「人的資本リーダーズ2022」の受賞企業が決定 「人的資本調査2022」の実施により10社を表彰
人的資本調査2022
全体分析報告
表彰に続き、HR総研〈ProFuture〉主任研究員の久木田亮子氏が、昨年9月から12月にかけて行われた「人的資本調査2022」の結果分析について報告した。
人的資本に関する取り組みは、人材戦略、企業理念、社員エンゲージメントの3領域で進捗が見られた。それぞれ半数超の企業が「人材戦略とその可視化方法の議論に経営トップが関与し、自らの言葉で発信している」「企業理念やパーパスを設定し、社員の具体的な行動・姿勢に落とし込んでいる」「社員のエンゲージメントレベルを測定し、改善アクションを行っている」と答えた。
一方、人材ポートフォリオの実現、人的資本経営を企業価値向上につなげるストーリーの構築、人材戦略のインプットとアウトカム(投資と目標)設定の進捗には課題が見られた。
開示が義務化される人材育成方針と社内環境整備方針は、東証プライム上場企業を中心にそれぞれ41%、34%の企業が策定・開示していると回答。ただ、方針の指標となるインプットとアウトカムの設定・開示は20%にとどまった。
取り組みの進捗は、人事システムの統合管理レベルと強い相関があったことも報告され、久木田氏は「今後は、データドリブンな人材戦略推進に向けた人事システム基盤の整備が重要になる」という見解を示した。
金融庁特別講演
「人的資本の開示における期待」
金融庁の廣川斉氏は今年3月期(6月提出期限)の有価証券報告書(以下、有報)から適用が始まる開示制度の変更点を説明した。
非財務情報充実の国際的潮流を受けてサステナビリティ情報記載欄を新設。その中で、有報を作成提出するすべての企業に、人材育成方針と社内環境整備方針、両方針の指標・目標・実績の開示を求める。また既設の項目「従業員の状況」で、女性活躍推進法や育児・介護休業法に基づき一部に公開が義務づけられている、女性管理職比率、男性育児休業等取得率、男女間賃金格差の3指標の記入も必要になる。
情報記載欄のポイントは各方針、指標・目標を「関連づけて記入する」こと。社内環境整備方針は、人材育成方針に当てはまらない人材戦略を書くことになると説明して「金融庁として両方針の書き分けの問題を指摘するつもりはない」と述べた。
また「開示以前に人的資本の取り組みが大切」と強調。内閣官房が昨夏に取りまとめた「人的資本可視化指針」、経済産業省の「人材版伊藤レポート」、金融庁の「記述情報の開示の好事例集2022」などの参考資料を紹介。各企業が、経営戦略、人材戦略、人材育成方針、社内環境整備方針の指標・目標を示し、実績を踏まえて改善サイクルを回すことで、競争優位、持続的な企業価値向上を実現することを期待した。
リーダーズ選考委員による
パネルディスカッション
選考委員
人的資本リーダーズ企業の選考に当たった委員によるディスカッションでは選出理由などを話し合った。
委員らは、人的資本情報の開示制度が人材のデータ、マネジメント体制の整備を促し、人材価値を最大限に引き出して企業の持続的成長、社員の幸福を実現する人的資本経営推進の契機となることを期待。人材投資や、ビジネス戦略における知と経験におけるダイバーシティーの重要性を会社全体で認識し、他社のまねではなく、自社に合ったユニークな取り組みをする必要性を訴えた。
人的資本調査2022の事務局を務めたMS&ADインターリスク総研は、選考委員が評価したポイントを、①経営理念に基づいたうえで「社員=重要な資本」と捉えた人材戦略を策定しているか、②経営戦略と連動し柔軟に人材戦略を策定しているか、③人材戦略に基づき、他社と横並びではない独自のKGI・KPIが設定できているか、④人材戦略に基づいた人材への投資を積極的かつ継続的に実行できているか、であるとしたうえで、外部ステークホルダーに対し①~④の一貫した流れを論理的かつ明確に伝わるよう開示することの重要性が示唆された、としている。