名護市とKPMGが目指すスマートシティの理想像 「"響鳴都市"名護」の実現に向けて本格始動
「もっと輝く名護へ」市長の思いが、新都市構想の原動力に
青い海に囲まれ、緑深い山々が連なる名護市は、全国有数の観光資源を有し沖縄本島北部地域の中核都市として発展してきた。今、その名護市が、スマートシティ構想を主体とした変革に乗り出している。
2023年1月には、スマートシティ関連事業を推進し、人や企業が集まり活気あふれる地方都市の理想像「“響鳴都市”名護」を実現することを目的に「一般社団法人名護スマートシティ推進協議会」(以下、協議会)が発足した。社員企業には沖縄県内外の7社が参画している。
そして2023年5月、多岐にわたる分野の連携事業を継続的に推進していくため、名護市と協議会で包括連携協定を締結。締結日に合わせて開催された記者会見では、協議会の運営組織「名護スマートシティコンソーシアム」を設立し、県内外から参加企業・団体を広く募るとともに、健康・福祉、子育て・教育、産業振興など、名護の地域課題ごとにワーキンググループを設置するなど、活動を本格化させることを表明した。
一連の取り組みの原動力は、渡具知武豊(とぐち・たけとよ)市長の「名護市をもっと輝かせたい」という思いだ。渡具知市長は、スマートシティ名護モデルを構想した背景について、次のように明かす。
「名護市は、これまで金融・情報通信産業などの企業誘致に取り組み、40社以上1200名以上の雇用(2023年6月末時点)を創出しました。今後もさらなる企業誘致に取り組むためには、新しい社会潮流と技術革新に適応した新たな仕組みづくりに加え、『子育て』『観光』『交通』など各分野の横断的な取り組みが必要です。
しかし現状に目を向けると、地域経済の停滞や公共交通などの生活利便性に関する満足度の低下、若年層の『名護離れ』に起因する将来の担い手不足などの地域課題が山積しています。このような状況から脱却し、国内外の自治体の取り組みを調査・研究する中で、スマートシティという概念に可能性を感じたのが始まりです」
スマートシティを実現に導く「専門家」の存在
「“響鳴都市”名護」実現のために、渡具知市長は企業との連携を模索。国内外のまちづくり、スマートシティに知見を有する民間企業や地元企業、地域の学術機関などの協力を得ることが不可欠であると考えた。
スマートシティ名護モデルの実現に向け、2022年8月に名護市と包括連携協定を締結し、現在は協議会の社員企業の一員として名護市に伴走しているのが、KPMGコンサルティング(以下、KPMG)だ。スマートシティ推進に向けた専門チームも立ち上げ支援体制を強化している。
KPMGは戦略策定、組織・人事マネジメント、DXなど多岐にわたる領域の知見を生かし、基本計画となる「スマートシティ名護モデルマスタープラン」の策定をはじめ、スマートシティの推進役となる協議会の設立にも携わっている。代表取締役社長兼CEOの宮原正弘氏は、名護市との連携を進める理由について、こう説明する。
「名護市は、中心市街地の再開発による『まちの賑わいの創出』や2025年に開業予定の新しいテーマパークの建設など、まさに変革の最中にあります。さらに、渡具知市長をはじめとする名護市役所の職員の皆様の『もっと輝く名護市』をつくっていくという熱意と一体感、覚悟が大変強く感じられ、われわれも連携に向けたモチベーションが喚起されました」
スマートシティの実現には、単なる「デジタルの実装」ではなく、熱量を持つキーパーソンの存在が不可欠だ。その観点から、名護市は市長から職員まで一人ひとりが自分事として、市の発展を渇望する熱量があった。そこに大きな飛躍の可能性を感じたことから、KPMGはビジョンの実現に向けてサポートを決めたという。
渡具知市長はKPMGとの連携について、こう振り返る。
「KPMGは、スマートシティに関してさまざまな知見を有しており、『日本全体の活性化のためには真の地方創生が必要』といった視座やビジョンが、名護市の思い描くものと一致したことが、パートナーとして選定する重要なファクターとなりました。そして何より、この名護市をよくしたい、もっと輝かせたいという思いを、宮原社長をはじめとする関係者の方々から強く感じたことが決め手でした」
KPMGコンサルティング初となるオープンイノベーションセンターを名護に開設
2023年5月にKPMGは、新たに名護市産業支援センター内にオープンイノベーションセンター「Nago Acceleration Garage」を開設した。
スマートシティの実現や産官学連携による未来視点での“人財”育成、および新たな産業創発に取り組む場として、スマートシティ関連のセミナーや、産業創発に向けたオープンイノベーションプログラムやワークショップ、デジタル技術体験イベントなどを予定している。大手企業からスタートアップ、学生まで、幅広い層が集う場として活用する方針だ。
「思いがけない出会いや、新たな学び・気づきを生み出し、名護市をよりよくするためのアイデアが湧き出てくるための拠点を目指しています」と展望する宮原社長。また、もう1つ重要な開設の目的に「未来人財の育成」を挙げる。
「便利なまちを創って終わりではなく、名護市の持続的な発展のためには、VUCA時代においても活躍できる『未来人財』が必要だと考えています。地域に根付いた人財を中心に育成し、育った人財が新しい産業を創り、社会への実装を経てその成功体験を後世に伝達していくという循環サイクルを新たな価値として創出することで、『もっと輝く名護市』の実現に向けた思いが受け継がれると考えています」(宮原社長)
渡具知市長も「まさしくスマートシティや地域イノベーションが生み出される拠点となる」と評価する。「“響鳴都市”名護」の実現に向けて、官民の連携が加速している名護市。この取り組みの究極のゴールは、日本全国の地方都市に活気をもたらすことだ。渡具知市長は、こう期待する。
「名護市の成果が日本各地に伝播していくことで、日本を元気にしたい。その夢を実現するためにも、KPMGには伴走し続けてほしい」
宮原社長はその期待に応えるように、こう力を込める。
「当社は、名護市の方々と共にビジョン・計画などの策定から実証、実装に至るまで、総合的かつ長期的に伴走したいと考えています。『変革オーケストレーター』として、ここ名護市でスマートシティに向けた地方創生のデジタルエコシステムを構築し、名護発の応用モデルを全国、さらには世界に広げていきます」
「“響鳴都市”名護」の実現に向けて、特定業務を受託し支援する従来型のコンサルティング支援の姿勢ではなく、スマートシティの実装・事業そのものにも関わるなど深い関係を構築しているKPMG。スマートシティ構想の実現のみならず、地方都市とコンサルティングファームの新しい関係の発展にも期待したい。