「テクミラ」の新たな成長戦略が始動 TechnologyとCreativeで未来を創る
コロナ禍を乗り越えV字回復を見込む
「新型コロナは当社グループの歴史においても未曾有の厳しい経験でしたが、この中で得た経験は大きな自信となりました」と、テクミラホールディングス(以下、テクミラHD)代表取締役社長の池田昌史氏は語る。
2023年4月に発表した同社グループの23年2月期決算(連結)では、昨対比こそ減収減益だったが、経常利益、当期純利益ともに期首予想を大幅に上回る増益となった。24年2月期は22年度比で2桁の増収増益を見込む。まさに苦境を乗り切りV字回復に突き進んでいるわけだが、その要因はどこにあるのか。
連結子会社は現在8社で、うち3社は海外企業だ(中国2社・ベトナム1社)。テクミラHDグループではこれらのグループ企業により、ソフトウェアからハードウェア、コンテンツまですべて自社開発・製造が可能という独自の事業体制の下、「ライフデザイン事業」「AI&クラウド事業」「コネクテッド事業」の3つの事業を展開している。
3事業の中で最も大きな利益を生み出しているのが「ライフデザイン事業」だ。知育・教育、ヘルスケア、フィンテック、キャラクター利用などの分野におけるサービスやコンテンツを提供する。中でも、21年夏に発売したNintendo Switch版ソフト「クレヨンしんちゃん『オラと博士の夏休み』〜おわらない七日間の旅〜」は、発売直後より販売が好調で、22年5月には台湾・香港・韓国でも展開。その後も欧米版やPC版、PlayStation版を発売し、全世界の累計販売本数は50万本を超えるヒット作となった。
「AI&クラウド事業」は、AIチャットボット「OfficeBot」をはじめ、独自のSaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)などを提供している。
「コネクテッド事業」はODM(相手先ブランドによる設計・製造)で350社以上、500機種以上で実績がある。ソースネクストの多言語翻訳機「POCKETALK(ポケトーク)」シリーズや、MIXIの児童向け見守りデバイス「みてねみまもりGPS」などの製造もテクミラHDグループが行っている。
自社製品の開発・製造も手がけており、昨年度には「aiwa」ブランドの商標使用権を取得し、同ブランドのデジタル機器をはじめとした製造・販売も開始した。
池田氏は、「創業当初から当社グループは、市場のニーズに応える複数の事業を同時並行的に展開してきました。先行き不透明なコロナ禍を乗り切るうえで、これらのポートフォリオによりリスクを分散・低減できたことは大きかったと思います。また、苦しい時期に起死回生の一手となったゲームのヒットは、当社グループの祖業とも言えるコンテンツ事業の積み重ねがあったからこそ実現したものです。ビジネスチャンスにつながるいわば「金の卵」を、それぞれの事業で抱えていることも当社グループの強みだと再認識しました」と振り返った。
今後の展開については、「ライフデザイン事業では、今年度Nintendo Switch版ソフトの新作として『クレヨンしんちゃん"炭の町のシロ"』」を投入予定です。また、コネクテッド事業でも、自社製品『aiwa』のラインナップを増やしていきたいと考えています」と語る。
コロナ禍では相手先企業や市場の環境変化に伴う減産などを経験した。今後は自社事業の比率を高めることで、環境に左右されにくい事業基盤を確立していく考えだ。
ハード、ソフト、コンテンツを網羅
有望な分野への投資も積極的に行っていくと池田氏は話す。「その1つがAIです。当社は早くからAIを活用したチャットボットサービス『OfficeBot』を提供してきました。これも金の卵の1つであり、最近注目を集めるChatGPTのような生成AIの大規模言語モデルを活用した機能なども、競合に先駆けて提供を開始し、非常に多くの引き合いをいただいています」。テクミラHDグループでは、チャットボットサービスに限らず、さまざまなソリューションでAIの活用を進めていく計画だ。
