上場企業2社が「Workday」で実現した人事戦略 リアルタイムの人材情報可視化がもたらす効果
【Sansan】飛躍見据え、人事データの一元管理を断行
「出会いからイノベーションを生み出す」をミッションに掲げるSansan。「ビジネスインフラになる」というビジョンのもと、名刺管理を超えた営業DXサービス「Sansan」やキャリアプロフィール「Eight」、インボイス管理サービス「Bill One」、契約DXサービス「Contract One」などを展開している。
「当社は、データから価値を見いだし、いかにビジネスシーンへ還元するかに力を注いでいる会社です。そのため社内も同様に、データを生かすことで、社員がより生き生きと働ける環境づくりに注力しています」と話すのは、取締役CHROの大間祐太氏。
同社は2019年6月に東証マザーズへ上場し(21年に東証一部、22年にプライム市場へ移行)、事業の多角化を進めるに当たって採用も急加速。人事業務を効率化するとともに、エンゲージメントを含めたより高度なパフォーマンスマネジメントを行っている。
しかし、と大間氏は今から約4年前の2019年当時の状況を振り返る。
「当時は評価や給与、勤怠といったデータが各システムでバラバラに管理されている状態で、入社や異動といった動きが発生するたびにデータ結合などさまざまな事務作業が発生していました。また、社内の人材が過去どの部門にいて、どんな異動を経て今に至るのかといった情報を得るのも難しかった。そのため、より俯瞰的な視点でのデータ分析・活用ができるプラットフォームを導入したいと考え、ワークデイの『Workday HCM』を導入しました」
あちこちからデータを集めると、どうしてもデータクレンジングが必要になる。それが不要となるうえ、さまざまな社内システムとの連携も柔軟にできるのが決め手となったと大間氏は語る。見逃せないのは導入スピードの速さだ。2020年2月から要件定義を開始し、わずか5カ月で実運用にこぎつけた。しかも、IT部門の支援を最小限に、人事部門中心で完了したという。
「もちろん最短でやりたいという思いはありましたが、無理なく進められました。他のシステムとの連携を前提に設計されていると聞いてはいましたが、実際に連携しやすく、非常に助かっています。また、ユーザーコミュニティサイトが非常に充実していて、過去のQ&Aやナレッジが調べやすいのも便利ですね」(大間氏)
社員コミュニケーションのハブとしても機能
Workdayの導入は、Sansanのスピーディな人事施策に大きく貢献した。象徴的なのが、2021年10月にスタートさせた新たな勤務形態だ。コロナ禍の先行きが不透明な中で、いち早くオフィスとリモートワークを掛け合わせた働き方を導入。職種ごとに出社頻度を見直した。
「Workdayのマスターデータを活用し、モニタリングすることで、リモートワークが長くなるにつれてエンゲージメントが下がることがわかったんです。とりわけプロフィット部門はその傾向が顕著でした」
その後、出社頻度を上げたことでプロフィット部門のエンゲージメントが回復。予算を配分して会食の機会を提供するといった施策も展開し、業績向上につながる効果も出ていると大間氏は明かす。
「とくに組織変更や新たな人事施策を開始した際に、エンゲージメントの上昇・下降傾向を注意して見るようにしています。Workday導入前は、施策の効果を裏付けるデータが分散していましたが、今はファクトベースで議論できるのが大きいですね」
こうしたマネジメント側の意思決定だけでなく、社員間のコミュニケーションのハブとしても有効に活用。仕掛けの1つが、プロフィールデータの実装だ。
「当社には、自分の強みを言語化し、ワークショップ形式で共有する『強マッチ(ツヨマッチ)』という制度があります。創業時から、いかに一人ひとりの強みを生かすかを大切にしてきましたが、それをWorkdayにも実装しました。自分の強みやスキル、キャリア入社ならば前職の情報を、任意で入力してもらっています」
例えば有望なマーケットとなりそうな特定業界のリサーチを行う際、Workdayを活用すれば、その業界でキャリアがある社員を検索してすぐに助言を求めることができる。実際に、そこから顧客の課題を解決して受注拡大につなげたケースもあるという。単なる人事管理システムではなく、業務を円滑に進め、ビジネスチャンスを拡大するためのツールとしてWorkdayが機能しているということだ。
「現在、人事データがトップラインにどう影響するかをリアルタイムで可視化できるダッシュボードを作成しています。売り上げに対して人員数や平均年収、エンゲージメントデータを掛け合わせることで組織力を定量化し、的確な経営判断に生かしていきたいと思っています」
社員と組織の可能性を最大化し、事業成長を加速させるのが人事本部のミッションだと語る大間氏。Sansanは2022年11月にフィリピン・セブ島でグローバル開発センターを設立し、海外市場向けプロダクト開発を強化しているが、さらなる飛躍を遂げる土台としてWorkdayにかける期待は大きいようだ。
「Sansan様は、Workday導入後の3年間で300名以上も社員を増やしています。組織の成長にフレキシブルな対応ができるのもWorkdayのソリューションの大きな特色ですが、単にスケールさせるだけでなく、社員様の有効な利活用を促しているのが印象的でした。『Workdayラーニング』をキャリア育成にも活用されていると伺いましたが、有効なリスキリング施策に欠かせないスキル把握ができているからこそでしょう。あらゆる人事施策をシームレスに展開し、経営判断にも生かす取り組みは、他の導入企業様にもぜひお伝えしたいと思いました」(ワークデイ日本法人社長 正井拓己氏)
