ペットボトルに学ぶ「日本型」資源循環のヒント 「リサイクル」から「循環経済」の実現・発展へ

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「このスーツは、リサイクルしたペットボトルからできています」。このような文言を街角で見かけても、ペットボトル・リサイクルが広く定着している日本では、驚く人は少ないだろう。日本は世界トップクラスのペットボトル・リサイクル国だ。2021年度のリサイクル率は86.0%※1と、欧米諸国に比べはるかに高い。再生技術や回収スキームが優れているだけでなく、再資源化しやすいよう飲料業界が設計段階から協調してきたことも大きな要因である。今後、さまざまな製品分野で資源循環を進めていくには、このような協調の発想を広げていくことが欠かせない。ペットボトルの取り組みをヒントに、日本が目指すべきサーキュラーエコノミーの針路を探る。
※1:PETボトルリサイクル推進協議会「年次報告書2022」

廃棄物削減策ではなく「成長戦略」

近年、「サーキュラーエコノミー(循環経済)」というキーワードが日本でも注目を集めている。欧州連合(EU)が2015年に成長戦略の一環として打ち出した概念だ。大量生産・大量消費を前提としたリニアエコノミー(線形経済)から脱し、あらゆる資源を持続可能なかたちで循環的に利用しながら、その過程で新たな価値創造やビジネスチャンスの獲得を目指すものである。

もちろん世界各国はこれまでも、廃棄物の削減や資源を有効に活用するために、さまざまな製品のリサイクルに取り組んできた。しかし、製品がごみとして廃棄されて初めてそのリサイクル方法を考えるようなやり方では、資源を循環させるにも限界が出てくる。そこで、「製品開発」と「リサイクル」を別々のものと捉えるのではなく、あらかじめ再資源化を想定して、企業が協調して設計開発に取り組むような発想が、サーキュラーエコノミーの実践において重要になってくる。

前述のように、日本はペットボトルにおいて大きな成功を収めている。しかし、じつはそれ以外の資源分野では出遅れているのが実情だ。

「日本がいち早く法制化した『食品リサイクル法』や『建設リサイクル法』などは、世界に類を見ない非常に先進的な取り組みといえます。ただ、これまで『容器包装』や『家電』など品目別にリサイクル法制を整備してきた結果、『プラスチック』『金属』などの素材起点のリサイクルのために業界横断的に協力する発想が生まれにくかった面はあります。今後はより広範な資源循環を目指し、ペットボトルにみられる飲料業界の取り組みのような企業間協調が、ますます重要になっていくと考えられます」(MRI研究員)

あらゆる製品分野での資源循環を想定すると、別の課題も見えてくる。例えば、日本から国外に出ていった輸出品の再資源化をどうすべきか。

「日本の基幹産業の自動車を例にとると、国内の四輪車生産台数約785万台のうち、輸出台数は約382万台※2にのぼります。『製造』から『国内消費』に至るまでに、すでに約半分の資源が海外に流出しているわけです。それをどう回収し資源として再利用するのかという視点も重要になってきます」(同)

さらに消費後の「排出・回収」と「処理・リサイクル」の過程でも、摩耗や不法投棄などに伴うロスが少なからず発生する。たとえサーキュラーエコノミーに移行してもその点は変わらない。同じ量の製品をつくり続けようとすれば、循環の過程で失われるのと同等またはそれ以上の量のバージン資源(一次資源)を新たに投入しなければならない。そのため将来的には、サーキュラーエコノミーの枠組みを国内だけでなく近隣のアジア諸国などを巻き込んで構築していくことも必要になるだろう。既存のサプライチェーンを資源の回収を前提に見直し、新たな調達・循環システムとして再構築していくことが求められるかもしれない。

※2:一般社団法人日本自動車工業会2021年統計。輸入車販売台数は約34.5万台

「先進技術」と「協調領域拡大」の掛け算

こうした課題とその解決策は資源ごとに異なるため、個別に分析しなければ見えてこない。ここでは国内で活用する主要資源44品目※3から、「プラスチック」と「蓄電池資源」の2領域を取り上げ、注目すべき論点を見ていこう。

まず資源としてのプラスチックの特徴は、石油を原料とする化石燃料由来の資源であり、製造過程で熱を必要とするため、カーボンニュートラル化が強く求められていることだ。その一方で、冒頭でも述べたように、リサイクルが進んでいるのはペットボトルなどごく一部で、プラスチック全体の再生資源の利用率は全体で10%程度といわれている。もし、一次資源である石油の利用を極力抑え、再生過程でのCO2排出も削減したプラスチック再資源化の仕組みが実現できれば、サーキュラーエコノミーにもカーボンニュートラルにも大きく貢献することになるだろう。もちろん容易ではないが、技術面でのイノベーションにつながる余地は大きいと考えられる。

このほか、プラスチック資源循環を活性化させるためには、質と量の両面で二次資源のリサイクル機会拡大を実現する「二次資源マーケットの構築」や、国内バイオマス資源の円滑な調達を実現する「生産者・利用者連携」などを進めていくことも重要になる(詳しくは関連レポートを参照)。

一方の蓄電池資源は電気自動車(EV)向けをはじめとして、今後、爆発的な需要の伸びが想定される。しかしながら、依然として循環システムが確立されていない。世界的に普及が進むEV用途だけでも、将来的な巨大市場が予想される一方で、そもそも現時点で寿命を終えた使用済み製品は依然として少ない。再資源化の対象となる蓄電池資源が大量に発生するのは、少なくとも10年ほど先の話になる。

「まとまった量の使用済み蓄電池が出てこない現段階で、循環システムを構築するのは難しいのですが、やるべきことはあります。1つは電池の中古品リユースやシェアリング型ビジネスを普及させること。もう1つはリサイクルの観点から日本のリサイクル産業の競争力を高めるための技術革新と事業モデルの確立です」(同)

例えば蓄電池の一種であるリチウムイオン電池には、リチウムは化合物の状態で使用されている。電池の廃棄後に再利用する場合、リチウム元素だけの抽出を考えるのが一般的だが、もし化合物状態のまま抽出し再利用につなげるような技術革新ができれば、効率的なリサイクル・再資源化に大きく貢献すると期待できる。

このような技術的なイノベーションとともに、資源循環の拡大に必要とされるのは、ペットボトルで行われているような業界内での「協調」だ。

「どの素材・製品でも、差別化を目的とした競争領域ではない『先進技術を活用した協調領域』を広げていくことが必要です(図3)。既存の技術やスキーム(枠組み)だけでは限界突破は不可能です。先進技術と協調領域は推進の両輪で、両者を組み合わせて(掛け算して)初めて新たな資源循環が実現されます」(同)

日本には「もったいない」の精神や、資源小国ならではのモノづくり技術とその輸出で経済成長を遂げてきた実績がある。単に欧州が掲げるCEに追随するのではなく、むしろ欧州とは違った日本流の資源循環を通じた成長のあり方を考えていくことが重要になってくる。

※3:通商産業省(1999年)「循環経済ビジョン」の評価資源に、経済産業省(2012年度)「資源確保戦略」の戦略的鉱物資源と、枯渇の懸念される肥料資源(リン、カリウム)をもとに選定
 

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