J&J社長語る「メドテックの未来を拓く覚悟」 人生100年時代、人々の健康への主体性促す
代表取締役社長
玉井 孝直 Takanao TAMAI
1971年生まれ。精密機械メーカーを経て、2000年ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社 メディカル カンパニー入社。ファイナンス担当バイスプレジデント 兼 CFO、アジア太平洋地域エチコン事業バイスプレジデント等を歴任。18年よりジョンソン・エンド・ジョンソン代表取締役社長 兼 メディカル カンパニー 代表取締役プレジデント
「壁に掲げられた理念」ではない、全社員に浸透する不変的な信条
――貴社の歴史と事業についてお聞かせください。
玉井 創業の起源は米国の南北戦争時代にさかのぼります。当時、多くの負傷兵が傷の治療後に細菌感染で命を落としていた状況を受け、ジョンソン3兄弟が殺菌済み外科用包帯の開発に力を注ぎ、大量生産を始めたのです。「人々の尊い命を救い、健康を支えたい」という創業者の思いは、今も当社のイノベーションカルチャーとして根付いています。グローバル全体で研究開発に注力している点が特徴で、2022年は売上高の約15%を研究開発費に充てました。日本では1961年に事業をスタートし、現在は医薬品、医療機器、コンタクトレンズなどの事業を展開しています。
――グループ全体の共通理念があるそうですね。
玉井 当社には、43年に起草された「我が信条(Our Credo)」という経営の羅針盤があります。企業理念・倫理規定として、「顧客」「社員」「地域社会」「株主」に対し、企業として果たすべき役割を明記してあります。
特徴的なのは壁に掲げられた理念ではないということです。例えば、年に1回、世界13万人の社員を対象に「クレドー・サーベイ」を行い、「我が信条」を実践に落とし込めているかを調査のうえ、結果を基に改善のためのアクションを決めてよりよい組織づくりに向けて継続的に取り組んでいます。こうした取り組みも浸透の後押しとなり、起草から80年間変わらずに、世界に広がるグループ各社の社員一人ひとりが、製品開発から社会貢献活動まで、「我が信条」に基づいた行動を徹底しています。
製品の提供を超えて健康課題の解決に取り組む
――メドテックとは。
玉井 メドテックは病気、症状、怪我、障害などを診断、治療、観察、管理、緩和するために必要な医療機器・器具、テクノロジー、デジタル、ソフトウェアプラットフォーム、サービス、ソリューション、治療法など幅広い領域のことを指します。
当社は、製品の提供にとどまらず、メドテック企業としてさまざまな角度から世界が直面する健康課題の解決に取り組んでいます。今後もソリューション志向とイノベーション志向の両輪で、予防から治療後までトータルで人々の健康に貢献し、メドテックのリーディングカンパニーを目指していきたいと考えています。
――メドテックを象徴する、主な取り組みを教えてください。
玉井 主に4つの領域「啓発活動」「医療従事者向けエデュケーション」「製品」「ソリューション」に関する具体例をご紹介したいと思います。
「啓発活動」では、例として、全国1万5000人を対象に「健康診断・人間ドック、がん検診等、医療受診に関する意識・実態調査」を実施しました。20年以降、コロナ禍による受診控えが起きたことを受けて、必要な医療や治療へのアクセス機会を逃さず、ご自身の健康を守っていただくためです。今後は、より多くの方がヘルスリテラシーを身に付け、主体的に医療・健康に関われるようサポートすることを目指す取り組みに力を入れていきます。
「医療従事者向けエデュケーション」では、当社製品の医療機器の安全・適正な使用のため医療従事者向けのトレーニングに注力しています。手術室などを再現した環境で実施する、実践的な操作トレーニングや、VR・ARを駆使したプログラム、世界の第一線で活躍する医師から遠隔で手術指導を受けられるプログラムなどを提供しています。
「製品」として代表的なものは、整形外科領域の手術支援ロボットです。高齢化の進行で、傷んだ膝関節を人工関節に取り換える人工膝関節全置換術の症例数は日本でも過去10数年で約1.4倍になり、医療体制に負荷がかかると予測されています。そこで、医師の手技・知見を含めた手術のワークフローに調和しながら工程削減をアシストする製品を開発しました。
「ソリューション」では、脳と心臓の両面から脳卒中を予防する取り組み「脳心連携」に力を入れています。脳卒中の原因に心疾患があることはまれではなく、脳外科と循環器内科による「脳心連携」が強化されることで、より多くの患者さんを脳卒中から救うことが可能になります。当社では両領域の事業部の協働により、啓発活動やセミナーを含めたソリューションの提供を展開しています。
人生100年時代の責任と使命、DE&Iと健康経営を革新の基盤に
――人生100年時代における貴社の役割とは。
玉井 高齢化が進み続ける日本では、医療費の適正化が課題の一つとなっています。それを解決するには、一人ひとりが適切な医療・健康に主体的に向き合うことも必要です。さらに、新型コロナウイルス感染症を契機に、医療・ヘルスケアへの期待は急速に高まっています。こうした変化はありながらも、当社はこれまでどおりつねに患者さんを中心に、医療従事者と連携しながらすべての人と信頼を築くことを重視していきます。そして、患者さんや医療従事者が今抱えている、将来直面するであろうニーズに応えるためのソリューションを提供するため、メディカルテクノロジーをリードしたいと考えています。
環境変化のスピードはますます速くなり、顧客のニーズも変わり続けますが、すべてのステークホルダーへの責任を果たし続けるためには、つねに新しい発想を取り入れ、イノベーションを起こし続けなければなりません。そのためにも、多様な価値観や背景を持つ社員が、その能力を最大限発揮できるように、心身ともに健康な状態でいられる環境づくりにも尽力するとともに、今後もダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DE&I)と健康経営®(ヘルス&ウェルビーイング)を重要な戦略に位置づけ、社員と共に取り組みを続けていきます。
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