AI時代の経営が「持続可能に変わる」ための条件 勝負は「まず自社が実践してみる」姿勢で決まる

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日本アイ・ビー・エム 執行役員 IBMコンサルティング事業本部 ビジネス・トランスフォーメーション・サービス事業部長 最高情報セキュリティ責任者 川上結子氏、ウイングアーク1st 執行役員 営業本部 本部長 森脇匡紀氏
気候変動や地政学リスクといったサステイナビリティー課題が複雑多様化してきた。ビジネスにも大きな影響が出ており、サステイナビリティーを経営に織り込むことが求められている。しかし、その重要性は理解していても、具体的な取り組みにつなげられていない企業は多い。収益向上につながるビジネスモデル変革を成し遂げるにはどうすればいいのか。長年連携してサステイナブル経営の支援に取り組んでいる、日本アイ・ビー・エム(以下、IBM)とウイングアーク1stの執行役員に話を聞いた。

サステイナビリティーへの意欲と結果に大きな差が

――サステイナビリティーはビジネスシーンで重要なキーワードとなってきています。IBMで企業の変革を支援されている川上さんのご実感はいかがですか?

川上 多くの企業からサステイナビリティーに関する相談が寄せられており、課題意識を持つ経営者が増えている印象です。弊社は毎年、経営者を対象とした調査「CEOスタディ」を実施していますが、2023年版では、昨年の調査に引き続き、日本の経営者はサステイナビリティーに高い関心を寄せていることがわかりました(※)。しかし、本気度はまだ低いのではないでしょうか。業務にESG目標を掲げる企業は95%に達している一方で、目標を達成できている企業は10%にとどまっています。DXへの投資に比べるとまだ大胆にはなりきれず、様子見をしているように感じられます。※CEOスタディ2023「AI時代の到来で変わるCEOの意思決定」

日本アイ・ビー・エム 執行役員 IBMコンサルティング事業本部 ビジネス・トランスフォーメーション・サービス事業部長 最高情報セキュリティ責任者 川上結子氏
日本アイ・ビー・エム 執行役員 IBMコンサルティング事業本部
ビジネス・トランスフォーメーション・サービス事業部長
最高情報セキュリティ責任者
川上 結子

――意欲はあっても、実行できていない現実が見えます。どこに理由があるのでしょうか。

川上 ネックとなっているのは、投資対効果(ROI)が見えないことです。実行した経験がなければ効果を見積もることができないのは当然で、ROIがわからないゆえに投資に踏み切れないという悪循環に陥っています。

加えて大きいのが、データ不足です。DXもそうですが、サステイナビリティーの取り組みを本気で追求するなら、数値で効果測定をするためにデータが不可欠です。例えばカーボンニュートラルに向けた施策なら、サプライチェーン全体の温室効果ガス排出量を把握する必要があるでしょう。データを収集し整備する仕組みがなければ進められません。

森脇 多くの企業はすでに膨大な情報を持っていますが、それをデータ化できていないために活用できず、インサイトも得られないのだと思います。現在、弊社が「判断力はある。ただ、判断材料がない」というメッセージを発信しているのは、そういった状況に気づいてほしいという思いからです。

弊社は「Empower Data, Innovate the Business, Shape the Future.(情報に価値を、企業に変革を、社会に未来を。)」というビジョンも掲げていますが、これからの時代は、データが経営資源の1つとして求められ、扱われるようになると考えています。

ウイングアーク1st 執行役員 営業本部 本部長 森脇匡紀氏
ウイングアーク1st 執行役員
営業本部 本部長
森脇 匡紀

テクノロジーは「まず使ってみる」ことが重要

――本来大きな価値を持つデータが、眠ってしまっている原因は何でしょうか。

川上 まずは、人間が頑張りすぎていることです。担当者が表計算ソフトを使って手作業でデータを入力し、さまざまなツールを組み合わせて長時間かけて資料を作成している職場はいまだに少なくありません。一定の割合でヒューマンエラーが起こるうえ、資料作成にリソースを使い果たしてしまって、データの活用までなかなかたどり着きません。

森脇 データ化するノウハウがないためにうまくいかないケースや、マネジメント層が新しいテクノロジーやシステムを受け入れられず、使いこなせないというパターンもあります。システムが変わると仕事の進め方がこれまでとは大きく変わるわけですから無理もありませんが、それによって現場のモチベーションが下がってしまっては大きな損失です。弊社は単に製品を売るのではなく、まずカルチャーづくりにつながるノウハウとストーリーを伝えることに力を注いでいます。

