羽田空港「国際線増便」がもたらした変化と価値 「観光のターニングポイント」波に乗るカギとは

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2020年に実施された羽田空港の国際線増便。インバウンドの回復基調が目に見えて表れ、いよいよその効果を享受できるフェーズに入った。海外旅行客の受け入れ体制向上を主眼においた羽田空港の機能強化は、日本とインバウンドにとってどんなメリットをもたらすのか。そして受け入れる各地域が、その効果を最大限に生かすためのカギとは。国内外へ日本の情報を発信する地域密着型シティガイド「タイムアウト東京」の代表で、インバウンド事情に精通する伏谷博之氏に聞いた。

国際線増便がもたらすインバウンドの「ある変化」

旺盛な航空需要と、2030年までに訪日外国人の旅行者数を6000万人へ伸ばす政府目標を背景に、20年3月より国際線の増便を果たした羽田空港。滑走路の運用方法と飛行経路の見直しにより、年間発着容量は国際線が約4万回拡大し、計約49万回となった。1日最大146便の国際便が就航し、就航先は25の国・地域にある49都市に上る(※1)。

増便後、コロナ禍によるインバウンドの減少はあったものの、現在は明確な回復基調にある。23年4-6月期の訪日外国人旅行消費額は2019年同期比95.1%にまで回復している(※2)。日本の魅力を国内外に発信するシティガイド「タイムアウト東京」を運営し、観光庁のアドバイザリーボードを務めた伏谷博之氏もこう語る。

「街で聞く声も合わせ、インバウンドはかなり戻っている印象で、羽田空港の機能強化が真価を発揮しつつあります。とりわけ価値が高いのが、訪日した外国人を、日本の各地域へと送り込む機能。日本は地方空港の数が充実しているので、国際線の増便で羽田から地方への流れがより促進されることが期待されます」

伏谷氏
伏谷 博之氏
ORIGINAL Inc.代表取締役
タイムアウト東京代表/一般社団法人 日本地域国際化推進機構 代表理事
2005年タワーレコード代表取締役社長に就任。最高顧問を経て、2007年 ORIGINAL Inc.を設立し代表取締役に就任。2009年にタイムアウト東京を開設し、代表に就任。観光庁アドバイザリーボード委員(2019~2020年)のほか、農林水産省、東京都などの専門委員を務める。

羽田空港は現在、国内の49空港に1日当たり約500便が就航している(※3)。国内線着陸回数では他の空港を圧倒しており、国際線増便によって海外と国内の各地域をつなぐ「ハブ空港」や「乗り継ぎ空港」としての役割も、いっそう増す形となる。そうした国際線増便と歩調を合わせるように、近年はインバウンドの動向にも変化が起きていると、伏谷氏は話す。

「東京や大阪などの大都市圏だけでなく、よりローカルな地域にも旅行ニーズが広がっています。東京でも渋谷や原宿といったメジャースポット以外の場所がフォーカスされているのも最近の特徴です。昨年にはタイムアウトのグローバルチームが発表した『世界で最もクールな地域ランキング』で、下北沢が世界の7位に選ばれました」

都内の他の事例だと、戸越銀座や清澄白河といった日本文化を身近に感じられるエリアに、インバウンドが訪れるケースが目立つ。要因の1つとして伏谷氏が挙げるのは、コロナ禍を経た旅行スタイルの変容だ。

「旅行の目的や手段が、多様化・細分化する傾向にあります。背景にあるのが、個人旅行者の増加です。コロナ禍を経て団体での行動を避ける意識が高まり、個人旅行の比率はさらに高まっています。またSNSから王道の観光地以外の情報を簡単に得られるのも、多様化を後押ししています」

