出光興産流・DE&I「社長直下で推進」の本気 なぜ女性役職者が少ないのか?など徹底議論

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左から御厨(みくりや) 千恵  調達部企画課長、岡崎 淳子 中国支店長、山本 洋 先進マテリアルカンパニー 技術戦略部次長
1911年に石油販売業をスタートした出光興産。事業の大部分が化石燃料に関連している。世界がカーボンニュートラル社会の実現を掲げる近年、業界の大変革期を乗り越えるイノベーションを創出しようと、DE&I (ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)を経営戦略に位置づけ、「DE&I推進委員会」を設立した。社長の諮問機関であるこの委員会では、具体的にどのようなことに挑戦しているのか。委員会のメンバーを務める3名に聞いた。

経営トップ直下の委員会を設立
DE&Iへの本気度を示した

出光興産が経営戦略にDE&Iを位置づけたきっかけは2つある。1つは、2019年に行った昭和シェル石油との経営統合だ。異なる文化を持つ両社の力を最大限に発揮するため、多様性を生かす組織づくりが急務とされた。

もう1つは、カーボンニュートラル達成に向けた事業ポートフォリオの転換を戦略に掲げたことだ。そのためにはイノベーションが不可欠であり、「多様性を尊重して個を生かす経営」へとアップデートする必要があった。

こうしたことから、21年10月に社長直下の組織「DE&I(当時D&I)推進委員会」(以下、委員会)を設立。委員長には丹生谷にぶや晋副社長が就任し、アドバイザーとして女性の社外取締役が参加。多様なバックグラウンドを持つメンバー7名を集め、月に1度、討議の時間を設けている。

岡崎 淳子 中国支店長
岡崎 淳子
中国支店長

委員の一人で、全国8支店で唯一の女性支店長である中国支店長の岡崎淳子氏は、設立当時をこう振り返る。

「経営陣の本気度を感じました。女性活躍や広義の働き方改革、LGBTQ+、障害者雇用といった幅広いテーマでDE&Iに取り組み、多様性豊かな組織に生まれ変わろうという経営陣の考えには、とても共感しました」

委員会に参加したことで
組織の一人として視野が広がった

海外駐在経験を持つ山本洋氏(先進マテリアルカンパニー技術戦略部次長)も委員の一人。委員会の設立当初はシンガポールに駐在していた。

山本 洋 先進マテリアルカンパニー 技術戦略部次長
山本 洋
先進マテリアルカンパニー
技術戦略部次長

「シンガポールは多民族国家で、複数の宗教に合わせた祝日が設けられていたり、学校で他国の文化を体験する機会があったりと、多様性の尊重が文化として根付いています。ビジネスの現場でも同じで、互いを尊重し合う姿勢が確立されていることを感じました。日本でも、DE&Iの実現に向けてまず個を理解し、受け入れる文化が必要だと感じました」と語る。

一方、女性社員として課題を感じていたと話すのは、御厨みくりや 千恵氏(調達部企画課長)だ。

「入社後、製造技術部門に配属され、現場経験も積みながら役職者までステップアップしましたが、後に続く女性役職者が何年も出ませんでした。業務の特性上、現場に駆けつけて経験を積む社員が評価されやすくなりますが、無意識に女性社員への配慮が働いてしまい、現場に行くのは男性社員であることが多い。こうした、周囲の無意識のバイアスの是正も必要ではないかと感じていました」(御厨氏)

委員会はこのように、委員それぞれが課題を持った状態でスタートした。

「アドバイザーの『“変える”をデフォルトにしましょう』という言葉がとても印象的でした。それを機に、固定観念を払拭し、会社に大きな変化を起こすような提案をしようという発想に変わりました」(山本氏)

「委員会への参加が、会社全体を考えるきっかけにもなりました。優秀な人材に選ばれ、全員が生き生きと活躍する会社であり続けるためにも、社員一人ひとりが視野を広く持たなければいけないと気づきました」(御厨氏)

なぜ女性役職者が少ないのか?
具体的なハードルを徹底議論

こうして21年10月に始まった第1期委員会では、性的マイノリティーに対する理解や男性育休の取得推進について検討した。22年10月に始まった第2期委員会では、女性のリーダーを増やすための議論がスタート。女性社員の側に立った議論に徹底的にこだわり、女性社員向けに実施したアンケートの結果を基に議論を始めた。

