建設業界の課題を解決「システム建築」への期待 部材とプロセス標準化で短工期・高品質を実現

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日鉄エンジニアリングによる施工事例の合成画像
コロナ禍を経て、景気が回復基調にある。企業の設備投資意欲も活発になっており、とくに生産工場や倉庫などの需要が高まっている。実際に建設工事受注高も増加しているが、その一方で、建設現場では部材費の高騰や作業員の高齢化に伴う人手不足、2024年から適用となる働き方改革施策による工期の長期化が課題になっている。これらの課題を解決する救世主として注目されているのが「システム建築」だ。建物の建設に必要な部材やプロセスを標準化することで短工期・高品質・経済性が実現するという。システム建築の中でも日鉄エンジニアリングが提供する「スタンパッケージ」は、50年前に発売された国内初の独自開発商品であり、日本製鉄グループの技術力と提案力が高く評価されている。

建設業界を取り巻く状況が年々深刻化

日鉄エンジニアリングは2023年5月31日、システム建築の新商品「スタンパッケージC3(シースリー)」の販売を開始すると発表した。

「『スタンパッケージ』は、基礎・鉄骨・屋根・外壁などの建物を構成する主要部材をプレエンジニアリングした建築商品です。提案・設計から部材製造、現場施工までの一連のプロセスを標準化・省力化することで、短工期・安定品質・経済性を兼ね備えた建物の建築が可能です」と、同社都市インフラセクター 営業本部 建築営業部長の原田猛也氏は語る。

システム建築というと規格品の部材で建設される小規模かつ仮設的なものとイメージする人がいるとすれば、それは誤解だ。実際には、延べ床面積100坪から3000坪程度の領域を中心に、中には1万坪以上の大規模な工場・倉庫・事務所などの建設に幅広く採用されている。形状、意匠デザインも自由度が高い。在来工法と同等の仕様・機能にプレエンジニアリング技術を付加した商品がスタンパッケージなのだ。

日鉄エンジニアリングの「スタンパッケージ」施工事例の合成画像

建設労働人口の減少、働き方改革、技術力の低下など建設業界を取り巻く状況が深刻化しつつある。また近年においては、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進、脱炭素、BCP(事業継続計画)対策など新たな社会的ニーズが発生している。「当社スタンパッケージは、建築主が直面するこれらの課題の解決につながる対応を進めています」(原田氏)。

同社はその名のとおり新日鉄(現・日本製鉄)のエンジニアリング部門としてスタートし、06年に分社・独立して誕生した。

日鉄エンジニアリング 都市インフラセクター営業本部 建築営業部長 原田猛也
日鉄エンジニアリング
都市インフラセクター
営業本部 建築営業部長
原田 猛也

「1972年に国内初のシステム建築の独自開発商品『スタンパッケージ』を発売以来、工場・倉庫・事務所を中心に累計1万棟以上の実績があります。工場や物流倉庫の建設会社としてはトップランナーと自負しています。この実績で培ったノウハウを基に、発売50周年の節目に市場変化を捉えた新コンセプトに基づくスタンパッケージのブランドリニューアルを行いました。エンジニアリングカンパニーとして、パートナーである施工店が抱える各種課題を解決する商品にブラッシュアップし続けたいと考えています」

原田氏によれば、「スタンパッケージC3」の3つのCは、「利便性(Convenience)」「コストメリット(Cost merit)」「脱炭素への取り組み(Carbon Neutral)」の3点の頭文字を取ったものだという。以下でその特長を紹介していこう。

独自の営業設計支援システムで地域の施工店のDXを推進

日鉄エンジニアリングの「スタンパッケージC3」の「利便性(Convenience)」について、同社建築営業部 システム建築営業室長の小崎賢志氏は次のように語る。

日鉄エンジニアリング 都市インフラセクター営業本部 建築営業部 システム建築営業室長 小崎賢志
都市インフラセクター
営業本部 建築営業部
システム建築営業室長
小崎賢志

「スタンパッケージの販売に当たっては、当社は部材の生産・デリバリーに徹し、建築主との契約や施工は『施工店』と呼ばれる地域の建設会社が担っています。地域のニーズを知り尽くした地元の施工店が元請けとなることにより、建築主に細かく対応できます」

施工店は、日鉄エンジニアリングによるきめ細かな営業支援も受けられる。

「ウェブ活用を含めたプロモーション活動、最前線で販売を担う施工店への営業情報の提供拡大や、各種提案ツールの充実などに力を入れています。例えば当社では営業設計支援システム『NSVENUS(以下、NSヴィーナス)』を起点として、営業・設計・調達・施工の一連の建築生産プロセスでのDXを推進し施工店の効率性向上を支援しています」と小崎氏は紹介する。

