国交省×警察庁対談「交通事故ゼロ」に懸ける思い 被害者を支える「自賠責保険」の確かな価値

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国土交通省 大臣官房審議官(自動車局担当)の住友一仁氏 警察庁 長官官房審議官(交通局担当)の小林豊氏
自動車をはじめ快適な移動を実現するモビリティは、私たちの暮らしに不可欠だ。近年は電動キックボードが普及の兆しを見せている。しかし交通事故は後を絶たず、加害者と被害者の双方に身体的・心理的な苦痛、経済的な損失などをもたらす。コロナ禍が一定の落ち着きを見せ、人の移動が活発になり始めた今日この頃。モビリティとの付き合い方を考えるべく、国土交通省大臣官房審議官(自動車局担当)の住友一仁氏と、警察庁長官官房審議官(交通局担当)の小林豊氏が対談を行った。

日本の「交通死亡事故」の傾向

――日本の交通事故発生状況は、近年どのような傾向にあるのでしょうか

小林(警察庁) 全体としては減少傾向にあり、2022年の交通事故死者数は2610人と、1948年以降の統計で、最少を6年連続で更新しています(※1)

歴史を振り返ると、戦後は自家用車の浸透を背景に事故件数が増大。交通事故死者数は1951年(4429人)から70年(1万6765人)で約3.8倍に増えました(※2)。交通戦争といわれる社会問題となり、70年に交通安全対策基本法が制定されました。同法に基づき、71年以降、11次にわたる交通安全基本計画を作成し、国、地方公共団体、関係民間団体等が一体となって交通安全に関する施策を強力に推進した結果、交通事故死者数は減少しました。背景には、道路環境の改善、自動車の安全性向上、交通ルールの改正などが挙げられますが、交通事故がメディアで頻繁に報道されるようになったことや、人々の交通事故に対する意識の変化もあると考えられます。

警察庁 長官官房審議官(交通局担当) 小林 豊氏
警察庁 長官官房審議官(交通局担当)
小林 豊

一方で、日本は欧米諸国と比べて、歩行中や自転車乗用中に交通事故に遭い亡くなる方の割合が高く、約50%となっています(※3)。また、飲酒運転による交通事故もいまだに後を絶ちません。そのため警察庁をはじめ政府としては、「こどもや高齢者をはじめとする歩行者の安全の確保」「自転車の交通ルール遵守の徹底」「飲酒運転等の悪質・危険な交通違反の取締り」を交通安全の重要な柱として取り組んでいます。

――最近は、次世代のモビリティとして、電動キックボードが注目されています。2023年7月1日から施行される改正道路交通法では、16歳以上は運転免許がなくても乗れるものもあり、それらは自転車と同じく乗車用ヘルメット着用が努力義務になるそうですね。

小林(警察庁) このたびの法改正により、原動機付自転車(以下、原付)のうち、車体の大きさや構造などが一定の基準に該当する電動キックボードなどを「特定小型原動機付自転車」(以下、特定原付)として区分します。特定原付の運転は、原付と同様、16歳以上の年齢制限を設けています。

特定原付の運転に免許は不要ですが、交通ルールの周知徹底は必要です。特定原付の販売事業者やシェアリング事業者は、利用者や購入者に対し、ルールなどの安全教育を行うことが法律上求められています。また、こうした事業者により年齢確認も行われることとなっています。利用者が「ルールを知らなかった」ということがないようにすることが不可欠です。

電動キックボードなどは新しい移動手段として期待される一方で、交通事故につながる危険性が懸念されています。ヘルメットの着用は努力義務となっていますが、交通事故時の頭部損傷による致死率を下げることは明らかなので、自転車と同様に着用促進を図っていきたいと考えています。

自賠責保険は加害者と被害者の双方を救う制度

――電動キックボードは1台ごとに、「自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)」への加入義務があると伺いました

国土交通省 大臣官房審議官(自動車局担当) 住友 一仁氏
国土交通省 大臣官房審議官(自動車局担当)
住友 一仁

住友(国交省) そのとおりです。電動キックボードは原付として扱われるため、自動車と同様に自賠責保険の加入義務があります。自賠責保険は、事故が起きた場合に、被害者が基本的な補償を受けるための制度です。

電動キックボードの運転時には、ナンバープレートに保険標章(ステッカー)を貼付し、自賠責保険証明書を携帯することが義務づけられています。ただ、電動キックボードには通常、荷物入れがありませんので、その場合には証明書の写真(電磁的記録)をスマートフォンなどに保存して携行することが可能です。

もし自賠責保険に未加入で電動キックボードを運転すると、1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられます。また、事故によって被害者に重い障害を負わせたり、死亡させたりした場合、巨額の賠償金を自己負担しなければならないリスクもあります。

