厚労省も支援「就職氷河期世代採用」注目のワケ 「就職氷河期世代」には有望人材が隠れている?

拡大
縮小
男性、握手するイメージカット
バブル崩壊後に就職難で苦しんだ「就職氷河期世代」に再チャレンジのチャンスが訪れている。少子化・人口減少で企業が人手不足に苦しむ中、厚生労働省が今、企業と就職氷河期世代の採用マッチングを行うべく支援に乗り出しているからだ。互いにメリットが大きい今回の支援施策。企業と就職氷河期世代にどのようなメリットがあるのだろうか。人事コンサルティングを手がける「Joe's Labo」代表取締役である城繁幸氏に聞いた。

今、なぜ注目される「就職氷河期世代」

人手不足が深刻化する中、「就職氷河期世代」に再び注目が集まっている。就職氷河期世代とは、バブル崩壊後の1993〜2004年ごろに最終学歴を卒業し就職難に遭遇した世代で、大卒者では主に1970~81年ごろに生まれた人たちを指し、現在50代前半~30代後半の世代に当たる。この就職氷河期世代はなぜ生まれたのだろうか。ベストセラーとなった『若者はなぜ3年で辞めるのか?』の著者で、人事コンサルティング「Joe's Labo」代表取締役である城繁幸氏は次のように語る。

Joe's Labo 代表取締役 城繁幸氏
Joe's Labo 代表取締役
城 繁幸氏

「終身雇用を特徴とした日本の雇用制度は世界的に見ても独特なもので、正社員で一度採用すれば基本的に解雇することが難しい雇用形態となります。そんな日本企業が好不況に合わせ雇用調整をする場合、主な手段としやすいのが新卒採用です。日本のバブル崩壊は92年。それ以前は例年、多くの新卒社員を採用していたのですが、93年ごろに新卒採用が急激に減少しました。その後、長く回復することなく、2000年代前半まで新卒採用の絞り込みが続くことになったのです。そうした時代の犠牲者というべき存在が、いわゆる就職氷河期世代に当たります。この世代は団塊ジュニアをはじめ、日本の人口構成のボリュームゾーンでもあり、多くの人たちがバブル崩壊後の不況の犠牲者となってしまったのです」

こうした就職氷河期世代に向けて、厚生労働省(以下、厚労省)では各種助成金を整備し、企業の積極採用や人材育成を後押ししている。また、労働者の募集・採用時の年齢制限は原則禁止されているが、現在、就職氷河期世代を対象とする求人が可能となる特例が設けられている。とくに、その世代の社員が少ない企業では、組織の年齢構成のバランスを考慮した採用ができるようになる。なぜ今、こうした支援が必要だといえるのだろうか。

「多くの日本企業は終身雇用・年功序列であるため、年齢や勤続年数に応じて処遇を決めてきました。そのため、転職者を採用する企業としても正社員の経験がある人を採用する傾向にあります。もし今、正社員の経験がなく、そのまま40代を迎えてしまう人であれば、企業の採用対象とはならないケースもあるのです。そのため、とくに就職氷河期世代で非正規雇用や派遣社員の経験しかない人たちは、正社員になるチャンスが狭まっています。私は、この問題に対して、以前から何か手を打たなければ大変なことになると指摘してきましたが、今回の支援がその対策として、より多くの就職氷河期世代のキャリアサポートにつながっていってくれればと思っています。とくに今はこれだけ企業が人手不足で経営的に苦しんでいる状況です。今回の支援は企業にとっても、就職氷河期世代にとっても大きな意味があるのではないでしょうか」

厚労省の特設サイト「就職氷河期世代の方々への支援のご案内」の画面イメージ
厚労省は特設サイトを開設し、就職氷河期世代支援に関する情報を発信、ニーズに合わせてさまざまな支援が用意されている

就職氷河期世代だからこそ採用するメリットがある

では、ここで実際の就職氷河期世代を採用した企業の好事例を、厚労省の「就職氷河期世代の方々への支援のご案内」サイト内にある、「就職氷河期世代の人材活用〜企業を元気にする12の好事例集〜」よりいくつか挙げてみたい。電気・ガスなど環境インフラの管理・運営を手がける大阪府のアイテック株式会社では、事業ニーズの拡大に伴い人手不足が顕在化。就職氷河期世代の求職者が多いことに注目し、積極的に採用した。就職氷河期世代の活躍事例が増えるにつれ、同世代のさらなる優秀な人材の採用を呼び込む好循環を実現している。未経験で入社する場合、新しい仕事に不安を感じるかもしれないが、同社は、30代~50代でスタートしても、この先長く続けられる仕事であり、資格取得などキャリアアップのサポートも充実しているという。

また、介護サービスを手がけている大阪府の社会福祉法人山麓会では、就職氷河期世代の採用によって、中堅層の人材確保、組織体制を強化することにつながっているそうだ。同社でも、就職氷河期世代は、高齢層と若手層の中間に当たる層が薄いという組織課題を解決してくれる世代。これまで経験した苦労から社会の中で貢献したいと考えている人も多く、そのような思いが人に寄り添う福祉の仕事とうまくマッチし、活躍につながっているという。

厚労省の特設サイト「就職氷河期世代の方々への支援のご案内」の画面イメージ
特設サイトでは、就職氷河期世代の採用に成功した企業の事例集もダウンロードすることができる

このように就職氷河期世代が今、企業の注目を集めるのはなぜなのだろうか。

「現在の人手不足は一般の皆さんが想像しているよりもはるかに深刻で、経営にダイレクトに影響を与えるほどのインパクトになっているのです。もし20年前なら、20代しか採らないということも可能だったのですが、今は大企業でも、そんなことを言っていては採用ができない。そもそも年功序列制度は若い人がたくさん集まることが前提であり、その前提が崩れた中で、優れた人材が眠っていると考えられるのが、就職氷河期世代なのです。日本の人口構成のボリュームゾーンでもあり、まだ見ぬ質の高い人材が眠っている可能性が高い。そして、就職氷河期世代は、さまざまな経験を積んでいるというアドバンテージもあります」

今回の支援制度を手がかりとして、見過ごされてきた就職氷河期世代をバックアップしていくことは企業、就職氷河期世代の双方に大きなメリットがあると城氏は続ける。

「まず企業側にとっては、就職氷河期世代はいろいろな苦労や経験をしているため、離職率が低いというメリットが挙げられるでしょう。新卒などのように理想と現実の狭間で迷うことなく、仕事をこなしていく耐性ができていると思います。一方、就職氷河期世代にとっても、正社員としてキャリアをスタートできるきっかけとなるうえ、人生を再出発できるチャンスをつかみ、生活の安定が望めることも大きいと思います」

今、少子化・人口減少が進む中、多くの企業にとって、人手不足はより深刻化している。これまでのような終身雇用・年功序列の形が成り立たない時代に突入している。これからの労働形態はどのように変わっていくのだろうか。城氏が語る。

「現在、政府や経済界もジョブ型雇用という言葉を使い始めています。これは今後、働き方の大転換となっていくでしょう。ジョブ型とは実際に果たす職務によって報酬が決まる働き方となります。そのため、これからはその人がどんな仕事をできるかで評価される時代がやってくるはずです。就職氷河期世代にもチャンスが増え、本人の能力と努力によって活躍できる時代がやってくる。その意味でも、就職氷河期世代だけでなく、すべての働く皆さんは、これから自分で成長していくということを心がけることが必要不可欠になってくるでしょう」

お問い合わせ
厚生労働省