概略設計・見積システム「NSVENUS」
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建屋寸法や開口部位置などの基本情報を入力するだけで計画建物の一般図、パースや見積書等を速やかに作成することが可能に

「NSヴィーナス」を利用すれば、建築CADなどの専門的な知識がないスタッフでも概略計画図面(平面図・立面図・断面図)などが簡単に作図できるという。さらにイメージパースも描くことができるので建築主も理解しやすいだろう。「午前中にヒアリングした内容を基に、午後にはパースにして持っていくことも可能」(小崎氏)というから、施工店は迅速に提案ができ、建築主にとっても意思決定が容易になるに違いない。

「今後はさらにパースの3D化、見積もり機能強化など『NSヴィーナス』の機能を拡張していきます」と小崎氏は紹介する。見積もりの積算に欠かせないのが設計図から必要部材を拾い出す業務だが、かなり手間のかかるところだ。「NSヴィーナス」なら、それがボタン1つで可能になり、見積書の作成から部材の発注まで一気通貫でできるようになるという。日鉄エンジニアリングでは、これらの付加価値の高いツールの提供に加え、施工店の若手社員など人材育成などについても積極的に支援を行っている。まさに、施工店と一緒になって、地域の建築主のニーズに応えるとともに、地域の雇用や活性化にも貢献しようとしているわけだ。

高度な技術開発力でコスト削減と脱炭素を実現

日鉄エンジニアリングの「スタンパッケージC3」の「コストメリット(Cost merit)」「脱炭素への取り組み(Carbon Neutral)」についてはどのような特長があるのだろうか。同社建築本部 プロジェクト部 システム建築技術室長の尾上和彦氏は次のように説明する。

日鉄エンジニアリング 都市インフラセクター建築本部 プロジェクト部 システム建築技術室長 尾上和彦
都市インフラセクター
建築本部 プロジェクト部
システム建築技術室長
尾上和彦

「まず『コストメリット』については、日本製鉄グループの一員として、鉄を知り尽くした経済的な構造設計には自信を持っています。また、現状に甘んじず、新商品の開発も積極的に行っています」

長年蓄積してきた鋼構造技術を生かし、強さ・コスト・使い勝手のバランスを考慮した最適プランを提案するという。さらに、スタンパッケージに特化した構造計算プログラム「SPS」を駆使し、スピーディーな経済設計が実現する。施工現場では職人不足も課題になっているが、「独自の土留め兼用腰壁『パネルJ』は在来工法に比べ最大70%、基礎工程を短縮できます。また、基礎部材『パックF』は、あらかじめ工場で加工した鋼製型枠、鉄筋、アンカーボルトを現場でセットするだけという省力化基礎システムで、工期を最大30%短縮できます」というから頼もしい。シームレス加工で雨漏りのない屋根部材なども同社ならではだろう。

また、最近関心が高まっている「脱炭素への取り組み」については、太陽光発電システムと蓄電池による購入電力の消費量の低減なども提案している。木鋼合成梁、木質被覆耐火鉄骨梁など、木を使った部材も、自然素材特有のぬくもりや高い意匠性が働く人に癒やしと心地よさをもたらすと好評だ。

木製合成梁の施工例
[木鋼合成梁] 建設におけるCo2排出量を抑え、カーボンニュートラルの実現に貢献

「さらにZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の認証を取得した未来型施設も提案しています」(尾上氏)。ZEBは国が定めたエネルギー消費量削減率などに応じて4つの段階が設けられているが、認証に必要な仕様部材のCO2発生量の見える化についても、「NSヴィーナス」のCO2発生量の算出機能により推進できるという。

2030年度にシステム建築の販売規模3倍以上を目指す

日鉄エンジニアリングは環境プラント、再生可能エネルギー(バイオマス、洋上風力など)、大空間建築、免制震部材、土木商品など幅広い事業を手がけており、その総合力と知見がシステム建築に生かされている。

原田氏は「建設業界の環境変化を踏まえると、システム建築事業のビジネスチャンスが一層拡大すると判断し、同事業を成長分野と位置づけ、タスクフォースで将来ビジョンと成長戦略を検討してきました。中長期ビジョンとして、30年度に現在の3倍以上の部材販売を目標にしており、『スタンパッケージC3』は、その基幹商品となります」と力を込める。

「スタンパッケージC3」の「利便性、コストメリット、脱炭素への取り組み」という3つの優位性は建築主となる企業にとって大きなメリットとして還元されるに違いない。「スタンパッケージC3」の普及拡大を通じて、持続可能な社会・産業基盤づくりが進展することが期待される。