日本がカーボンニュートラル資源立国となるには 資源の管理・活用にサブスク方式の活用も

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家に眠らせたままのスマホも、資源の再利用に貢献できる可能性がある
音楽や映像などで拡大しているサブスクリプション方式は、ユーザーが商品を購入するのではなく、その利用権の料金を一定期間支払うビジネスモデルだ。実はカーボンニュートラル(CN)実現においても、こうした方式が有効と見込まれている。メーカーが製品の所有権を持ち続けるため、利用終了後のリサイクルを進めやすくなることなどが理由だ。日本はウクライナ危機を踏まえ世界の潮流を鑑みながら、CN実現に不可欠な資源を確保・活用していく「CN資源立国」となることが求められている。

CNと経済安全保障との両立が求められる時代

持続可能な地球環境を維持するためにCNを表明する国が増え続けている中、日本も2020年10月に2050年の実現を宣言した。一方で、22年2月のロシアによるウクライナ侵攻以後、国際的な争奪の動きが強まっている、半導体やエネルギーなどの重要物質を安定的に調達するため、各国はCNと同時に経済安全保障を考慮せざるを得ない状況となっている。

世界各国のCNへの取り組み状況を比較すると、日本の発電電力量に占める再生可能エネルギー(再エネ)比率はEUの半分程度にとどまっており、EV販売比率も欧州と中国に後れをとっている。

経済安全保障の観点でも、資源に乏しい日本の立ち位置は厳しい。太陽光発電など成長産業の進展と素材産業における排出削減の強化に必要な原材料も金属資源も、ほぼ輸入に依存しているからだ。だが、光明がないわけではない。

「この20年間、日本は輸出産業における『経済の複雑性』において世界ナンバーワンと評価されてきました。経済の複雑性が高いというのはつまり、高付加価値産業を有しており、産業の多様化が進んでいるということです。日本はそうした高付加価値産業で培った技術力を生かし、CNの社会実装を加速させていくことが必要だと考えます。その取り組みが成功した先には、日本が『CN資源立国』となる可能性も十分にありうるでしょう」(MRI研究員)

カギを握るのは「資源循環」

資源や部材の多くを輸入に依存している資源に関しても、国内での素材の再利用や次世代製品の国産化を進めれば、2050年には輸入比率を低減させることが可能である。製造業の中でもとくにCO2排出量の多い鉄鋼業にも、それは当てはまる。

「今後、CO2排出がより少ないスクラップ製鉄法のさらなる拡大に注力するのも手段の1つです。新たな分別・循環の仕組みを作ること、そして再生技術によって資源の有効利用の幅を広げることができれば、輸出に回っている鉄スクラップを積極的に活用できます。輸入に依存せざるを得ない資源を可能な限り国内で回収して再利用すれば、自給率を高めることができるのです」(同)

また、本来はCN実現が難しいプラスチックについても、再生技術を高めて資源を効率的に利用しつつ、生物資源を原料としたバイオマスプラスチックの導入を拡大することで化石燃料に由来する製品からの脱却を図る方法が有効とされる。現時点では課題はあるものの、リサイクルを容易にする設計の共通化や二次資源マーケットの構築、あるいは国内バイオマス資源の円滑な調達を実現する生産者・利用者連携などの仕組みを整備すれば、サーキュラーエコノミー(CE:循環経済)型ビジネルモデルの確立につながる。

その先に見えてくるのがCN資源立国・日本だ。この構想が実現すれば、成長産業と素材産業が共にCNと経済安全保障に貢献できる。実現策として次の2点が挙げられる。

①CE型ビジネスモデルの確立

「サブスクリプション(サブスク)を活用したCN資源確保」や「CN資源を活用した製品のブランド化」がビジネスモデルを確立させる手段として考えられる。ユーザーが一定期間の利用権に料金を支払うサブスク方式の活用においては、太陽光発電設備やEVなどの所有権を、あくまでメーカーやサービス提供者が保持し続けるところがポイントとなる。ユーザーが利用を終えた後も二次利用やリサイクル、資源の再利用に関わり続けることが可能となり、例えばEVのバッテリーに含まれる希少金属資源を確実に再利用できる。

図 太陽光発電・EV・省エネ機器のサブスク活用イメージ

「スマートフォンの回収とサブスクも、資源の再利用に貢献できると考えています。例えば中古モデルの回収と引き換えに、新しいハイエンドモデルをサブスクで使用できるようにする方法です。以前使っていた端末を家に眠らせたままの人は一定数いると思われるため、ハイエンドモデルと引き換えであれば手を伸ばす人も増えるでしょう。金属資源を確実に回収することにもつながるのではないでしょうか」(同)

製品のブランド化については、CN達成に貢献する素材の提供が進もうとしている。CN製品のブランド力をいち早く高めてグローバル市場に投入すれば、国際競争力の確保につながる。海外展開の際にもサブスクモデルを利用すれば、海外に流出してしまっているCN資源を日本のメーカーなどが管理し、再び製品として活用することもできるはずだ。

②DXを活用した基盤データ整備

CE型のビジネスモデルを確立させるには、製品がCNに貢献していることを客観的に立証しなければならない。そのためにはDXを活用して基盤データを整備し、情報をわかりやすく可視化する必要がある。欧州では既に、デジタルプロダクトパスポート(DPP)が提唱されている。製品の持ち主が変わる際、持続可能性などに関する情報を引き継ぐ証明書のようなものだ。これを有効活用するとよいだろう。

プレミアム付与やクレジットの適用も

グリーン化ではアルミニウムが先行している。自動車や飲料缶などには製造時にスクラップの使用を増やした「低CO2リサイクルアルミ材」が実用化され、従来の製品と等価で使われ始めている。

「一方で、CN達成に寄与する『CN製品』を普及させるには、適切なプレミアムが価格に上乗せされることが望まれます。カーボンプライシングの導入に伴うプレミアム付与の実現にはもう少し時間がかかりますので、過渡的な対応が必要になるでしょう」(同)

過渡的な対応の例として、飲料メーカーが広告宣伝費や販売促進費を再生ペットボトルの調達コストに充てたことが挙げられる。このように、プレミアム付与によりグリーン化が加速し、CN達成に寄与することが期待されている。

これとは別に、有効な取り組みもある。使用済み資源をリサイクル事業者に売却した事業者や個人に対し、認証団体が設定した目標数値と売却した成果との差分を、経済取引が可能な「サーキュラークレジット」として付与する。こうした取り組みを通じて、日本発のサーキュラーエコシステムを構築するためには、官民を挙げて循環の価値を定義し、経済負荷に関する共通認識をつくり上げていくことが必要とされる。

CNについては、ウクライナ危機によって短期的には達成への逆風が吹いてはいるが、中長期的には人類のために達成しなければならない目標だ。日本にも課題は多々あるが、各分野でさまざまな解決策が講じられようとしているのもまた事実である。CN資源立国実現を目指すうえでは、政府が単独で動くのではなく、各分野の関係各所が連携し政策をいっそう融合させることが求められている。

※ CO2排出量に応じて課税する炭素税や、排出上限を設けた上で企業間の融通を認める排出量取引など
 

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