適切な睡眠は6~8時間
不足も過剰もリスクの元に
仕事の能率と健康を損ねる睡眠不足
そもそも人はなぜ眠るのか。「実は、まだ完全に解き明かされていません」と、日本大学医学部精神医学系主任教授の内山真氏は打ち明ける。「ただし、人にとって睡眠が大切なことは事実です。私たちは、夜に眠ります。産業革命以降、ぐっすりとひとまとまりで眠るようになりました。一晩の睡眠の量が足りなかったり、質が悪かったりすると日中に眠気や不調感が出現し、作業効率が落ち、十分な能力を発揮できなくなります」と内山氏は説明する。
日中の眠気は気合いで乗り切れたとしても、仕事のパフォーマンスが下がるとなれば、ビジネスパーソンにとっては一大事。しかも、「睡眠不足や不眠が続くと、高血圧、高脂血症、糖尿病などに罹るリスクが高まり、憂うつ感、イライラなど心の健康も損ねかねません」と内山氏は長期的な影響も懸念する。

では一体、一晩で何時間眠るのが適切なのか。内山氏は「1990年代以降の研究では、最も健康に良いのは6時間以上8時間未満くらい。年齢が高くなるにつれて、睡眠時間は短くなる傾向にあり、25歳くらいで約7時間、45歳で6.5時間、65歳になると6時間くらいが適切」という。眠るために床に就いている(寝ている)時間が長くても、眠りが浅くなる。「長く寝床で過ごしているのに日中スッキリしないという人は、大抵、横になっている時間が長すぎていることが原因です。人の体は適切な時間以上には眠れません。110万人以上を対象にした米国の調査では、睡眠時間が短すぎても、長すぎても死亡リスクが高まるという結果が出ています」と内山氏は指摘する。
注意したいのは、仕事に対するモチベーションが高い働き盛りの人。仕事に責任が求められ、自分自身もやっている業務が好きで楽しんでいるという人ほど、眠る時間を惜しんで仕事に没頭しがちだ。しかし、短い睡眠時間で乗り切れるのは、20代まで。若いほど、まとめて眠ることができるので、一週間くらい睡眠不足が続いても、週末にたくさん眠って補うことができる。ところが、30代以降、とくに40代に入るとまとめて眠ることが難しくなり、少しの睡眠不足でも、それを解消するのに何日もかかるようになる。
「睡眠不足が慢性化すれば、週末に丸一日眠ったくらいでは回復できないことも多々あります。また、一晩徹夜した後の日中のパフォーマンスはビール大ビン1本を飲んだときと同じくらいに低下するという研究データもあります」というだけに、睡眠を削るのは仕事が立て込んでいてどうにもならないときのみに止めておくのが賢明だろう。