すると浮かび上がってきたのが、「女性社員が役職者になりたがらない」という傾向だ。その理由には、「長時間労働が必要になる」「上位職者からの指示に即時対応が迫られる」「転勤を断れなくなる」「女性だから役職者になれたと思われたくない」などがあった。「固定化された『役職者』のイメージを払拭することが不可欠だと気づきました」(岡崎氏)。

委員会の女性メンバーは、自分自身や部下の事例を挙げながら、女性が役職者になろうとしたときに直面する課題を率直に語った。委員長をはじめ男性メンバーは、質問を繰り返しながら徐々に理解を深めていったという。

御厨(みくりや) 千恵  調達部企画課長
御厨みくりや 千恵
調達部企画課長

「男性のメンバーが、女性社員の置かれている状況を深く理解しようとしていることに胸を打たれました。私もそれに応えるべく、現実を伝えるために一生懸命でした」(御厨氏)

「ほかの社員にも委員会の様子を見せたいと感じるほど、熱の入った真剣な議論が展開されました。女性活躍に関する課題は、性別によらず若手社員も感じていることであり、つまりは社内風土改革が必要だと気づけたことも大きな収穫でした。また、議論が行き詰まったときには、アドバイザーから示唆に富んだ助言を受けました。これまでの経験や試行錯誤されてきたことを踏まえたアドバイスだからこそ、説得力があったと感じます」(岡崎氏)

「委員会の議論を通して、女性社員の声を本質的に理解できたように思います。議論の場は熱量が高く、全員が職位を超えて真剣に意見を交わしており、多様性豊かなチームの価値を感じました」(山本氏)

社員の「パブリックコメント」を基に
社内制度変更のトライアルを具体化

委員会の特徴として、委員会から提言を行い、それに対して社員からアンケートで意見を募る「パブリックコメント」方式を用いている点がある。御厨氏は「新しい方針ができたからといって、DE&Iの風土が浸透するわけではありません。まずは、社員一人ひとりに考えてもらおうという狙いで採用した手法です」と説明する。

2023年4月には、それまでの議論を取りまとめ、委員会から約5000人の社員に向けて「5つの提言」を発表した。

例えば「制度見直しの前に柔軟にトライアルを」の提言には、「望まない単身赴任の解消」が具体策として挙げられ、社員から好意的な反応があった。これを受け岡崎氏は、中国支店で単身赴任を解消するというトライアルを実施している。

「中国支店の販売担当は広島県に住むべきだという思い込みを取り払うべく、家族がいる自宅を拠点にして働くトライアルを実施中です。今のところ業務に支障はなく、案外できるものだとわかってきました」(岡崎氏)

「5つの提言は職場風土や運用の要素であり、ルールがない中での活動です。それを明確なメッセージとして打ち出すには制度化も必要だと考え、人事制度の変更も並行して検討しているところです」(山本氏)

5つの提言

第1期に実施した男性育休に関するパブリックコメントは、推奨育休(特別有給休暇)制度のトライアルへとつながり、取得率は21年度の59%から22年度は84%へと、一気に向上した。

同社の取り組みは、「なでしこ銘柄」選定という成果にもつながっている。異なる背景や知識・経験を持つ人が交流し化学反応を起こすことで、イノベーションを生み出そうとしている出光興産。社員の個性を尊重し、新たな価値を共創できる企業として生まれ変わりつつある同社のDE&I施策からは、多くのことを学べそうだ。

出光興産のDE&Iについて詳しくはこちら

DE&Iは、経営戦略そのもの

――DE&I推進委員会の活動を通して得られた手応えを教えてください。

丹生谷(にぶや) 晋  代表取締役副社長
丹生谷にぶや
代表取締役副社長

「パブリックコメント」の実施により、DE&Iに対する社員のポジティブ・ネガティブ両方の意見を収集し、さまざまな課題を把握できたことに手応えを感じています。例えば、Equityという考え方については、まだ全社員が正しく理解し、行動に移すレベルには至っていません。私たち経営層も繰り返し社員に語りかけ、行動で示していく必要があると感じています。

――今後、委員会はどのように展開・発展させていきますか。

委員会では、これまでLGBTQ+、男性育休、女性の活躍・登用に向けての職場習慣の見直しや役職者像の多様化といったテーマに取り組んできました。熱量の高い議論を交わすことで、組織風土の変化に寄与しつつあります。今後は、あえて属性を絞り込まず「社員一人ひとりが活躍する組織風土へ」という、より大きなテーマに発展させていきたいと考えています。

 
DE&I推進委員会の主な役割・機能