そして、そのためには弊社が自ら実践することが大事だと考えています。例えば、あらゆる業務に欠かせない帳票業務を、2013年に紙での管理から電子システムへ移行しました。それによってデータ活用が可能になっただけでなく、ペーパーレス化が進み、紙文書を年に約25万枚削減することができました。

弊社のBIダッシュボードサービス「MotionBoard」を使ってカーボンフットプリントを実現したり、東京オフィスで再生可能エネルギーを活用したりと、環境保護の観点でも具体的な取り組みを進めています。

ウイングアーク1st Green DXに関するダッシュボード
Green DXに関するダッシュボードの例。CO2排出量の推移を一目で把握できる

川上 IBMも、50年以上前からサステイナビリティーの観点を持っていて、つねに「まずは自社で実践する」姿勢を貫いています。なぜなら、テクノロジーは、使って初めて気づくことが多いから。「倫理」的な、越えてはいけない一線を決めたうえで「実験」していくことが新しいテクノロジーを使いこなすためにとても大事なのです。日本企業はどうしても、テクノロジーというとコスト削減につなげがちですが、実際に使ってみれば「新規事業の創出にどう役立つか」「どう使えば経営に生かせるか」といったことが見えてきます。

これがまさにSX(サステイナビリティートランスフォーメーション)です。弊社はこの点、ウイングアーク1st様と同じ方向を向いて、協業を続けてきました。これからも「私たちが、テクノロジーで世の中を変えていく」というプライドと意識を持って、その先陣を切っていきたいと考えています。

電子請求書をネットワーク上でやり取りする「Peppol」

――その一方で「テクノロジーはエンジニアの領分」という考えもあります。組織の壁を打ち破るには、どうすればいいでしょうか。

川上 弊社は2023年、「ビジネスのためのAI」として次世代AIプラットフォーム「IBM watsonx」の提供を開始しました。これで具体的に何ができるか社内で試す「watsonxチャレンジ」というイベントを開催しました。法務や人事部門のメンバーも含め、想定以上の人数が集まって、かなり盛り上がりました。

ノーコード・ローコード開発もそうですが、今や、一部のエンジニアだけが最先端のテクノロジーに携わる時代ではありません。とにかく使っているうちにアイデアが生まれてきますから、テクノロジーを従業員全体にどこまで浸透させられるかによって、企業が発揮できる力が大きく変わるでしょう。

ウイングアーク1st 執行役員 営業本部 本部長 森脇匡紀氏

森脇 私は極端に言えば、単純作業はすべてAIをはじめとするテクノロジーに任せて、従業員は全員「意思決定者」になるべきだと思っています。電子請求書(デジタルインボイス)の標準規格「Peppol」は、その一歩になると考えています。弊社もその普及に注力しており、2022年にはデジタル庁からPeppolサービスプロバイダーとしての認定を受けました。アクセスポイントを提供したり、受領、配信のためのソリューションを提供したりしています。

23年10月にインボイス制度が始まり、請求書や領収書の管理業務はかなり煩雑になりました。Peppolは電子請求書を標準化するので、請求書業務を自動化でき、人間は「人間にしかできない仕事」に集中できるようになるというメリットがあります。IBM様とのビジネスはもともと、ホストマイグレーションなどの帳票基盤を作るというところでの案件を多くご一緒してきましたが、ペーパーレス化、デジタル化の流れを受けてこの領域での案件をご一緒する機会も増えてきました。

川上 われわれはグローバルでアライアンスを組んだソリューションを扱うことが多いのですが、お客様のニーズに対応するために日本のパートナー様との共創も強化しています。日本版Peppolへの対応ソリューションについても、ウイングアーク1st様とぜひご一緒させていただければと思います。日本は世界の中でも、DXの余地が多く残っている国だと思いますし、今ならサステイナビリティーへの取り組みについても大きなリターンが期待できます。日本は、伸びしろの大きい国だといえます。

これは経営としては大チャンスなので、どんどんデータを活用して、新しいビジネスモデルの創出やトップラインの引き上げに力を注いでもらいたいですね。とくに、今後の新規事業創出や戦略構築に欠かせないAIは、データをいかに活用できるかが勝敗を分けます。アナログな情報をデジタルなデータに変換していく部分はウイングアーク1st様に期待しているところでもあります。これからもウイングアーク1st様と連携して、多くの企業を支援していきたいと思います。

森脇 弊社は「The Data Empowerment Company」として、データの価値を最大化し、ビジネスにイノベーションを起こすサポートをし続けたいという強い思いがあります。ただし、1社だけで大きな変革を支えるのは難しいのも事実です。IBM様をはじめ多くの企業と共に、持続可能な未来を切り開いていきます。ぜひご期待ください。

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