなことに挑戦できるのか。岡田直樹取締役社長CEOと社員2名に話を聞いた。

1885年創業のフジクラは、創業者の藤倉善八が銀座でアーク燈(とう)を見たときに「これからは電気の時代」と確信して立ち上げたのが始まりだ。同社には当時から引き継がれているDNAとして、技術へのこだわりがある。2022年4月に就任した岡田社長は、その理由を次のように振り返る。

「私が入社した1986年当時から、当社の事業は旧財閥系が競合相手で、企業規模や資金力では到底かないませんでした。自分たちが勝ち残るには、技術で勝負するしかないという認識が強く、みんなで技術力の向上に励んできました。当時の気持ちをもう一度思い返し、『技術のフジクラ』にいっそう磨きをかけていきたいと考えています」

フジクラ取締役社長CEOの岡田直樹氏インタビューカット
フジクラ 取締役社長CEO 
岡田直樹

「技術のフジクラ」と同時に創業時から引き継がれていたのが「進取の精神」である。経営戦略上では具体的に何を指すのか。

「中期経営計画では、『情報インフラ』『情報ストレージ』『情報端末』の3つを核心的事業領域として位置づけました。高度な情報化が進む現代社会では、この3つの領域でのイノベーションが不可欠で、私たちの技術で貢献できるところが大きい。当社は進取の精神で、これらの領域の変革に貢献していきます」

中期経営計画で発表した『情報インフラ』『情報ストレージ』『情報端末』の3つの核心的事業領域の概念図

通信量の増大が見込まれる情報インフラ領域では、同社がこれまで培ってきた光ファイバーの技術力を発揮できる。また、データセンタ事業などの情報ストレージ領域では、CPUを冷却するサーマルデバイスの技術に強みがあるという。さらに情報端末領域では、CASE※1時代を見据え、自動車を情報端末の1つと捉えた開発を進めている。社会の変化に対して、つねにそれを後押しする技術を提供してきているのが同社の特長だ。

※1 Connected(コネクテッド)・Autonomous(自動運転)・Shared & Services(カーシェアリングとサービス)・Electric(電気自動車)の頭文字をつなげた造語

「自発的に動く人」が活躍できる環境を整備

同社は中期経営計画で、2025年度の営業利益率10.3%、自己資本利益率16.5%など、いずれも高い数値目標を掲げた。「勝てる事業に経営リソースを集中させてメリハリのある事業を展開すれば、おのずと達成できる」と岡田社長は自信を見せる。発表直後、株価が急上昇して年初来高値を更新したのも、高い数値目標に加え、それを裏付ける事業計画がセットになっていたからだろう。

計画どおりの成長に欠かせないのが人である。岡田社長はこう語る。

「人は財産です。成長のためには、経営戦略と人財戦略をこれまで以上にリンクさせる必要があります。中期経営計画で掲げた事業拡大を実現するには、まず基盤となるコーポレート部門のレベルアップが欠かせません。

また、中長期的には事業家の育成も重要です。継続的な成長には新しい事業の創出が求められますが、それには技術開発だけでなく、技術を収益化させて、技術開発に再投資するサイクルをつくれる人財を育てていかないといけません。例えばエンジニアでも、自ら事業開発したいというマインドを持った人は活躍のチャンスが大きいと思います」

青空とフジクラ本社のロゴ写真

職種を問わず求めているのが、「やらされ感ではなく、モチベーション高く自発的に動く人」だという。

「3年前から、若手社員を対象にアイデア募集を行っています。新規事業開発や既存事業改革のアイデアを募ってプレゼンテーションをしてもらい、採用されれば実際に従事してもらう制度です。特徴は、上司を通さずに直接応募できること。やりたいことがあって自ら動ける人には、存分にその思いを遂げるチャンスを提供したい。

プレゼンテーションの際には『なぜその事業が世の中に受け入れられ、結果として利益が得られるのかという戦略ストーリーを描いてきてほしい』と伝えています。すでにこの制度で新しい挑戦を始めた社員もいて、社内でも注目度は高いです」

人財戦略を強化させた先には、どのような未来が待っているのだろうか。中期経営計画で示したビジョンの1つが「Beyond2025」だ。同社は持続可能な社会の実現に向け、カーボンニュートラルに寄与する先進的な技術開発に取り組んでいる。

例えば超電導線材は核融合の実用化に欠かせない部品であり、同社の高温超電導線材は世界の核融合スタートアップ企業から多くの引き合いが来ている。さらに直近ではEV(電気自動車)に急速充電する技術も注目されており、世界のEVシフトへの貢献が見込まれている。

