日本企業のCFOに求められる2つの「シコウ」とは 共感力を持つ「価値創造ストーリー」の描き方

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PwCコンサルティング合同会社 森本 朋敦氏 PwCコンサルティング合同会社 小林 たくみ氏
経営の舵取りが難しい局面を迎えている。これまで以上に迅速に、かつ経済的価値および社会的価値の両面を踏まえた意思決定が求められる中で、CFOおよびファイナンス機能はどのような役割を担うべきなのか。ファイナンス・トランスフォメーションを支援しているPwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)のコンサルタントは「2つのシコウ(思考・志向)」の必要性を指摘する。不確実な時代をリードするCFOのあり方を探った。

日本企業のCEO、米国と比較して危機感が高い理由

示唆的なデータがある。PwCが2022年10月から11月にかけて実施した「第26回世界CEO意識調査」(※)によれば、日本企業のCEOはグローバルでも飛び抜けて強い危機感を抱いていることがわかった。72%が「現在のビジネスのやり方が通用するのは10年以下」と回答。しかし、世界全体のCEOは39%、米国のCEOに至っては20%だった。

図表1
※出所 PwC「第26回世界CEO意識調査」

逆に、「10年超通用する」と回答した日本のCEOは22%と少なく、米国のCEOは79%が自信を持っていることが判明している。この結果について、「日米企業のパフォーマンスの違いが反映されている」と分析するのは、PwCコンサルティングの森本朋敦氏だ。

PwCコンサルティング合同会社 森本 朋敦氏
PwCコンサルティング合同会社
パートナー
ビジネストランスフォーメーションコンサルティング事業部
森本 朋敦氏

「国民性の違いもありますが、米国企業に多いプロ経営者には、長期目線で物事を考える習慣があります。しかし、日本はオーナー企業を除くとほとんどがプロパー経営者です。今期、来期の成果を上げることが求められていた事業部長が、CEOになっていきなり先を見据えた経営をしようとしても、なかなか実践できるものではありません」

同じくPwCコンサルティングの小林たくみ氏は、「CEOの思考が、先を見通せないという危機感を持つだけにとどまっているのでは」と懸念する。「経営者の職責は、具体的なアクションにより危機を脱することです。危機意識を持ちながらも、アクションを起こせないという現実が、72%という高い数字に表れているのではないでしょうか」。

日本企業がアクションを起こせていないという分析は、相対的に低いPBR(株価純資産倍率)を裏打ちしているようだ。「少なくとも、マーケットからはそのように評価されていると言えます」と小林氏は続ける。

「東京証券取引所が全上場企業に資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応を要請しているように、非財務資本や無形資産に焦点が当たるようになってきました。ですからCFOは、非財務領域まで踏み込まないと真のマネジメントができない時代になっているのです」

結果の管理から将来の創造へ

CFOやファイナンス機能には、どうしても経理や会計のイメージが付きまとう。しかし森本氏は、「経営から見れば財務や会計の数値は結果にすぎず、それを管理するだけでは本来のCFOのミッションを果たしているとは言えません」と断言する。

「CFOとファイナンス機能の本来のミッションは、企業価値の持続的向上です。CFOには、価値創造ストーリーを描くところから始まり、投資家、顧客、従業員、サプライヤーなどさまざまなステークホルダーに発信し、共感を生むことが求められています。そして、中長期的な企業価値向上に対する社会からの期待に応えていかなくてはなりません。そのためには、足元の財務数値管理に時間をかけることなく、AIを含めテクノロジーを積極的に活用して、将来を先読みすることに時間を使うべきです」

「思考」と「志向」という2つの「シコウ」

では、CFOやファイナンス組織は、どのように価値創造ストーリーを描き、ステークホルダーの共感を生み出す「価値創造経営管理」を実現すればいいのか。PwCコンサルティングの両名が提案するのは「2つのシコウ(思考・志向)」だ。

図表2

「1つは『時間軸の拡張(志向の変革)』です。企業の将来をつくることが、経営者の仕事です。先を見通せない状況が続いているからこそ、将来を予測し、そこからバックキャストして価値創造ストーリーを立案し、可視化し、共有しなくてはなりません」(森本氏)

「時間軸の拡張(志向の変革)」を実践するためには、もう1つのシコウである「価値構造の拡張(思考の変革)」が欠かせない要素となるという。どういうことか。

「景色を眺めるとき、足元だけを見るとどうしても狭い範囲しか見えません。でも遠くを見れば、広く見えますよね。目線を遠くに向けると、自然と視野も広くなっていきます。つまり、将来を見通すことで、人的資本や知的資本、研究開発力、サプライヤー・顧客との関係性といった無形資産など、さまざまな領域まで意識せざるをえなくなるのです」

