富士通7000人が「社内公募で異動」、その熱量の訳 LinkedInラーニングで人的資本経営を加速へ

拡大
縮小
富士通執行役員EVP CHRO(最高人事責任者)の平松浩樹氏と、リンクトイン・ジャパン日本代表の田中若菜氏
富士通では、人的資本経営を掲げ、ダイナミックな人事改革が行われている。2020年に「ジョブ型人材マネジメント」を導入し、これまで約7000人もの社員が社内公募を経て新しいキャリアを開始させた。大変革の背景にあるのは、社員の「学びへの貪欲さ」と「変化へのエネルギー」だという――。
そんな社員たちの主体的な学びを支えているのは、オンライン学習サービス「LinkedIn(リンクトイン)ラーニング」だ。富士通の人材戦略と主体的な学びの重要性について、富士通 執行役員EVP CHRO(最高人事責任者)の平松浩樹氏と、リンクトイン・ジャパン日本代表の田中若菜氏が語り合った。

IT業界の変化に対し、機敏に対応できる組織へ

――人材をコストではなく価値の源泉として適切な配置・活用を図り、組織の成果を最大化する「人的資本経営」が近年注目されていますが、富士通が目指す「人的資本経営」について教えてください。

平松浩樹氏(以下、平松) 富士通は2019年に時田隆仁が代表取締役社長に就任し、「IT企業からDX企業への変革」を宣言しました。DX企業を目指すには、世の中の変化に対して機敏に変化できる人材を育成しなくてはいけません。

そこで、人材・組織ビジョンに「社内外の多才な人材が俊敏に集い、社会の至るところでイノベーションを創出する企業へ」を掲げ、この実現に向けて人事制度をジョブ型にフルモデルチェンジしました。

平松浩樹氏 富士通 執行役員EVP  CHRO(最高人事責任者)
平松 浩樹 
富士通 執行役員EVP CHRO(最高人事責任者)

従来の人事評価制度を見直し、「適材適所」から「適所適材」の考え方にシフト。特定のジョブ(職責)に伴う責任権限や人材要件を明確にし、そのジョブに人材を配置するという仕組みになりました。当社の職責をグローバル共通の基準で格付けし、それに応じた月額報酬を設定。この仕組みを20年4月に日本で働く幹部社員に導入し、22年4月は全社員へと広げています。

自社の方向性に合わせて、内外双方から必要な人材を適切にアサインすることとなり、ポスティング(社内公募制度)も導入しました。こうした変化に伴い、社員自らが目指すポジションに対して、求められるスキルを主体的に学ぶ環境を整える必要がありました。

――主体的に学ぶ環境とこれまでの研修や教育では、どのような違いがあるのでしょうか。

平松 従来は、組織内で階層別に一律の教育メニューを用意していました。しかし人事制度が変わって、社員一人ひとりが自分自身の理想的なキャリアを考え、デザインするようになると、それぞれに必要なスキルが組織単位ではなく個人単位で違いが出てきました。そのため、画一的な「この組織にはこの研修を」という仕組みが合わなくなってきたのです。

――社員の皆さんの反応はいかがでしたか。

平松 最初は「取り残されてしまうのではないか」と不安に感じる社員が多数派でしたが、ふたを開けてみるとこれまで1万9000人の社員がポスティングに手を挙げ、面接などを経てそのうち7000人が合格。社内の人材の流動性は一気に高まりました。

一方で、不合格だった人には、必ず面接で足りていないスキルをフィードバックするようにしています。そうすると、次のチャレンジへの意欲や学びへの意欲も高まります。実際に多くの社員から「仕事に関する情報と、各ポジションに必要な知識やスキルについてガイドが欲しい」というリクエストがありました。

――とても前向きな反応ですね。

平松 はい。実は、これまで人事部門では、富士通の社員は学びに消極的だと考えられていました。というのも、人事が提供する学びに対して、「仕事が忙しいのに、これを学ぶ意味があるのか」という反応が多々あったからです。

ところが、個人で目標を立て、それを達成するための学びとなると、意欲がまるで違います。キャリアを自律的に考えるようになり、社員の目の色が変わったことを目の当たりにして、実は学びに貪欲だったのだという発見がありました。

社員が学んだデータが
人材ポートフォリオを描くヒントに

――社員の学びや成長への意欲に応える教育を提供する仕組みとして、富士通では「LinkedInラーニング」を導入されています。田中さん、このサービスの概要について教えてください。

田中若菜氏(以下、田中) LinkedInラーニングは、世界200以上の国と地域に9億3000万人を超えるメンバーを有する世界最大級のプロフェッショナルネットワーク「LinkedIn」が提供しているeラーニングサービスです。現在、13カ国語で2万コース以上、日本語(AI翻訳を含む)では1万コース以上の学習にアクセスできます。

田中 若菜 氏 リンクトイン・ジャパン日本代表
田中 若菜
リンクトイン・ジャパン日本代表

講師陣は米国トップ大学で教壇に立つスペシャリストなど、独自の厳しい規定をクリアしたエキスパートが務めており、情報の信頼性を追求。また、全世界のLinkedInメンバーのデータを基に、旬なニーズやトレンドを分析しながら、コンテンツを開発しています。