時代のニーズを感知し、その半歩先、一歩先を行く製品・サービスを形にしていく姿勢は、同社グループの沿革にもつながる。04年、テクミラHDの前身の企業が創業された当時はまだフィーチャーフォン(従来型携帯電話)、いわゆるガラケーの時代だった。機能が制限されている中で、同社は「コミックサービス」「きせかえサービス」「デコメアニメサービス」といった当時としては先進的なリッチコンテンツを開発・提供した。その後、スマートフォンが一気に普及すると、ビジネスモデルをソリューション型に転換し、法人向けサービスも拡大した。
さらにIoT(モノのインターネット)分野への進出なども含め、時流を捉えてきたように見えるが、池田氏は「その時々の流行をやみくもに追ってきたわけではない」と話す。
「むしろ、まだ形になっていないサービスや要素技術のような、世の中に眠っている原石に可能性を見いだし、私たちが持つ技術力やパートナーシップをフル活用することで、新たな価値を生み出してきました。その根底にあるのは、消費者、ユーザーの視点で、こんなコンテンツが見たい、こんなサービスを使いたいという思いです」。その姿勢が、大手通信キャリアやパートナー企業にも評価され、新たなビジネスチャンスにつながったのだろう。
特筆すべきは、テクミラHDの事業戦略は人材採用・育成にもメリットがあることだ。3つの事業セグメントを有していることで、ハードウェア、ソフトウェア、コンテンツを網羅するため「ここに来れば何か面白いことができると考えて入社してくる新卒学生も少なくありません」と池田氏。入社後の配属や異動なども配慮しているという。
「当社グループの事業にはハード、ソフト、コンテンツの領域がありますが、原則として従業員本人の希望がない限り、これらの領域をまたぐ異動は行いません。本人の意欲にも関わってくるからです」。テクミラHDグループであれば、例えばものづくりをしたいと思って入社したならば、それを極めることができるわけだ。
同社グループに限らず、デジタル人材の獲得や育成が急務になっている。大げさでなくスキルの高い人材の有無が事業の成否を左右する時代になっているが、その点でもテクミラHDグループは頼もしい。
スタンダード市場へ移行し先行投資を強化
さらなる成長に向けて、テクミラHDグループはどのような戦略を描いているのか。池田氏は次のように紹介する。
「22年4月に公表した中期経営計画では新たなグループ経営理念として『TechnologyとCreativeで未来を創る』を掲げました。各事業セグメントを強化するとともに、事業間のシナジーも発揮し、自社製品・サービスの比率も高めていきたいと考えています」。その実現に向けたビジネスの種もすでに仕込み済みというから楽しみだ。必要に応じて、ベンチャー企業への投資などを積極的に進めていくという。
特筆すべきトピックもある。テクミラHDの前身であるJNS HDは23年4月、東証プライム市場からスタンダード市場へ10月20日に移行すると発表した。10月1日より社名も変更している。
池田氏はその理由について、「プライム維持のために一時的に株価上昇策をとるよりも、将来の成長につながる領域への投資などに経営資源を集中すべきだと考え、スタンダード市場への移行を選びました。新しい社名の『テクミラ』は『TechnologyとCreativeで未来を創る』というグループ経営理念を表しています。引き続き、グループが結束して、企業価値創造に努めていきたいと考えています」と答える。先行投資を優先することが中長期的な成長につながると判断したわけだ。それにより、本当の意味での株主還元が実現することが期待される。池田氏は「将来的にはプライム市場への復帰もありえる」と含みを持たせた。
テクミラHDグループが創業して間もなく20周年を迎える。これまで事業の多角化を進めてきたが、それをもって「選択と集中に逆行している」と考えるとすれば早計だ。むしろスマートフォンの普及など、時代の変化に合わせて積極的に成長領域に進出してきた結果が現在の姿なのだ。テクミラHDグループの新しいロゴマークにも、アメーバ状に柔軟に変化しながら事業を拡大させたいという思いが込められているという。
「これからも、TechnologyとCreativeによってさまざまなミラクルを生み出す、『デジタル・トレジャーBOX(宝箱)』のような存在でありたい」と池田氏は力を込める。その言葉どおり、中長期的にも注目すべき、楽しみな企業といえるだろう。
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