「生成AI」のビジネス活用、何から始めればいい? IBMが企業との共創を加速、すでに効果は上々

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生成AIが熱視線を集める今、企業で業務に活用しようとする動きが活発化している。業務の効率化だけでなく、新たな価値創出などにも貢献すると期待されており、本腰を入れてAI活用の基盤を整えようとする企業は少なくない。IBMは2014年に「Watson(ワトソン)」事業をスタートし、AIサービスのビジネス活用を支援してきた。生成AIが注目される中で、同社は今年、次世代AIプラットフォームとなる「IBM watsonx(ワトソンエックス)」の提供を開始し、さらにその取り組みを加速させようとしている。生成AIの特徴や活用事例、そして活用する際に知っておくべきAI倫理について詳しく聞いた。

生成AIはこれまでのAIとどう違うのか

――田端さんはAIやRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)などの自動化ソリューションにお詳しいですね。昨今、生成AIが関心を集めている理由はどこにありますか。

田端 真由美(以下、田端) これまでのAIは、情報の検索やチャットボット(自動応答システム)のように、ある程度準備されているデータの中から関連度の高いものを見つけてくるというものが多かったと思います。それに対して生成AIは英語で「generative(発生する、生む) AI」と言うように、新しいものを生み出すという点に違いがあります。

例えばチャットボットでも、FAQ(よくある質問と回答)をあらかじめ用意するのではなく、マニュアルなどを読み込み、顧客の質問に対する回答をその都度作り出すことができます。ですので、業務の省力化や自動化を大幅に進めることができ、生産性の向上にもつながります。

田端 真由美 氏 IBMコンサルティング事業本部 ハイブリッド・クラウド・マネジメント 技術理事
田端 真由美
IBMコンサルティング事業本部
ハイブリッド・クラウド・マネジメント  技術理事

日本アイ・ビー・エムにシステムエンジニアとして入社後、金融機関の業務システム開発に従事。その後、IBM Watsonの展開に携わり、AIやワークフロー、RPAなどの自動化ソリューションのコンサルティングから開発・保守までを担当 。現在は、AIとオートメーションの領域で、先進技術を活用した、企業のシステム開発・運用のDX実現を支援する

――松瀬さんはIBMの「データ&テクノロジー事業部」で、DX戦略のコンサルティングやデータ基盤の構築などを支援されています。昨今の潮流をどう見ていますか。

松瀬 圭介(以下、松瀬) 1950年代後半〜60年代の第1次AIブーム、80年代の第2次AIブーム、そして2000年代から現在の第3次AIブームと、AIが脚光を浴びる時代がありました。ただし、これらの特徴は、いずれも専門領域での活用に特化していたことです。このため、AI導入が進んでいる企業とそうでない企業には大きな格差が生じていました。

その中で、知識や技術がなくても使える、もっと汎用的なものが欲しいというニーズに応えて登場したのが生成AIです。ユーザーが目の前にあるツールを活用することですぐに効果が出せるという即効性があります。今は、業務部門から浸透し、その結果に経営が遅れて注目するという流れが起こっています。

松瀬 圭介 氏 IBMコンサルティング事業本部 データ&テクノロジー事業部 シニア・パートナー 兼 事業部長
松瀬 圭介
IBMコンサルティング事業本部
データ&テクノロジー事業部  シニア・パートナー 兼 事業部長

外資系IT企業、大手ソフトウェア企業にて金融業界向けソリューションの責任者などを歴任した後、日本アイ・ビー・エムに転職。 現在、データ & AI、オートメーション、ローコードなどの先進技術とデジタルBPOを活用したコンサルティングサービス事業責任者として、DX戦略構想、設計から導入支援を行う

3週間かかっていた業務が15分に短縮

――IBMではすでに生成AIをビジネスに活用した事例もあるそうですね。

田端 当社自身も生成AIを活用しています。例えば、社内ではさまざまなコンピュータシステムが動いていますが、システムを運用する部門では、これらのシステムの設定やデータの移行などに必要なプログラミングを自動的にコード生成する仕組みを整えました。現在、約60%のコードを自動生成しており、生産性も約30%向上しました。

