MUFGが一体となって行う「スタートアップ支援」 「資金供給」だけじゃないスタートアップ支援
米国では逆境の一方、底堅い日本のスタートアップ市場
2022年以降、米国ではインフレや金利高、新興マーケット株価の下落を受け、スタートアップを取り巻く環境は冷え込んでいる。一方、米国の影響を受けやすいといわれる日本でも、同じような状況はやってくるのだろうか。三菱UFJ銀行成長産業支援室長の岩野秀朗氏は次のように考察する。
「ここ数年の日本ではスタートアップにとって非常に恵まれた環境にあると言えます。ただ、米国のブームが冷え込み、マイナス要因も生まれています。しかし、日本では官民を通じたスタートアップエコシステムの発展によって、逆境下においても、これまでのようなブームでは終わらない力強さがあると考えています」
これまでのブームとの違いはほかにもある。
「半導体や新素材、あるいは宇宙関連をはじめ、ライフサイエンス領域など官民双方においてディープテック領域への支援が手厚くなってきています。その結果、成長産業としての高い期待を受け、IPO銘柄の比率も増えていくのではないでしょうか。
また、ベンチャーキャピタル(以下、VC)の数が増える一方、起業家のレベルも上がっており、人気案件に資金が集中するという二極化現象も起きています。大企業もオープンイノベーションからM&Aに至るまでスタートアップに対する期待が高まっており、スタートアップに直接投資するコーポレート・ベンチャー・キャピタル(以下、CVC)を設立する動きも加速しているんです」
すでに1000億超のスタートアップ融資残高
このように日本でスタートアップエコシステムが充実していく中、三菱UFJ銀行ではスタートアップ支援を本格化。23年3月時点ですでにスタートアップ向け融資残高は1000億円を超えている。通常、銀行は担保がないスタートアップへの融資には慎重な姿勢を見せるものだが、同行では異なる対応を取っている。
「1社1社オーダーメイド的に成長性や事業力を見て評価しており、基本的に経営者保証や担保に依存しない融資を実行しています」
出資については、グループのVCである三菱UFJキャピタルのほか、MUFGのCVCである三菱UFJイノベーション・パートナーズと一緒に展開している。
「成長ステージによって出資額は異なりますが、5億~10億円規模となる案件も少なくはありません。また、取引先からは、MUFGとのシナジー強化の観点から、出資に際して銀行にも出資してほしいという要望もよくあるんです」
23年4月には三菱UFJキャピタルと共同で総額300億円の基幹ファンドと総額200億円のライフサイエンス分野に特化した国内最大級のファンドを設立。続く5月には同行とイスラエルのフィンテック企業Liquidity Capital社との合弁会社である「Mars Growth Capital」の下、日本のスタートアップを融資対象とするファンド「Mars Japan Fund」の設立を発表した。
「20年に合弁会社をスタートさせて以来、海外のスタートアップ向けに株式の希薄化が起きないユニークな融資を行ってきましたが、AI技術による融資モデルが確立されたことで、23年度中に日本でも最大200億円の融資ファンドをつくる予定です」
「行員がスタートアップに出向」などの、独自支援
こうした充実したスタートアップに対する資金支援の実績もあり、MUFGではさらにスタートアップに寄り添う取り組みを進めてきた。19年にはMUFGのHub組織である成長産業支援室を立ち上げ、支援を強化。事業戦略や財務・資本戦略など経営課題の対応から、コンサルティング提案、MUFG各社が有する多様なサービスの提供までを一気通貫で行っている。
「成長産業支援室を設置したのは、日本の産業発展のために貢献したいという目的をよりクリアに実行するためです。MUFGでは次期中計の大きな柱の1つにスタートアップ支援を位置づけています。 将来の根幹の取引先となるようなスタートアップを多く輩出し、持続的に総合金融グループとして企業を支えていきたい狙いもあるんです。そのためには、これまでの金融機関とスタートアップとの関係性を覆すような取り組みも行っています」
成長産業支援室の陣容は35名、東京ほか、名古屋、大阪に拠点がある。同室は2系統に分かれ、業務推進グループはIPO推進、戦略支援、企画開発グループは企画、新産業創造支援を担当。成長ステージに応じて、さまざまなサービス、ソリューションを提供している。
「中でも特徴的なものとして、人材支援を行う『オープンEX』制度があります。行内公募によって選ばれた行員が、2年間スタートアップや自治体・大企業の新規事業開発室などに出向する制度です。30代前半を中心とする若手・中堅の行員を、これまで3年間で75社に派遣しています。出向先からも銀行員は仕事がきっちりしていて頼もしいというお声をいただいています。私たちにとっても、派遣した若手行員が銀行に戻り、組織に新たな風を吹き込むことで、行員一人ひとりのマインドセットや組織カルチャーを変えていくきっかけになることを期待しています」
このほか、企業発掘を目的に「Rise Up Festa」というビジネスサポートプログラムを年1回開催している。14年から開催し、今年で10年目を迎えた。幅広いテーマで事業アイデアを募集し、表彰企業には事業支援金やさまざまな特典も提供している。
「応募いただいたスタートアップの中から最終審査に残ったスタートアップに対しては、銀行、証券、VC各社のメンターが一緒になって伴走し、スタートアップの事業上の課題解決に向けたハンズオン支援を行っています」
こうしてさまざまな支援策を繰り出している三菱UFJ銀行成長産業支援室。最後にこれまで行ってきたスタートアップ支援策についての課題、今後の展望について岩野氏に聞いた。
「これだけスタートアップが盛り上がってきた中で、実は銀行内でもさまざまな部署がスタートアップ支援や協働に関わっています。こうした取り組み全体を、スタートアップにしっかりとタイムリーに示していくことが私たちにとっては課題です。これからは一元化したパワフルな連携対応を行っていきたい。また地域創生に貢献する取り組みもより強化していきたいと考えています。もし何かあれば、最初に想起される銀行でありたい。スタートアップ経営にお困りの際には気軽にお声がけいただける銀行になりたいと思っております」
融資・投資して終わりではなく、企業に必要な「ヒト・モノ・カネ」のあらゆる側面から支援する、新しいメガバンクとしての姿勢がうかがえる。
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