未経験者育成と離職防止につながる介在価値とは 人材サービス企業トップが見据える雇用の未来

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代表取締役社長 池田匡弥氏
コロナ禍で大きく揺さぶられた労働市場は、経済回復に伴って新たな課題に直面している。経済活動の再開を受けて、より人手不足が顕著になってきた。産業構造の転換や働き方の多様化など急速に雇用環境が様変わりする今、世界75カ国・地域で人材サービスを展開するマンパワーグループは「人材の育成と入職後のフォロー」への注力で介在価値を発揮している。同社は山積する雇用課題にどう向き合っているのか、池田匡弥(いけだ・まさひろ)代表取締役社長に聞いた。

特定の職種で労働力の需給ギャップが拡大

――コロナ禍を経て、働き方や雇用に関するさまざまな課題が露呈しました。池田社長が考える喫緊の課題とは何でしょうか?

池田 まずは、特定の職種で需給ギャップがますます拡大していることです。中でもIT人材は象徴的です。コロナ禍で企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)やオンライン化が進んだこともあり、有効求人倍率は約10倍に上昇。あらゆる業界でIT人材が求められている一方、経験者の採用は極めて困難です。

また介護人材も同様で、団塊世代が75歳以上の後期高齢者となる2025年には約30万人の介護人材が不足すると予測されています。介護は生命に関わる重要な仕事なので、人手不足が続く現状は非常に深刻です。

代表取締役社長 池田匡弥氏
代表取締役社長 池田匡弥氏

――人材市場の不均衡な状況を解決するためには、どのような観点が必要でしょうか。

池田 1つは未経験者が需要の高い職種に就きやすいように、リスキリングを含めた人材育成をサポートすることです。しかしながら、企業に人材教育を施す余裕はなかなかありません。そこで、当社のような企業が人材育成の仕組みを構築することが重要と考えています。

もう1つは職場への定着をサポートするという観点です。企業と人材をマッチングさせるだけでなく、職場に定着して継続的に働いてもらうためには、適切なフォローアップや支援が重要です。これらの観点を踏まえると、状況を改善させるためにわれわれのような人材サービス事業者の介在価値と責任は大きいと考えています。

未経験者を即戦力のIT人材に育成

――マンパワーグループでは、雇用を取り巻く課題の解決に向けて、どのようなことに取り組んでいますか?

池田 IT人材の育成には、20代を中心とした若年層を対象に無料研修から就業のサポートまでワンストップで行うプログラム「SODATEC(ソダテック)」を提供しています。これまで500名以上のITエンジニアを育成し、就業につなげています。SODATECの参加者は72時間の初期研修で、IT業界の知識や基礎、IT運用オペレーションなどの研修を受講。修了者は希望に応じてマンパワーグループの正社員として採用し、個人のキャリアを継続的にサポートしています。

ITエンジニアとして企業が求める人材に成長するには、初期研修後のOJTが不可欠なので、就業後のフォローアップ研修はきめ細かく提供しています。

図版:SODATEC(ソダテック)の研修内容
SODATECでは、IT人材に必要な基礎プログラムを効率よく学習できる
(出典:マンパワーグループHP)

――その他、未経験者の育成に注力している事業はありますか?

池田 コロナ禍でWeb系の仕事が増加傾向にあることを受けて、2022年6月からWebクリエーターの育成と就職をサポートする「WebCan(ウェブキャン)」をスタートさせました。Web制作会社勤務の現役エンジニアを講師に迎え、オンラインでWeb制作フローやWebデザインの基礎研修を1カ月間にわたり無料で受講。研修後は就職を支援します。Webクリエーターは在宅勤務しやすい職種なので、ワーク・ライフ・バランスを重視している方向けに設計したサービスです。

――「SODATEC」と「WebCan」は、どちらも教育から就職まで一気通貫で支援しているということですね。未経験者のスキルや経験はどのように評価しているのでしょうか?

池田 研修や派遣先企業での業務を踏まえてスキルや経験を可視化し、評価したうえで待遇を提示しています。ただ、業務を遂行していくと自信がつきますので、未経験者の方でも3年も経つと転職する方もいらっしゃいます。スキルと経験を身に付けたら次のステップを目指すことは当然であり、人材を囲い込むことはしていません。われわれの介在価値は、あくまでも未経験者を経験者に変えて社会課題を解決していくことにあります。

派遣後の手厚いフォローでミスマッチを防ぐ

――人材不足の側面では離職の多さも課題となります。定着化への支援についてはいかがでしょうか?

池田 とくに介護人材と保育士の派遣に当たっての支援は強化しています。介護人材は離職率が高く、また離職理由として多いのは、業務内容のイメージと実際の業務でのミスマッチや職場の人間関係などです。

そこで、当社では専任のフォロースタッフを置き、職場への順応度合いやコミュニケーションが円滑かどうかなど、状況をきめ細かく把握しています。フォロースタッフは保険会社の外交員経験者など、コミュニケーション力に長けている人材を採用・育成しており、フォロー期間に制限は設けていません。

図版:介護業界を取り巻く状況:2025年問題について
介護の現場での労働力不足はこれからさらに加速する
(※1、2出典:厚生労働省 平成31年度介護分野の現状について)

また、保育の現場では離職率の高さもさることながら、保育士登録者数のうち保育士の仕事をしていない潜在保育士が約6割(出典:厚生労働省「保育士登録者数等(男女別)」2020年4月)に上ることに問題意識を感じています。背景には、柔軟な働き方を求めている保育士の増加があると見ています。

ライフワークに合わせて柔軟な働き方を支援するため、当社は2023年1月から就業時間や勤務地を自由度高く選択できる保育士派遣サービスを開始しました。「週2日、1日4時間」など時短勤務や居住地に近いエリアでの就業が可能です。

グローバルの知見をサービスに落とし込む

――ITエンジニア、介護、保育といった人材不足が深刻な職種に対してマンパワーグループが注力している理由は何でしょうか?

池田 当社は「We power the world of work(私たちは働く世界に力を与えます。)」を企業理念に掲げています。この理念を実現するためには、労働課題の解決に向けた果敢な挑戦が不可欠なため、強い使命感を持って取り組んでいます。具体的なソリューションについては、労働市場のマクロなリサーチと、顧客担当の営業などの声を集約した情報を基に設計しているので、実情に即したサービス展開を可能にしています。

――では、日本の労働市場における御社の役割について、今後の展望をお聞かせください。

池田 今後、日本の生産年齢人口は減少の一途をたどります。すべての業界で生産性向上が急務ですが、日本の生産性は先進国の中で低い状態が続いています。生産性を引き上げる手法として最も効果的なのは、業務をコアとノンコアに分類し、ノンコアはアウトソーシングして外部の高い専門ノウハウを活用することです。当社はその受け皿にもなりたいと考えています。

また、当社の強みであるグローバルネットワークを生かし、欧米で先行して成功しているモデルの日本導入を積極的に行いたいと考えています。例えば、企業の採用担当者に代わり国内外の外部人材活用最適化を支援する独自のサービス(MSP)もその1つで近年注目が高まっています。総合人材サービスの担い手として、これからも日本が抱える労働課題の解決に向けて総力を挙げてアプローチしていきます。

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