――自賠責保険は、人間とモビリティが安心して共存できる社会に欠かせない制度ですね。

住友(国交省) 電動キックボードに限らず、自動車や原付も自賠責保険への加入義務があります。自賠責保険は、交通事故被害者への保険金の支払いのほか、一部はひき逃げ事故や無保険事故(自賠責保険に未加入の車両による事故のため自賠責保険から補償が受けられないもの)の被害者に対する補償に充てられます。

これは、加害者がわからない場合や、加害者から賠償金を受け取れない場合でも、被害者に保障金を支払うべきだという考え方に基づいています。ひき逃げ犯が逮捕されるなど特定された後や、無保険事故の被害者への補償後に、国交省がしっかりと加害者など本来の賠償責任者に請求します。

「共助」は交通事故で苦しむ人を減らすために必要

警察庁 長官官房審議官(交通局担当)の小林豊氏

――2023年4月に、自賠責保険に関する法律(自動車損害賠償保障法)が改正されたそうですね。どのように変わったのでしょうか。

住友(国交省) 現在、国交省では、被害者支援や事故防止対策に取り組んでいます。例えば、自動車事故対策の専門機関(ナスバ)では、脳損傷による自動車事故被害者の専門病院を運営しています。そこで実施される集中的なリハビリで症状が改善する割合は一般の病院と比べて高く、多くの事故被害者の支えとなっています。また、重い後遺障害を負った家族を在宅介護される方に介護の経費を支給したり、交通事故で親を亡くされたご遺族への生活の支援をしたりと、多角的に取り組んでいます。ほかにも、自動車事故防止を目的として、ASV(先進安全自動車)の技術開発の促進、自動車安全性能の評価の実施などに取り組んでいます。

これら取り組みの原資は、自賠責保険による積立金の運用益を活用してきましたが、長年の低金利や継続的な積立金の取り崩しによって、今後、枯渇する可能性が生じていました。そのため、被害者支援や事故防止の取り組みを安定的かつ持続的なものとするため、2022年に自賠法を改正し、23年4月から、自賠責保険料に含まれる「賦課金(特定の事業を行うことを目的に納付するお金)」を拡充しました。国交省では、今回の賦課金を活用して、被害者支援等についていっそうの充実を図るなど、今後も被害者に寄り添った取り組みを進めていきます。

――近年の交通事故情勢や、自賠責保険が果たす役割の重要性について、よく理解できました。最後に読者へのメッセージをお願いします。

国土交通省 大臣官房審議官(自動車局担当)の住友一仁氏

小林(警察庁) 交通事故死者数はかつての交通戦争といわれた時代と比べて確かに減少していますが、今なお多くの尊い命が交通事故で失われていることには変わりなく、日本社会全体にとって重要な課題です。交通事故で亡くなった方のご遺族や、重度の後遺障害を負った方は、本当に大変な思いをされています。障害やケガで苦しむ家族を支えるために、仕事を辞めて介護に専念するケースもあります。

そうした方々を一人でも減らすためには、交通事故のない社会を目指していかなければなりません。自動車や電動キックボード等を運転する方には、交通社会の一員としての責任を自覚し、悲惨な事故の抑止にご協力いただきたいと思います。また、警察庁では、交通事故被害者等の支援の充実を図ることを目的として「交通事故被害者サポート事業」を行っていますが、国土交通省の被害者支援事業とも連携を強化して、今後も、安心して生活できる社会づくりのために取り組んでいきます。

住友(国交省) 自賠責保険は「共助」の仕組みであり、社会の一員であるドライバーたちの助け合いによって、被害者支援や事故防止対策の充実を図っています。とくに新たに電動キックボードに乗られる方は、しっかりと自賠責保険への加入をお願いします。

事故防止対策と事故被害者支援は、交通事故の加害者にも被害者にもなりうるすべての人のためのものです。ドライバーは、いつ被害に遭うか、そして加害者になるかわかりません。国は、万が一のときに本当に必要な支援が、本当に必要な人に届くように制度を整備しています。

自賠責保険制度の目標は、突き詰めれば、人々が安心して生活できる社会の構築です。「交通事故による被害で苦しむ方をゼロに」。この目標を胸に、警察庁と協力しながら、安心な社会を築いていきます。

※1、※2 出典:警察庁「令和4年中の交通事故死者数について」
※3 出典:警察庁「令和4年における交通事故の発生状況について」

>自賠責保険って? ポータルサイトはこちら

>「特定小型原動機付自転車(いわゆる電動キックボード等)に関する交通ルール等について」はこちら