三菱総研が提示「DX疲れの現場」に有効な処方箋 伸び悩む企業に共通する「つまずきポイント」

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DXの号令がかかる中、現場は疲弊している可能性がある
社会がめまぐるしく変化し、不確実性が高まっている今、デジタル技術を活用した事業変革(DX)で持続的な成長を望む企業は多い。実際、三菱総合研究所(以下、三菱総研)のDX推進状況調査によれば、95%の企業がDXに取り組んでいる。しかし、その進捗度には大きな格差があるようだ。「ビジネス変革を成し遂げている企業と、DX推進に苦戦する企業の二極化が進んでいる」と指摘する三菱総研主任研究員の杉江祐一郎氏に、伸び悩みを突破する方法を聞いた。
※2022年12月実施のWebアンケート調査。売上高100億円超の企業の従業員(派遣・契約社員除く)で、社内のデジタル化・DXの取り組みに何らかの形で関与している 1,000 名が回答。

 「ビジョン遂行」の進度がDX成否を分けている

DXに成功している企業とそうでない企業の差は、どこにあるのだろうか。

三菱総研では、2021年12月と2022年12月に企業におけるDXの進展度を調査。その結果、新たなビジネスモデルを実現する段階である“ビジネス変革”に着手している企業は、28%から33%へと5ポイントも増加した。

一方、アナログ業務をデータ化・オンライン化する“デジタイゼーション”にとどまっている企業や“取り組んでいない”企業を足し合わせた割合は、両年とも30%。

“ビジネス変革”に着手している企業と、デジタルツールやサービスを導入しても生産性や品質の向上にまでつなげられずに苦戦する企業との2極化傾向が見て取れる。

「この違いの原因の1つに、ビジョン遂行の進度が挙げられます」と話すのは、三菱総合研究所 デジタル・トランスフォーメーション部門統括室 主任研究員の杉江祐一郎氏。

三菱総合研究所 デジタル・トランスフォーメーション部門統括室 主任研究員
杉江祐一郎氏

「DXビジョンは、全社で現状認識や事業課題を共有し、関係各所が一丸となってDXを推進するための重要なファクターです。デジタイゼーション段階の企業が挙げるDXの推進課題として、“ビジョン策定”が32%から42%へ10ポイントも増えました。逆に、デジタル・トランスフォーメーション段階の企業は、ビジョンを策定し計画どおりに実行している傾向が見えています。成果を挙げたことで投資対効果が認識され、DX投資も増額していることもわかりました」

実際、同調査によれば、DX投資を大きく伸ばしたのは“ビジョンや実施計画を立案し計画どおり実行した企業”と“KPIを設定し適宜モニタリングした企業”。前者は53%から63%と10ポイント増、後者は42%から58%へと16ポイントも増やしている。

また投資を増額した企業の74%は“経営層の危機意識”をDX成功の要因として挙げた。実務者と経営の連携が円滑であることが伺える。

技術進化が早いからこそ、現場へ権限委譲すべき

「DXで何を目指すのかといったビジョンは、多くの企業が策定済みでしょう。ただし、機能していないケースはあります。各部門・部署の現場がDXを『自分ごと』とし、自らの業務との結びつきが実感できなければ、実行プランにうまく落とし込めません」(杉江氏)

三菱総研にDX支援を依頼した企業の中にも、同様の悩みを抱えていたところは多いという。ビジョンはあっても、中期経営計画や単年度計画との間にギャップがあれば、業務単位で何をするべきか的確に落とし込めない。結果としてDX自体が目的化してしまい、事業成長に結びつかなくなる。ビジョンの内容だけでなく、策定のプロセスが重要というわけだ。

「全社が参画し、各部署の課題を踏まえた策定をする必要があります。一方で、日常業務やさまざまな他の課題に対応しなければならず、意識をDXだけに向けられない企業もあるでしょう。そんな場合には、CDO(チーフデジタルオフィサー)やDX推進部署を設置して推進責任を明確にするほか、経営層から現場へDXの権限を委譲するのが有効です」

DXの成功には経営者の危機意識が重要とはよく言われることだ。とはいえ、全ての経営者がデジタル技術のトレンドをキャッチアップできるわけではない。生成AIの急速な普及のように、半年前には想像もつかない変化が起きるほど進化も早くなっている。

「ビジネス変革は、これまでにない発想や技術をビジネスモデルにしていく取り組みです。既存の成熟事業と異なり、過去の経営での成功体験は必ずしも当てはまりません。だからこそ、事業戦略とデジタル技術の可能性の双方を理解できる現場の実務者層に任せることが重要です。当然失敗もするでしょうが、それを責めるのではなく、『成功のための検証・学習』と位置づけて現場を後押しすることが求められています」

加えて、経営層がするべきこととして、杉江氏は経済産業省などが選定するDX銘柄企業の傾向に着目する。

「とりわけグランプリ受賞企業は、経営層が毎日のように現場へビジョンを語りかけています。現場へ権限を委譲するだけでなく、DXビジョンを常に発信し続ける。たとえ短いフレーズであっても、メッセージを投げかけ続けることで本気度が伝わっていくはずです」

変革領域を起点とした計画立案がカギを握る

経営層がビジョンを語り続ける中、現場はそのビジョンを具現化するための施策を前へ進めていかなくてはならない。ここで注意したいのが、「ITプロジェクトの集合体」となってしまうことだと杉江氏は説明する。

