仮想と現実をつなぐデジタルツインが導く未来 都市マネジメントの合理化・効率化にも寄与

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都市マネジメントのイメージ
ビジネスや公共施策の検討・構築においても、仮想空間の有効活用が進んでいる
「失敗は成功の母」と言うように、多くの物事はそれまでの経験の積み重ねで成り立っている。仮想空間に現実空間と同種のモノを構築して対比させる「デジタルツイン」は、すでに生産現場などで実用化されている。何らかのシミュレーションをあらかじめ仮想空間で行い、現実空間で最適化・効率化を促すものとして機能している。そして今、都市マネジメントにもデジタルツインを活用しようという動きが広がり始めている。

仮想空間の検証を現実空間にフィードバック

デジタルツインでは、仮想空間上に現実空間のモノや機能の「双子」を再現する(図1)。例えば、メーカーが製品の図面を基に仮想空間にイメージを起こし、製品とその使用シーンをシミュレーションする。それによって、実際の製造に入る前に欠陥やリスクをあぶり出して改善につなげる。

デジタルツインとは(イメージ)
現実空間のモノや機能の「双子」を再現することで、仮想空間上でのシミュレーションを可能にする

ほかにも建設中のマンションが完成した場合の眺望確認、自動車交通のシミュレーションや自動運転システムへの応用、バーチャル店舗の展開、ゲームやイベントでの仮想空間の実用化など、活用シーンは広がりを見せている。いずれも、現実空間では物理的・時間的に難しい試行や検証を仮想空間で行い、結果をフィードバックしようというものである。

「今後はさまざまな行動を仮想空間と現実空間とで相互に連携させることが考えられます。行動の前・中・後の各フェーズで仮想空間に蓄積した情報を活用し、現実空間でより適切で豊かな経験もできるでしょう(図2)。また、多様な主体が協働・連携するためのプラットフォームとして、都市全体の活動や機能の最適化にも活用できます」(MRI研究員)

実際、国土交通省の「Project PLATEAU」や東京都の「デジタルツイン実現プロジェクト」のような、都市レベルのデジタルツイン構築が加速している。

デジタルツインを用いた都市マネジメントは、行政などがDXを推進するうえで重要なツールとなる。①現実空間では困難な分析・シミュレーション、②現実空間の計画・運営へのフィードバック、③仮想・現実間での相互連携、という3つを進めることが可能なため、個人や企業の活動を最適化・拡張させたり、都市マネジメント自体の効率化・高度化を促進したりできると期待されている。

現時点での代表例としては、洪水発生時の浸水が道路や建物などにどのような被害を与えるかを3次元で可視化し、住民の安全を確保しようという取り組みがなされている。上記の東京都「デジタルツイン実現プロジェクト」では、都政に関するさまざまな分野のデータを3D空間上に統合して活用する取り組みを進め、2030年までのデジタルツイン実現、2040年までの継続的な改善サイクル構築の発展を目指している※1

自動車が都市の「移動センサー」に

デジタルツインは交通網の点においても、都市マネジメントに寄与する可能性がある。例えば自動運転。現状では、好天に恵まれて車載カメラが路上の白線を検知できなければ十分に機能しないなど、完全に安心・快適とは言い切れない。

「交通網に関する情報が都市全体のデジタルツインにつながれば、現実空間の自動車や交通に関わるすべての情報が仮想空間にトレースされます。例えば、自動運転車が移動センサーのような役割を担うことで、車道の交通状況や道路インフラの状態に加え、沿道の人の流れや施設の状況、災害や犯罪といった地域の異常などもリアルタイムでモニタリングできるようになります。この結果、都市の情報収集機能は高度化され、課題対応力の向上にも寄与するのではないでしょうか」(同)

自動運転のデジタルツインイメージ
(イメージ)交通網に関する情報を仮想空間にトレースすることで、さまざまな課題に対応できる

新事業創出にも一役

デジタルツインによる都市マネジメント実現には以下3点が不可欠である。

①産官学民の合意形成や地域間連携
②都市のデジタルツインを構築、運用、活用できる組織や人材の育成
③ベースとなる3次元モデルの維持・更新と併せて、仮想空間内での地物※2や活動に関わる法制度面の整理促進

関係主体が協力・連携してこれらの課題を解決しなければならないのだが、社会実装に向けて具体的にどう取り組んでいくかということもポイントとなる。

「都市マネジメントは対象エリアが広範なうえ、活用すべきデータも多分野にまたがり、多様な機能やサービスの連携も必要になってきます。そのため、国交省や東京都のように、まずは国や自治体が主導すべきでしょう。国・自治体がインフラ構築を、企業などが個別の機能・サービスを、それぞれ担う形が想定されますが、その線引きをどこにするかについても議論する必要があります」(同)

このように実現に向けてはまだまだやるべきこと、クリアしなければならない課題がある。運営費をどう調達するかも問題となってくるであろう。

だが、モバイル、IoT(モノのインターネット)、AI、自動運転といった技術は、過疎地における高齢者の交通手段確保などを実現するうえで重要な要素となりつつある。こうした技術革新は少子高齢化により生じる社会課題解決、人々への行動拡張機会の提供に欠かせない。デジタルツインの活用が現実空間の合理化・効率化を加速させると期待される。

※1:東京都「デジタルツイン実現プロジェクト デジタルツインの社会実装に向けたロードマップ」
https://info.tokyo-digitaltwin.metro.tokyo.lg.jp/roadmap/
 ※2:建物、樹木など地上にある物体のこと

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