当社では「AI for Business」と呼んでいますが、顧客向けにも人事管理、顧客応対、システム更改や移行、IT運用の自動化など、さまざまな領域で生成AIの活用を提案しています。

生成AIの機能とその活用例

松瀬 例えばあるグローバルペイメント企業では、顧客からの苦情の電話に対して、AIが91%の精度でその意図を分類し、メモの要約やキーワード抽出にも対応。それにより複数の担当部署が約3週間かけて対応していた業務が15分に短縮されました。

国内でも、ある大手化学メーカーでは生成AIを活用し、製品の新規用途探索の高精度化、高速化の取り組みを開始しています。また、ある地方銀行では、融資稟議書作成に生成AIを活用し、これまで2時間かかっていた作成作業をドラフト1分・レビュー1分・手修正10分で完了できるということが、試行でわかりました。

AI倫理とコンプライアンスを守るためには

田端 IT部門の方とお話ししていて、最近増えているのが「業務部門で勝手に生成AIを使い始めているが、どうすべきか」というご相談です。現場が「もう待っていられない」と考えるのも理解できますが、リスクを正しく理解したうえで使わないとセキュリティや倫理、コンプライアンス(法令順守)などの事故につながりかねません。

松瀬 IBMでは、私たちがお客様にAIを提案する際に、3つの原則と5つの基本特性を定義し、これらにのっとっているか、リスクが含まれないかを審査するプロセスがあります。

3つの原則とは、「AIの目的」「データと洞察の所有権」「透明性と説明可能性」です。5つの基本特性とは「説明可能性」「公平性」「堅牢性」「透明性」「プライバシー」です。これらは私たち自身のAI倫理問題への取り組みでもあります。

IBMのAI倫理への取り組み  IBMでは3つの原則と5つの基本特性を定義してAI倫理問題へ取り組んでいる

私たちは、これらの経験則を基に、顧客向けにも生成AIを活用するに当たってのガイドラインやガバナンス体制の構築に関して提案を行います。また、戦略としてどのように業務を変革するのか、いかにデータ活用基盤を整備するのか、組織をどのようにつくるか、といったところも一緒に考え、戦略策定から実運用までを推進していきます。

世界中の事例やリサーチで得られた知見を提供

――IBMでは早くからAI活用によるビジネス支援を行ってきましたが、2023年7月には新しいAIのプラットフォームである「IBM watsonx(ワトソンエックス)」の提供を開始されました。

松瀬 「watsonx」は、ビジネスのために構築されたAIとデータのプラットフォーム。すでに多様なデータを学習した基盤モデルを備えているため、一からモデルを作成する必要がなく、自社のデータを使って必要なモデルも構築できます。

ツールの提供にとどまらず、日本IBMでは「watsonx.japan」という全社的な組織体制を組み、エンジニアやコンサルタントなどのプロフェッショナルが一体となり活動しています。世界中の事例やリサーチで得られた知見を提供しつつ、組織横断的に企業のAI活用を支援します。

また、IBMの強みの1つに、研究所を有することがあります。日本では、IBM東京基礎研究所が企業向けAIの技術を研究しており、日本語に対応できる大規模言語モデルの開発などを行っています。彼らとタッグを組み、新たな技術や研究成果をいち早く提供していきます。

田端氏と松瀬氏

田端 「IBM watsonx」の発表時に「AIファースト」というメッセージも発表しました。これは、業務をAIに置き換えるのではなく、AIを活用して新たな価値を生み出すことを意味しています。自社のAIはどうあるべきか、そのためにどのような組織や人材が必要なのかといったところから議論し、一貫してご支援できるのも当社の強みだと考えています。ぜひ、一緒に取り組みを進めていければと思います。

「ビジネスのためのAI」について詳しくはこちら