インバウンド増加がもたらしたもの

COLUMN01 戸越銀座

品川区商店街振興組合連合会 理事長 亀井 哲郎

戸越銀座
以前から進めていたインバウンド誘致の取り組みにより、最近では戸越銀座での買い物や食べ歩きを目的とした来訪が目に見えて増加しました。インバウンドを含めた商圏外からの集客で大切にしているのは「住民が誇りに思う商店街をつくる」ということ。一方的な集客だけではなく、住民とインバウンドが共存共栄できる商店街として、住民の皆さんが外部に自信を持って魅力を発信できるような施策を、今後も進めていきたいと考えています。
COLUMN02 清澄庭園

公益財団法人東京都公園協会 清澄庭園サービスセンター長 滋野 敦子

清澄庭園
昨年の12月ごろから来場者数の10~20%を外国人観光客が占める月が出るなど、インバウンドが着実に増えていると感じています。当園の特徴でもある、庭石を生かした築山や磯渡りといった独特な日本庭園の雰囲気と、それを都心で味わうことができる利便性の高さが、選ばれている大きな理由の1つなのではと考えています。今後は、インバウンドからのニーズが高い施設の貸し出しについても検討を進め、より多くの方に清澄庭園の魅力を伝えていきたいです。

地域全体を巻き込むことが、観光資源活用のカギに

併せて観光客を受け入れる側でも、変化が起こっているという。

「ある地域の首長さんは『観光客の数よりも、地域の魅力を理解し何度も訪れてつながってくれる人を求めている』と話していました。絶対数を求めてオーバーツーリズムに陥るのではなく、観光をきっかけとした『関係人口』の構築を目指したいとの声が、さまざまな地域で上がっています」

オーバーツーリズムを避けることで地域は健全な状態を維持でき、旅行者にとっても自身の嗜好によりマッチした旅行が実現し、旅の充実度は増すだろう。結果、地域が何より重視する「関係人口」も生まれやすくなる。羽田空港はハブ空港としての高い機能を通じ、そうした「持続可能な観光エコシステム」実現の流れも後押しすることになる。

では、そんな国際線増便の追い風を最大限に生かし、地域が豊かになるにはどうすればいいのか。伏谷氏がポイントに挙げるのが、観光の多様化に合わせ、受け入れ側の裾野を広げつつ、「ほかとは違うユニークさ」を見いだすことだ。

「観光客に対して『そこでしかできない体験』をどう提供できるかを考えるには、観光事業者だけではなく、その地域に根付く産業や事業者など、地域全体を巻き込んで取り組むことが求められます。そこで重宝するのが、地域の若い人や外から来た人の視点です。違った視点が入り込むことで、これまでの観光の殻を破るユニークな発想が生まれやすくなります。ぜひ多様な人を、メンバーに取り込んでいってほしいですね」

国際線増便を「地域活性化」につなげるために

思いがけないものが、世界中から人を呼び込む観光資源に。そうした点で、日本は「ポテンシャルの塊」であると伏谷氏は言う。

「私が委員を務める、日本各地のディープな食・食文化と観光を掛け合わせた体験を募集し、表彰するプロジェクトには、本当に全国津々浦々から、ユニークな観光情報が集まってきます。それを見ていると、日本にはまだ眠っている観光資源が、どれだけあるのだろうと思わされます」

こうしたインバウンドと日本の地域の現状を踏まえ、改めて機能強化された羽田空港への期待を伏谷氏に語ってもらった。

「さまざまな地域が個性を持ち、そこに多様な人が訪れる流れが確立されることで、訪日客を日本の各地に拡散できる羽田空港の価値はいっそう高まります。ぜひ、都心部や地方に観光客をスムーズに送り込む機能を突き詰め、世界の人に憧れられる『理想の空港』を目指してほしいです」

国際線増便によって諸外国との行き来が活性化することで、東京をはじめとする空港圏内のビジネス的価値がより高まる効果も見込める。空港の機能強化がもたらす地域活性化の大きなムーブメントに、ぜひ注目していきたい。

※1 IATA(国際航空運送協会)2023年夏ダイヤによる

※2 観光庁が実施した訪日外国人消費動向調査 2023年4-6月期の全国調査結果(1次速報)による

※3 令和5年3月末現在

羽田空港のこれから|ポータルサイト