「カーボンニュートラルに貢献する当社の技術は、社会に与えるインパクトが大きく、私たちにとっても大きなビジネスチャンスです。事業を通して社会的課題を解決し、それがまた事業の成長につながっていく。そのことに意義や喜びを見いだす人と、未来のフジクラを一緒につくっていきたいです」

製品開発の当事者として開発と研究を両立

フジクラの主力製品の1つにファイバーレーザー※2がある。その開発担当として活躍する髙橋明理氏は2015年、総合電機メーカーから転職してきた。自身の専門を生かしながらも仕事の幅が広がったことを実感しているという。

フジクラ  光応用技術R&Dセンター   レーザフォトニクス研究部  主席研究員 髙橋明理氏
フジクラ 
光応用技術R&Dセンター  
レーザフォトニクス研究部 
主席研究員 髙橋明理

「前職では接着専門の部署に所属し、幅広い製品の接着を担当しましたが、現在はファイバーレーザーの設計者・開発者として接着を担当しています。製品の当事者として、広く開発に取り組める点にやりがいと面白さを感じています」

ファイバーレーザーはエネルギー効率がよく、SDGsの観点からも注目されている。

「ファイバーレーザーはさまざまな技術や総力を結集してできるもの。新たな課題が見つかると、それを解決するために新たな技術が必要になります。日常的にある新たな発見が、モチベーションにつながっています」

そんな髙橋氏は会社の制度を利用し、大学院の博士課程に入学。通常の開発業務と並行してレーザー用光部品の精密接着技術に関する研究を行い、博士号を取得した。

「今後は蓄積した知見や技術を当社のほかの製品にも役立てたいです。働くうえで、会社の利益に貢献していくという使命はもちろんありますが、当社には業務を通じて自分自身が持続的に成長できる環境や機会があるとも感じています。両者のバランスを大事にしながら、これからも技術開発への挑戦を続けていきたいです」

※2 光ファイバー(透過率の高い石英ガラスやプラスチックなどで作られた光の伝送路)に光を通し、特定の波長の光を増幅させることで、小型、高効率、高出力を実現できるレーザーの一種

若手のモチベーションを上げる大きい裁量権

光ファイバーケーブル※3でも世界をリードするフジクラ※4。その開発を担う新卒入社5年目の前原直也氏は、仕事の醍醐味をこう語る。

フジクラ  情報通信事業部門  光ケーブル事業部 光ケーブル開発部 アソシエイト 前原直也氏
フジクラ 
情報通信事業部門 
光ケーブル事業部 光ケーブル開発部
アソシエイト 前原直也

「一口に光ケーブルと言っても、お客様によって求める製品は仕様も材料も異なるため、ご要望に応じて開発と試作、調整を繰り返していきます。初めて自分で担当したときはなかなかうまくいかず、何度も改良を重ねました。

求められた性能を満たす製品ができたときはうれしかったです。今でも自分が担当したケーブルが無事、開発完了になると、まるで自分の子どもが世の中に羽ばたいていくような達成感を感じます」

エンジニアとして働く前原氏は、フジクラで働く魅力についてこう話す。

「魅力の1つは若手でも裁量権が大きいこと。目標値に到達する道は1つではなく、どの道で行くかは若手でも自分で選べますから、試行錯誤そのものが楽しく、自分のアイデアが反映される手応えがあります。また、当社で国内最大規模の佐倉事業所には、国内外のお客様が数多くいらっしゃるため、ここで働いているとその声を直接聞けるのもありがたいです」

そんな前原氏は現在、新たなチャレンジをしているという。

「新規事業プロジェクトの話を聞き『面白そう!』と思って志願しました。社長へのプレゼンテーションなど、通常業務とはまた違う経験をしています。部門横断のチームで活動し、このチームで新しいものを生み出すのが、今の私の目標です!」

キャリア採用後にフジクラで歩みを続ける技術者や、若手技術者に宿る「進取の精神」。同社の環境で臨むチャレンジの連続が、老舗企業の成長と多角的な事業を支え、「技術のフジクラ」をより確固たるものへとしていくだろう。

⇒フジクラの新卒採用はこちら

⇒フジクラのキャリア採用はこちら

フジクラの髙橋氏と前原氏のポートレート

※3 光ファイバーを複数束ね、より大容量の光(情報)を通すもの。主にインターネット回線に用いられる

※4 光ファイバーの接続に必要な光ファイバー融着接続機で世界シェアトップ(同社調べ)

お問い合わせ
フジクラ