明確な目的と効果への意識が付加価値の高いICT環境を創る
ICT環境を、教育や研究のさまざまなニーズに対応できるよう柔軟に基盤整備しておくことは重要だが、自分の大学にマッチしているのかをしっかり見極めることも大事だと赤木教授は話す。
「たとえば慶應大学だと学部学生が約3万5千人いますから、学生に何かを一律に周知するためにICT環境は不可欠です。しかし、それが必要でない規模の大学もあるわけです。また、授業においては大教室講義が今も行われていますが、それに対応できるICT環境を考えるときに、少人数教育が多用できる大学とは当然基本的なところからアプローチは変わってくるのです」
実際、赤木教授は、2~300人の学生の質問をオンラインで集約し、それを整理して答えていくという授業を行っているとのことだ。これなどは、まさに大学の規模に対応したICT活用の一つであり、近年多く聞かれるようになった「反転授業」の要素を先取りしているといえるだろう。
ICT戦略は大学の価値を高める人材育成戦略
赤木教授が理事を務める一般社団法人大学ICT推進協議会は2011年に設立され、目的として、「ICTを利用した高等教育・学術研究機関の教育・研究・経営の飛躍的強化」を目指すことが謳われている。
「各大学から来ている先生の多くは情報系や理工系ですが、人文・社会系の私が参加する意義も実は大きいのです。というのも、大学の情報基盤センターなどの直面する問題が、必ずしも情報部門の取り組みだけでは対処できないケースが顕著になってきているからです」
米国のICTに関する大学組織でも経済学者や芸術系の教授がトップになる例があるという。ICTが大学における基盤となってきたときに、ネットワークの専門家だけが担当する時代ではなく、社会的な接点が担えたり、大学のポリシーを実践できる人間の役割が重要になってきているのだと考えられる。
「ICT戦略で難しいのは、その時点で最も重要なことを選択することです。このとき目的がしっかりしていれば、それに対してリソースをどう結び付けるかというプロセスが戦略になりますから、そこを十分考えるのが大切になります」
大学においてはICTの導入自体が目的となりがちであり、その意識改革が必要になってきているのは間違いない。学内にネットワークを作って学生全員にパソコンを持たせたからといって、優秀な人材が育つとは限らない。ややもすれば、単に事務連絡用のアイテムになりかねないのである。
ネットワークやシステムの整備はあくまで手段であり、学生の学びたい意欲に最大限応えられる環境づくりが重要になってくるだろう。大学のICT環境の構築は、どのように学生をサポートしたいかという、大学自体の人材育成戦略でもある。