「ビジョンを実行する単位の施策レベルに細分化すると、どうしても『そのためにはこのシステムが必要』といったプロジェクトがいくつも発生してしまいます。ここが大きなつまずきポイントです。全社でDXを推進するはずが、個別のプロジェクト単位の取り組みになってしまうからです」

とりわけITプロジェクトは、たとえ小規模でも進めるのは大変だ。いくつものプロジェクトを並行した結果、それぞれがうまく連携できない結果に陥るおそれは十分にある。

「そうなることを防ぐには、まず『UX(顧客体験)、オペレーション、ビジネスモデル、システム、組織』などの領域ごとに、経営・事業戦略や課題等を振り分け、すでに走っているプロジェクトがどの領域に紐づくのかを認識することが重要です。さらに、ビジネスの変化ステージごとに必要となる改革を検討することで、現実的にどのようなステップを踏むべきかが見えてきます」

例えば「組織」の領域において、現状の課題に「経営陣や社員のデジタルリテラシー不足」があったとすれば、まずは「デジタルアレルギーの払拭」を行う必要があり、その後DXが進んでいけば、「(デジタル上での)アイデアの創発」や「社員の自律的なビジネス改革」が新たな課題になるかもしれない。常にプロジェクトを走らせながら、実行することで見えてくる新たな課題や状況に応じて、施策をアップデートさせていけばいい。

「ここで重要なのが、施策のKPIを設計・設定し、データ計測によるモニタリングを実施することです。進捗を可視化しないと、経営層との意識のギャップが生まれ、現場は『DX疲れ』を募らせるばかりになってしまいます」

これら一連の流れをサポートする三菱総研のサービスが、「DXジャーニー®」だ。DX達成までの道のりで必要な、「UX(顧客体験)、オペレーション、ビジネスモデル、システム、組織」の変革を、その企業の状況に合わせてデザインしていく。具体的には、次のような内容だと杉江氏は明かす。

「ある企業では、DX未来像を描いたものの、現状との距離が遠すぎて各事業部がそっぽを向いてしまいました。『そんな施策に人を取られると現場が混乱する』と反対するリーダーもいましたので、各リーダーのデジタル化に対する考えをしっかり聞き、デジタル化によって成長が見込める事業に絞って、具体的な戦略に落とし込んでいく作業をサポートしました」

データは課題に応じて必要なものだけを集める

このDX推進の事例でとりわけ重要なのは、「デジタル化によって成長が見込める事業に絞って」の部分だろう。的確な現状認識がなければできないことであり、そのためには「データ分析・活用」が不可欠だと杉江氏は指摘する。

「そもそもデータ活用は、議論や意思決定の精度向上につながります。ファクトに基づいて現状を分析することで、消費者の購買特性といった気づきも得られますし、属人性やブラックボックス化の排除、作業の自動化といったさまざまな効果もえられます。ただし注意したいのは、データ活用を目的化しないことです。ついあれもこれも取得しようとなってしまいますが、解決すべき課題をしっかり設定し、必要なデータだけを集めることが大切です」

ここでの「解決すべき課題」とは、売り上げアップや業務負荷軽減といった「現場が共感しやすいテーマ」を選ぶべきだという。そうしてデータが関係者間で議論する共通の土台となることで、取り組みが進みやすくなっていく。

「例えば、当社の支援事例の1つに、金融機関の住宅ローン審査高度化があります。従来、与信審査にはかなりの人手が必要で、効率化がなかなか進みませんでした。そこで、与信のロジックや信用情報データなどを掛け合わせてモデリングし、それをもとに約40の金融機関が加盟する共同データベース『データ・コンソーシアム』を構築しました」

こうした取り組みが、即日ローン審査やオンラインでの与信といったイノベーションにつながり、金融機関の収益性を高めている。三菱総研では、他にもさまざまな業種やニーズに応えるソリューションを用意。リアルタイムの需要予測(ナウキャスティング)に基づく余剰在庫や欠品の最小化、最適価格設定による利益最大化(ダイナミックプライシング)等、企業のデータ活用を支援している。

「DX推進状況調査によって、DX推進に苦戦している企業が非常に多いことが明らかになりました。直近では生成AIによる、大きな技術革新の波が訪れており、DX推進にもかなりの影響を与えると予想されます。この状況を突破し、日本全体の産業力を強化・再生していくには、現場で“DX疲れ”を感じている実務リーダー層に回復の処方箋を提示することが重要であると考えています。

そこで当社では、2023年7月19日に1dayイベント『【MRI DX DAY】「DX疲れ」からの突破口~GPT時代に障壁を超える、実務の要点~』を開催し、実務面で課題をブレークスルーする方法について、当社グループの支援実績やお客さまの取り組みなど、事例を中心にお届けします。また、DXの動向を大きく変える生成AIによる技術革新の影響について解説し、その技術革新を業務改革やビジネス変革に結び付ける視点を提示します。

基調講演では、経済産業省によるDX銘柄2022グランプリに選出された中外製薬株式会社 上席執行役員デジタルトランスフォーメーションユニット長 志済聡子氏と、保険業界のデジタル革新をけん引するSOMPOホールディングス株式会社デジタル・データ戦略部長 中島正朝氏から、自社のDXプロジェクト推進における取り組みの課題や障壁を乗り越えた方法をご紹介頂きます。ぜひご参加ください」

1dayイベント【MRI DX DAY】の詳細はこちらから

三菱総合研究所 デジタル・トランスフォーメーション部門統括室 主任研究員 杉江祐一郎氏