無形資産の形成・強化を企業としての継続的な活動に埋め込んでいかないと、価値創造ストーリーは“絵に描いた餅”で終わってしまう。価値創造ストーリーが本当に価値創造につながっているかを随時検証するため、KPIを設定してつねにモニタリングし、改善を図るべきだと説く。

「ただ、KPIの設定が難しいことも事実です。設定すると組織はそこを目指すようになりますので、不適切なKPIを設定すると社内全体のベクトルがずれてしまう可能性があります。例えば、営業セクションにおいて成約率のような『結果』を現場のKPIとして設定してしまうと、単なるノルマになってしまいかねません。適切な活動を促すようなKPIの設定が重要です」

プロフェッショナルファームが支援する意義

さらに、経営環境や社会が目まぐるしく変化する中で、「価値構造の拡張(思考の変革)」と「時間軸の拡張(志向の変革)」を随時回していくには多様なケイパビリティを要する。現実との相関関係をモニタリングするには、CRMや非財務情報を管理するシステム基盤も必要だ。

これらを社内だけですべてカバーするのは困難が伴うだろう。専門的な知見やスキルを持つ人材を集めるのも、それらをマネジメントするのも容易ではない。そこで、PwCのような総合プロフェッショナルファームはどのような役割を担うのか。

PwCコンサルティング合同会社 小林 たくみ氏
PwCコンサルティング合同会社
パートナー
ビジネストランスフォーメーションコンサルティング事業部
小林 たくみ氏

「私たちが提供するのは、価値創造ストーリーの作成やKPIの設定などの『作業』ではありません。それらは、CFOをはじめとする経営者自身がやらなければ意味がないからです。『手触り感』や『シズル感』という表現がよく使われますが、価値創造自体が企業ごとに千差万別だからこそ、経営者自らが納得しながら主体的にストーリーを作成しない限り、『共感』を生むストーリーとして機能していかないのです。作業を請け負うのではなく、経営者自らが主体的に作成できるように、気づきを与える意図を持った質問を行い、『手触り感』や『シズル感』を持った変革への道筋を引き出すのがプロフェッショナルファームの存在意義だと思っています」(小林氏)

当然、「気づきを与える意図を持った質問」をするには、全体を深く理解し、考え抜いた自らの答えを持つことが不可欠だ。そのためPwCコンサルティングではコラボレーションを最重要視し、PwC Japanグループの各法人、グローバルネットワークの各法人とつねに連携することでさまざまな専門性や知見を結集している。「私たちはクライアント企業のいろいろな方にインタビューをしますが、企業カルチャーや仕事を進めるうえでの考え方を知るのが目的です。それを踏まえて最もフィットする方法を探り、価値創造ストーリーの策定支援からKPIの設定・活用支援、そのためのプロセス・ルール・システムの構築までご支援しています」と森本氏は語る。

インタビューの最後、小林氏はこう締めくくった。「加速度的に経営環境が変化し、不確実なリスクが高まる中で、ステークホルダーも短期的な財務成果より中長期の成長につながる無形資産や、価値創造ストーリーに期待を寄せています。企業のCFO、ファイナンス機能も、過去や足元を見る従来の『業績管理』から脱却し、『思考』と『志向』による価値創造経営へシフトするタイミングではないでしょうか」。

ファイナンス・トランスフォメーション支援の詳細はこちらから

森本 朋敦氏
PwCコンサルティング合同会社 パートナー
ビジネストランスフォーメーションコンサルティング事業部
自動車、自動車部品、電機・精密、機械、化学、食品などの大手製造業を中心に、コンサルティング業界で通算30年程度の業務経験を有する。その多くは、経営計画体系・プロセス改革、経営組織改革、連結管理会計、原価管理、KPIマネジメント、MOT(Management of Technology)などの経営管理領域。また、事業再生案件にも相当数従事。公認会計士の資格を有している。
小林 たくみ氏
PwCコンサルティング合同会社 パートナー
ビジネストランスフォーメーションコンサルティング事業部
約15年にわたり大手外資系コンサルティング会社においてビジネスコンサルティングに携わり、マネジメントコンサルティング・テクノロジコンサルティング双方の専門性を有する。コーポレート機能全般の戦略立案、構造改革、組織再編、オペレーション改革に至るエンドツーエンドのプロジェクトをリードした実績を持つ。グローバル/国内双方でのプロジェクトマネジメント経験に加え、寄稿やカンファレンス講演、研修講師など対外発信活動の実績も多数有する。
PwCコンサルティング合同会社 森本 朋敦氏 PwCコンサルティング合同会社 小林 たくみ氏