リスクマネジメントもスピードが重視される理由 万一の事態を乗り切るのに必要な事前準備とは

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たった1回のアクシデントやSNSを通じた風評被害が、企業の経営危機につながる時代である。危機管理コンサルタントの白井邦芳氏は「事が起きてから対処する従来型のリスクマネジメントが通用しなくなってきた。大企業はもとより、中堅・中小企業も見直しが必要だ」と警告する。不確実性が常態化している今、どんなリスクマネジメントが必要なのか。経営者が持つべき視点と具体的な対処法を探った。 

時代が求める「プロアクティブ型」のリスク管理

日本企業を取り巻くリスクは、この5年で大きく変わった――。白井邦芳氏はその理由を次のように説明する。

危機管理コンサルタント 社会構想大学院大学教授 白井 邦芳 氏
白井 邦芳 氏
危機管理コンサルタント 社会構想大学院大学教授
早稲田大学卒。AIU危機管理コンサルティング室室長、AIGリスクコンサルティング首席コンサルタント、ACEコンサルティングExecutive Advisorを歴任。ゼウス・コンサルティング 代表取締役社長。日本リスクマネジメント協会顧問。著書に『ケーススタディ 企業の危機管理コンサルティング』(中央経済社)、『リスクマネジメントの教科書』(東洋経済新報社)など

「2009年から上場企業を対象に『内部統制報告書』の提出が義務づけられた影響で、財務的リスクへの取り組みは定着してきました。しかし、ここ数年は機密情報漏洩などのオペレーション関係やハラスメントなどの労務関係、買収や海外進出といった戦略に関わる部分まで、リスクが複雑多様化しています。財務的リスクへの対応体制だけでは難しいのはもちろん、各部門でも対応しきれず、いわゆる全社的リスクマネジメント(組織全体のリスクを統合的に管理する手法)へ移行する企業が増えています」

この変化の背景には、時代の変化に応じた法改正がある。働き方改革関連法やいわゆるパワハラ防止法(労働施策総合推進法)、個人情報保護法などが変わることで、これまで表に出てこなかったリスクが顕在化している。

「上場企業の場合、社外取締役の意見が強まった結果、プロパーの意見だけを押し通せなくなり、結果として自浄能力が高まっているケースがあります。最近、長年にわたる不正行為や違法行為が明るみに出るケースが多いのは、そうした理由もあるのです」

また、外部要因によるリスクも増えている。サイバー攻撃や自然災害、直近だとパンデミックや地政学的な緊張の高まりに起因するサプライチェーンの分断も挙げられるだろう。いずれも、日本国内だけのドメスティックリスクにとどまらず、グローバルリスク化しているため、ひとたび問題が起きれば被害が拡大することもある。

「それなりの対策をしていたつもりでも、結果的に大きな損害が発生してしまうことがあります。従来は事後対応のリアクティブ型のリスクマネジメントが主流でしたが、いくら早期発見・早期対応を目指しても手遅れになりかねません。リスクを予測し、予兆があった段階でつぶす『プロアクティブ型のリスクマネジメント』が求められる時代に突入しています」

ステークホルダー別のリスクマネジメントが重要な理由

中堅・中小企業も例外ではない。とりわけSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)による風評被害は要注意だ。素早く対処しないと不買運動へ発展しかねない。

そうした事態を防ぐにはどうすればいいのか。白井氏は「ステークホルダー別のリスクマネジメント」が重要だと指摘する。

「簡単に言えば、ステークホルダーによって知りたい情報が違うのです。例えば製品ラインナップの一部に問題があった場合、消費者が求めるのは『どの製品が該当するか』という情報です。しかし、投資家は所有する株式を手放すか、保有し続けるか判断したいわけですから、問題にどう対処し、どう改善していくかが要点になります」

これは決して簡単ではない。どんなリスクが起こりうるかを網羅的に把握したうえで、リスクの発生に備えた準備が必要だからだ。白井氏によれば、洗い出すべきリスク項目は従業員数50名規模であっても約200に上り、アナログなリスクマップ作成には急いでも3カ月から半年程度かかるという。当然、コストもかかるため、経営判断に直結する取り組みなのに後回しにしてしまう。

「結果、業績や経営計画は上手に説明できても、不祥事への対応ができない経営者が生まれてしまうわけです。『会社の常識は世間の非常識』という言葉がありますが、大切なのは、法律などルールとして決まっているコンプライアンスを遵守するだけでなく、社会の常識に沿ったリスクマネジメントを行うことなのです」