1コースで約1時間、コースを構成する動画は1つで約3分なので、隙間時間を活用したマイクロラーニングに向いており、個人のペースに合わせて目標を設定して学習を進められます。また、最新テクノロジーの活用で、さらに機能を進化させています。とくに、受講者が身に付けたいスキルを登録すると、AIが適切なコンテンツを推奨してくれる機能が好評ですね。

LinkedInラーニングのコース例(ビジネス、テクノロジー、クリエイティブ)

――では、富士通がLinkedInラーニングの導入を決めた理由について、お聞かせください。

平松 社員が主体的に学ぶ環境を構築するうえで、適切な学習プラットフォームだと考えたからです。LinkedInラーニングのように、ビジネスのトレンドを素早く捉えて、ニーズの高い学習コンテンツをつねに更新することは、自前ではまず不可能です。人材育成効果や、費用対効果から考えても、LinkedInラーニングが優れています。

また、社員が学んだデータを可視化できるので、HR部門としてスキル認定制度を用意しなくても、誰がどういうスキルを持っているのかを把握できます。そのデータは人材育成の方針や、人材ポートフォリオを描くときに非常に有益です。

――現在、どれくらいの従業員が、どのように活用しているのでしょうか。

平松 2023年4月にLinkedInラーニングを導入して、現在(同年6月)までにグローバル約12万5000人が活用できるようにしました。この2カ月で約70%の社員が利用しています。すべての世代が活用しており、向学心に火がついている状態です。

平松浩樹氏と田中若菜氏の対談風景

田中 70%という活用状況は、世界トップレベルです。リスキリングを根付かせるためにLinkedInラーニングを導入され、人的資本経営の理念が、具体的な戦略に落とし込まれていることがよくわかります。

リスキリングは一過性のものではなく、日本の産業競争力を強化していくためには、継続していく必要があります。その観点から考えても、主体的な学びをカルチャーにするべく促進されていることは非常に意義深いですね。

平松 富士通では、主体的な学びを継続させるため、23年5月下旬にグローバルで「富士通スキルズリーグ」を実施しました。これは、LinkedInラーニングで学んだことや実践していることをオンラインで共有し合うイベントです。普段仕事で接点がない人と、学びを通してつながり、モチベーションを高める機会として提供しています。こうした取り組みも、リスキリングのカルチャー醸成に役立つと考えています。

「人材獲得戦略」としてのリスキリング施策の価値

――LinkedInラーニングは、富士通の人材戦略の要となるツールとして大きな役割を担っているのですね。改めて、LinkedInラーニング活用における展望をお聞かせください。

平松 これからいっそう変化が激しくなるIT業界で成果を上げるには、トレンドを踏まえたスキルを獲得していかなくてはいけません。現在、LinkedInラーニングの使い方や学ぶ内容、学ぶ時間については、個人に委ねています。どの学びが仕事の成果に直結するのか、誰にも判断できないので、あくまでも個人の裁量を重視しています。

学ぶ時間を限定しないことで、「仕事をせずに毎日勉強ばかりしていたらどうするんだ」という懸念もありました。ただ、それでは仕事のパフォーマンスが出ませんから、おのずと両立できるよう努めるだろうと考えて、時間の規定は設けていません。LinkedInラーニングを一人ひとりが主体的に活用することで、機敏に変化できる強い組織を構築できると確信しています。

平松浩樹氏と田中若菜氏の対談風景

また、今後は競合するグローバルIT企業の学びの傾向を示したLinkedInラーニングのデータと、自社の学びの状況を照らし合わせて分析しつつ、人材ポートフォリオの充実を進めていきます。

今、当社では多国籍のチームで仕事を進めることが増えていますが、チームマネジメントに関する捉え方に違いがあり、課題と感じているところがあります。そのため、チームマネジメントやリーダーシップについてはグローバルで共通の学びを深め、多国籍チームであっても円滑な運営ができるよう強化していく予定です。

田中 ジョブ型雇用を基本とする海外企業では、リスキリングは従業員の教育だけではなく、企業ブランディングや人材獲得戦略として位置づけているケースが多いです。こうした取り組みは、従業員エンゲージメントを高めるだけではなく、やる気と向上心がある人材に響き、人材獲得の優位性につながるのだろうと感じます。

平松浩樹氏と田中若菜氏の対談風景

現在、LinkedInラーニングは、米国企業の総収入ランキングトップ100の企業の約80%で導入(リンクトイン・ジャパン調べ)されていますが、コミュニケーションやリーダーシップなど普遍的にニーズが高いコンテンツのほか、ダイバーシティ、ESG(環境・社会・企業統治)に関する学びも充実しており好評です。こうした視点で従業員のスキルアップを目指している企業にも、ぜひご活用いただければと思います。

法人向け「LinkedInラーニング」について詳しくはこちら

お問い合わせ
関連ページ