【クックパッド】人事や財務の視点を事業にフル活用
従来、書籍やテレビ番組、スーパーのチラシなどでしか触れられなかった料理レシピ。それを民主化した立役者が、1998年3月にスタートしたクックパッドだろう。
料理レシピ投稿・検索サービス「クックパッド」は、今や日本国内のみならず海外71カ国29言語で展開(2023年3月末時点)。生鮮食品オンライン市場「クックパッドマート」など、レシピにとどまらないサービスをリリースしている。そのすべてに通底するのは「毎日の料理を楽しみにする」というミッションだと執行役CFOの犬飼茂利男氏は語る。
「『毎日の料理を楽しみにする』ためにどうすればいいか、世界一考え続けている会社だと自負しています。あらゆる意思決定はこのミッションのもとに下していますし、社員にはそのための事業を推進するリーダーシップが求められます」
この姿勢をコーポレート部門も同様に持っているのが、クックパッドの特徴だ。
「どの企業でも同じだと思いますが、採用や人事評価、給与計算、経費精算など、コーポレート部門の業務は山ほどあります。効率的に進めるだけでなく、自動化できるものは自動化し、アウトソースできるものはアウトソースして、人事や財務、法務の知見を事業推進のためにフル活用したいのです」
しかしWorkday導入前は、業務ごとに多数のシステムが混在し、連携がとれていなかった。戦略的なデータ活用ができないだけでなく、日常業務にも差し支えが出ていた。典型的なのが組織再編時。ただでさえマスターデータの更新で苦労するポイントだが、クックパッドでは「市場の変化に対応し、自らも変化を起こしていくため」(犬飼氏)、半月に1回以上の短いスパンで組織再編を実施している。マスターデータには直前まで手がつけられないため、変更の前日は毎回深夜作業を余儀なくされていた。
「そこまでやっても、システム間の連携がないので間違いが発生します。『大変だから組織再編の頻度を減らそう』といった、本質からずれた声も出てくる状態でした。加えて、多言語対応していないため、海外拠点とシステムが異なる問題もありました。社員数を一覧で出すことすら困難だったんです」
人事と財務のデータ統合で予算策定や採用も円滑に
世界中の人たちと向き合っていく企業として、グローバルでリアルタイムの情報を可視化できるシステムが必要だ――。そう考えた犬飼氏は、複数の製品を比較検討する。当時は人材管理や財務管理にはオンプレミスのシステムを使うのが当たり前だったが、「世界中どこでも更新・閲覧できる仕組みにしたい」と考えていたため、クラウドシステムを当初から検討する。
「オンプレミスのシステムをクラウド化したものが多い中で、クラウドを前提に設計されているのはWorkdayしかありませんでした。有機的にさまざまなデータをつなぎ込める仕組みになっていることも、導入の決め手となりました」
特筆すべきは、この先進的な発想を7年も前の2016年に実行したことだ。しかも、人財管理「Workday HCM」だけでなく、財務・会計管理の「Workday ファイナンシャルマネジメント」を同時に導入し、人事と財務のデータを一気に統合する。日本国内でそれまで「Workday ファイナンシャルマネジメント」を導入した企業がなかったことからも、その先見性は際立っている。
「マスターデータを1つのシステムに置いておきたかったのです。それに、財務分析をする際でも、人材情報とひも付いているかどうかで大違いです。ひも付いていれば、最終的な加工をするだけでいいので効率的ですし、複数のシステムに分かれているとデータの妥当性を検証する必要も出てきますが、統合されているのでその手間も不要です」
実際、データ分析のスピードは格段に上がった。調べたい切り口に合わせてすぐにデータを切り出せるため、予算の策定や採用計画も立てやすくなったという。
「あるプロダクトの開発に携わっているメンバーが何人で、そのうちエンジニア、ビジネス職、営業職がどのくらいというのはすぐわかります。感覚だけで『エンジニアを増やさなくては』とならずに、経営戦略や売上高などとのバランスの中で見極められるようになりました」
データドリブンという言葉が使われるようになって久しいが、リアルタイムの情報でなければ陳腐化してしまうのは否めない。人材管理システムと財務管理システムを統合できていない企業は少なくないが、「ヒト・モノ・カネ」のデータが分断していては、的確かつ迅速な経営判断は難しいだろう。めまぐるしく変化し続ける時代、小刻みな意思決定を可能にする環境を整えるためにも、クックパッドのように人事と財務のデータの統合管理を真剣に検討すべきではないだろうか。
「まだまだ経営層や各部門がバラバラに動いている企業様が多い中で、Workdayの導入を通じていち早く組織に横串を刺した先見性に感銘しました。しかも、多数のシステムが混在していた中で、わずか1年半という短期間でワークフローを含めた全社のアーキテクチャを刷新されています。『毎日の料理を楽しみにする』というミッションに向かってのコミットメントが非常に強く、企業文化として根付いているからこそ、スピーディな変革が可能だったのではと感じました」(ワークデイ日本法人社長 正井拓己氏)