しかも、ビジネスのスピードが加速して新規事業やM&A、事業提携などが進めば、リスク要因はどんどん増える。DXが進み、AIなどのテクノロジーが加速度的に進化する今後は、時間をかけてリスクマップを作成している間に、新たなリスクが発生し陳腐化してしまうことになりかねない。

先駆的なサブスクサービスが日本再興のカギに

こうした現状を踏まえ、リスクマップ作成のサービスをリニューアルしたのが、企業リスク評価・製品リスク評価を中心としたコンサルティング業務を展開するドキュメントハウスだ。代表取締役の本間俊明氏は、次のように話す。

ドキュメントハウス 代表取締役 本間 俊明 氏
ドキュメントハウス
代表取締役
本間 俊明 氏
東京水産大学(現、東京海洋大学)卒。ドキュメントハウスグループ代表。これまで、PL対策コンサルティング、製品マニュアル評価クラウドシステムManualDock開発、製品マニュアル評価コンサルティング、製品リスク評価コンサルティング、企業リスク評価クラウドシステムi-CRAS開発、企業リスク評価コンサルティングに従事。ISO9001認証取得評価用パッケージソフト『達人シリーズ』(日本規格協会)の開発に関与。著書に『ISO9001:2000移行の進め方』(日本規格協会)

「当社は1989年に設立し、日本版PL法(製造物責任法)が1995年に施行された当初から海外PLのコンサルティングをしてきました。そうした経緯から全社的リスクマネジメントの必要性を早くから見据え、上場企業向けの企業リスク評価クラウドサービス『i-CRAS(アイクラス)』を共同開発し、2007年にローンチしました」

しかし、企業リスクが大きく変貌している今、企業規模や業種・業態を問わず幅広く利用できるサービスが必要だと決断。「もっと手軽に、かつタイムリーに」利用できるサービスへ進化を遂げた。それが、2023年5月にローンチした「i-CRAS2」だ。随時スピーディーに最新のリスク評価ができるようサブスクリプション型とし、年間使用料も抑えた

「低価格を実現できたのは、i-CRASをベースとしているため開発費を抑えられたからですが、機能は随所でアップデートしています。まず、個々のリスクごとに想定損害額と想定発生頻度がわかるようにしました。リスクの影響をより具体的にすることで、重大性が認識しやすくなっています」

●自動生成されたリスクマップ自動生成されるリスクマップ
リスクマップは、横軸を発生頻度、縦軸を影響度で表現。各リスク項目の評価平均がリスクマップ上にプロットされる。各プロット点をクリックすると、リスク項目ごとの評価点などさまざまな属性が閲覧できるようになっている

さらに、個々のリスクに専門家によるアドバイス情報を提供。数多くの企業の現場を知る白井氏の監修を受けており、市場平均や業種平均と比較できる機能もある。「スマホ対応を実現したことで、PCを手元で使わない工場などの現場やリモート環境で評価できるようになったのも大きな進化です」と本間氏は続ける。

19のリスクカテゴリーで表現されるレーダーチャート
蓄積された実評価データから市場平均や業種平均を算出することで、評価企業のリスク保有状況と、それらの平均とのベンチマーク比較を実現。レーダーチャートは19のリスクカテゴリーで表示され、外側に広がるほど保有リスクが高いことを示している

「サブスクリプション型への移行やスマホ対応など、機動性を高めたことで縦串だけでなく横串でのリスクマネジメントにも活用いただけます。例えばホールディングス会社であれば、全体のリスク評価だけでなく、各グループ企業のリスク評価を実施し、それぞれを比較検討することも可能です。複数の工場・店舗を展開している場合も同様にいろいろな角度からリスク評価ができます」

現場を最も知る社員が自ら評価し、定量的に数値で示される効果も大きいと白井氏は評価する。

「同業他社との比較や損害想定額・想定発生頻度がすぐに可視化されることで、具体的な指針も立てやすくなりますし、何よりも本当に必要な対策に時間をかけることができます。短時間でリスクマップを作成でき、継続的なPDCAに寄与します。改善スピードを高めることこそが、万一のリスク発生時に適切に対応し、企業体質自体も強靭化していきます。非財務情報への注目度が今後さらに高まる中で、対外的なアピールとしても有効なのではないでしょうか」と白井氏はインタビューを締めくくった。


※企業向けのシングルプランが年間使用料9万4000円~。コンサルタントや保険代理店向けに複数企業の評価ができるマルチプランも用意している(年間使用料16万6000円~)

 

i-CRAS2の詳細はこちら

 

令和2年度第3次補正事業再構築補助金により作成