モーター開発を支える国産ソフト、納得の凄み 電磁界解析のソフトウェア、JMAGとは?

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JSOL JMAGビジネスカンパニー Chief Product Officerの佐野広征氏
自動車や家電をはじめ多くの電気機器に搭載されているモーターは、現代人の生活になくてはならない存在だ。近年は、電気自動車(以下、EV)の台頭や家電の省エネ化などにより、新しい仕組みや形状のモーターの開発が進んでいる。開発のプロセスでは、モーターを動かすときに発生する「電磁界」を解析するソフトウェアが使用されるが、その1つが「JMAG(ジェイマグ)」だ。電磁界解析の第一線で、JMAGが果たす役割に迫った。

電磁界の可視化で、エコ&高効率なモーターを開発

電流によって生じる電気エネルギーを機械エネルギーに変える装置「モーター」。19世紀に発明されて以降、今日まで改良を重ねながら、より実用的なものへと発展を遂げてきた。一般人がその存在を意識することはあまりないが、自動車、家電、ゲーム機など多くの電気機器の動力源として、日常生活に溶け込んでいる。

モーターは、電流をコイルに流すことで生じる磁力を利用して回転する。例えば、自動車の窓の開け閉めやドアの自動ロック、ドライヤーの風の発生、ゲーム機のディスクの出し入れなども、モーターによって実現している。とくに昨今は省エネの潮流により、EVに限らず家電はどれも効率性が重視される傾向にあり、より効率的かつ高性能なモーターの誕生が待たれている。

クリーンな動力源としても注目されるモーターは、EVの走行に深く関わっている。二酸化炭素の排出を避けられないエンジン車に対し、EVはそれ自体から二酸化炭素を排出しないことからエコと考えられ、気候変動問題や環境規制強化に伴って需要の拡大が見込まれている。

モーターの開発現場ではすべてのプロセスで試行錯誤が繰り返されるが、中でも重要なのは「電磁界解析」だ。モーターがどのように回転し、その回転によりどれくらいの動力が発生するのかなどを細かくチェックし、特性を把握したうえで、モーターの形状や材料、巻線などの設計に改善を加えていく。かつて、機械の設計では試作機の改良を繰り返しながら完成度を上げていた。しかし現在はシミュレーションで性能の予測が可能になったことが背景にある。

電磁界解析のソフトウェア「JMAG」を開発する、JSOL JMAGビジネスカンパニー Chief Product Officerの佐野広征氏は、電磁界解析の重要性を次のように説明する。

「どういう形状のモーターが最も効率よくエネルギーを変換できるか、シミュレーションを経て検討します。例えば自動車1台に搭載されるモーターは100個近くあるとされ、さらにその材料や形状は多種多様です。それぞれの用途や目的に応じて滑らかに動いたり、静かに動いたりと、さまざまな要件を満たさなければいけません。

とくにEVはモーターの動きが非効率だと電費が悪くなるため、効率性が求められています。技術者の勘や経験だけでは性能予測の精度に限界があり、また開発スピードも下がってしまうため、電磁界解析ソフトはモーター開発の必需品とされているんです」

ユーザビリティーを追求してきたJMAG

モーター開発の現場で重宝されてきたJMAGは、1983年に誕生して以来、エンジニアのユーザビリティーをとことん追求。すべてのエンジニアにとって直感的に使いやすいソフトを目指して、改良を続けてきた。

「電磁界解析のシミュレーションソフトは、大学の研究施設で開発されることが一般的でした。そんな中、JMAGは企業発で開発された経緯もあって、ユーザビリティーを追求した点が特徴的です。例えばJMAGにCADの設計図や材料などを入力すると、解析に必要なメッシュが自動で生成されて電磁界が計算され、機器の特性を解析できます」と佐野氏は語る。

JSOL JMAGビジネスカンパニー Chief Product Officerの佐野広征氏
JSOL JMAGビジネスカンパニー Chief Product Officer
佐野 広征

電磁界解析のソフトウェアは、アンテナや通信などに関連する高周波の領域と、モーターなどに関連する低周波の2つに分類される。JMAGは低周波の領域でニーズをつかみ、自動車業界を中心に浸透してきた。

「JMAGは、CADとの連携のしやすさや材料データベースの搭載など、精度に加えて使いやすさも追求しています。ユーザビリティーの魅力を象徴するのが、材料データベースです。かつては解析を担当するエンジニアがメーカーに問い合わせ、その内容を数値化してソフトに入力しなければいけませんでした。そこで、JMAGでは、メーカーと交渉して材料データをソフトウェアに搭載。型番を入力するだけで、解析に必要なデータをそろえられるようにしました」

電磁界解析に特化したJMAGの強みは、シミュレーションの本質である「モーターの性能向上」に向けて、エンジニアが全力を傾けられる点にある。それがかなったのは、ITコンサルティングからシステム構築までを担うJSOLの知見や経済基盤を活用して、長期的な開発に取り組めたからにほかならない。

JMAGの活用場面は多岐にわたる

モーターで起きている電磁界の現象を表した全体図
モーターで起きている電磁界の現象を表した全体図

JMAGを導入する企業は大手自動車メーカーをはじめ、大学やベンチャーまで多岐にわたっている。

「JMAGはモーターの進化を加速させるツールとして、多くの企業に利用されています。例えばメーカーA社は、小型車のハイブリッド化に伴う燃費改善と、重量増加による燃費悪化のトレードオフに向き合いながら、JMAGを活用してモーターの性能改善に取り組まれました。また、モーターの受託開発を担うベンチャーB社は、代表が学生時代からJMAGを使用されており、設計方法の確立に役立てていただいています」

近年では、航空機の製造などでも電磁界解析のニーズが高まっているという。佐野氏は「昨日まで機械設計に従事していたエンジニアが、電気・磁気設計に携わることも少なくありません」と明かす。

「JMAGにしか出せない価値を生み続けるには、シミュレーション技術やCAD技術をはじめ、マーケティングなど多岐にわたる『人財の専門性』が必要です。いずれの分野についても、『これから世の中で必要とされるモノ』をイメージしながら、ユニークな発想を基に挑戦する姿勢がなくてはなりません。また、何か際立った製品を作るときに、誰か1人でできることは限られます。多様な人財の強みを掛け合わせながら、チームとしてJMAGを磨き続けたい。

とくにモーターの開発において、難しい設計要件を満たすためには非常に多くの計算が必要になります。たくさんの計算機にそのシミュレーションを投げ込み、短時間で質の高い設計案を導き出すことが必要です。過熱するEV競争の中で、単に電磁界解析の技術を高めるだけではなく、計算機を最大限使いこなせるかどうかがこれからのJMAGの挑戦でもあります。そのためJSOLでは、共に働く仲間として、熱量はもちろんいろいろな技術を持った人財を求めています」と佐野氏は展望を語る。

単に出力を出すだけでなく低損失、静音性、制御性などたくさんの要件が求められるモーター。その開発の第一線で働くエンジニアは、さながら彫刻家のように最適な形状を模索しているという。その試行錯誤を支えるJMAGは、「エンジニアの感性を表現するツール」と例えられることもあるとか。これからもJMAGは、モーターの開発や改善に尽力するエンジニアのクリエーティビティーを促すとともに、あらゆるモノづくりの飛躍を支えていく。

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