龍谷大学の「仏教SDGs」が示す、大学が果たす役割 仏教の精神に基づく大学の社会活動を推進
本質から社会変革を促す独自の「仏教SDGs」
「浄土真宗の精神」を建学の精神に掲げ、仏教系大学として380年を超える歴史を持つ龍谷大学が、独自の視点でSDGsに取り組み、存在感を放っている。
提唱するのは、「仏教SDGs」。「仏教の思想とSDGsの精神は、相通じるところがあります」と、副学長の深尾昌峰氏は、その真意を説明する。「社会全体の持続可能性が危ぶまれている今、私たちは、便利さを追求してきた近代以降の人間の生き方や価値観そのものの問い直しを迫られています。それは取りも直さず人間の生き方や営み、存在を問い続ける仏教の本質です。人間の生き方を根本から問い直し、社会変革を促していく必要があると考えています」と語る。
ソーシャル企業を「可視化」し支援する認証制度を創設
「仏教SDGs」の一環として龍谷大学が力を入れているのが、社会課題の解決を事業の主軸に据えるソーシャルビジネスの支援だ。それを推進するために、バングラデシュで貧困者に対するマイクロファイナンス(小規模金融)の仕組みをつくったムハマド・ユヌス博士と連携し、中核拠点として「ユヌスソーシャルビジネスリサーチセンター(以下、YSBRC)」を設立している。ソーシャルビジネスに関わる研究や社会活動を通じて知見を蓄積するだけでなく、社会実装につなげることに主眼を置くところに特長がある。
そうしたYSBRCの取り組みの1つに、環境や社会の課題解決に取り組む企業への支援がある。2020年12月、京都信用金庫など地域の3つの信用金庫と協力し、一般社団法人ソーシャル企業認証機構を設立。事業を通じて社会活動や社会課題の解決に取り組む中小企業を認証する「ソーシャル企業認証制度 S認証」を創設した。龍谷大学では各分野の研究者がYSBRC内に設置した第三者委員会にて、評価・認証を担っている。
「認証を通じて、ESG経営を実践する企業を『可視化』し、与信評価や信用の醸成につなげることが狙いです。財務諸表には表れない企業の取り組みを多様な軸で評価し、社会に寄与する企業や事業に経営資源が回っていく仕組みをつくりたいと考えています」と言う。制度がスタートして2年余り、すでに認証企業は765を超えた。
認証にとどまらず、認証企業を集めた合同就職説明会を催し、ソーシャルビジネスや社会課題への意識の高い学生と出会う機会も創出している。「本学で学ぶ有望な人材をこうした企業に送り出すことによって、地域のソーシャルビジネスが存続し、ひいては地域社会を持続可能なものにしていくと考えています」と深尾氏。いずれはほかの大学や金融機関にノウハウを提供し、この試みを全国に広げていくことも視野に入れている。
企業・大学を結ぶハブとしてソーシャルビジネスを推進
22年から龍谷大学は、YSBRCの新たな事業として、福祉分野の課題解決にも挑んでいる。その1つの課題として挙げているのが、障がい者就労における賃金の低さだ。「テクノロジーを融合させることで、この障壁を乗り越えられないか。そう考えたのが出発点でした」と深尾氏。障がい者就労施設に、製造業で用いられている協働型ロボットを導入。ロボットが強みとする高い精度や生産能力と、障がい者の仕事の特性を組み合わせることによって、高付加価値・高単価の製品づくりを可能にし、障がい者の所得向上や新たな雇用創出を可能にしようというのだ。実現すれば、製造業における人材不足の解消にも寄与することになる。
YSBRCは、大学の研究力を強みにソリューションを考案するとともに、他大学に連携を要請し、企業を結び付ける役割を果たす。「YSBRCがハブとなることで、一企業では成しえない社会課題の解決や価値創造が可能になります」と深尾氏は拠点の重要性を語る。
39年、龍谷大学は創立400周年を迎える。先を見据え、目下、長期計画「龍谷大学基本構想400」を推進中だ。その中で「まごころ」ある市民の育成とともに、あらゆる「壁」や「違い」を乗り越え、世界の平和に寄与するプラットフォームとなることを表明している。その実践が、YSBRCを中心とした「仏教SDGs」の取り組みだ。
「本学が長年にわたって大切にしてきたことは、現代にあって新しい社会をつくっていくうえでも基盤となるものです。これからも持続可能な社会の実現に貢献できる大学でありたい」。未来に社会変革を生み出す牽引役として、龍谷大学の存在意義はますます大きなものになっていく。