「チョコモナカジャンボ」20年連続売上増の秘密 5年の歳月を経て開発した「チョコの壁」とは?

※出所:True Data 分析期間:2022年1月1日~2022年12月31日/データ抽出日:2023年3月23日/カテゴリ:「パーソナルアイスその他」「ファミリーアイス」「プレミアムアイス」の3カテゴリを合わせて1グループとして分析/業態:食品スーパーマーケット
絶妙な調整で打ち立てられた「チョコの壁」
パリパリのチョコを挟んだバニラアイスをモナカで包んだ「チョコモナカジャンボ」。森永製菓の冷菓事業における主力であり、20年間におよぶ連続伸長を記録している(同社調べ)大ヒット商品だ。

未来価値創造センター 第二グループ 主席研究員
渡辺裕之氏
前身となる「チョコモナカ」が誕生したのは、1972年。モナカを使った冷菓としては後発だったという。しかし、とある工夫が他製品と大きな差別化を果たすことになったと、主席研究員の渡辺裕之氏は解説する。
「当社はチョコレートを得意としておりますから、モナカの内側にチョコをスプレーで吹き付けたのです。それによってバニラアイスの水分がモナカに移ってしまうのを抑制し、長期間“パリパリ感”を持続できました。それが強みとなり、お客様にも喜ばれたのです」
開発に5年をかけたという今回のリニューアルも、このパリパリ感の保持を目指した新たな工夫だという。それが、「チョコの壁」だ。

「モナカとバニラアイスが直接触れる面はチョコのコーティングで吸湿を防げるのですが、上下のモナカが合わさる部分にはどうしても隙間が生じてしまいます。そこからバニラアイスの水分が抜け、モナカに移ってしまうのが長年の課題でした。そこでチョコによる『壁』を立て、モナカが合わさる隙間を埋めてしまおうと考えたのです」
解決の方向性は想定できても、実現は簡単ではなかった。バニラアイスそのものをチョコで分厚く包めば早いが、「チョコモナカジャンボ」の味わいはモナカ、チョコ、バニラアイスの絶妙なバランスの上で成り立っているため、どれか1つが突出してしまうと本来の味が変わってしまう。主力商品ゆえ多数の製造ラインで運用しているため、コストや運用面ですべてのラインで実現可能な製法を考案しなければならない。最終的に用いられたのが、溶かしたチョコを隙間に流し込み、途中で冷やして固めるという手法だった。
「流し込むのに適切なチョコの温度や濃度、粘度、それによって垂れる速度や充填できる量、形状……『壁』が未成熟だと目的を果たせませんし、大きすぎてはモナカが割れたり、モナカからはみ出したりしてしまう。実に絶妙な調整が必要で、5年もの歳月がかかってしまいました。しかしその分、革新的な技術を実現できました」

また、ユーザーからの「味わい」への期待に応えることも困難なハードルだった。ロングセラー製品であるがゆえにヘビーユーザーも多く、もともとの味に愛着を持っている。開発途中で何度も消費者調査を行っては、「試作品より現行品が好み」と答える人の多さに、心がくじけそうになったという。しかし、少しでもおいしい製品を届けたいという信念から開発を継続。「チョコの壁」によってチョコが増量した分、バニラアイスの風味を深めるなど味わいのバランスを追求し、ついには現行品に打ち勝つことができた。
「時間はかかりましたが、過去歴代のチョコモナカジャンボの中で最もおいしいものができたと自負しています」
味わいや食べ応えなどの品質改良は毎年のように行われているものの、今作はリニューアルと銘打つほどの進化だと渡辺氏は胸を張る。
全社を挙げて取り組む「鮮度マーケティング」

今回の「チョコの壁」もそうであるように、「チョコモナカジャンボ」が絶えず追求してきたのがパリパリ感だ。
一般的なアイスクリームの場合、適切な状態で冷凍保存されていれば、製造から数カ月が経っても品質に変化はない。しかし「チョコモナカジャンボ」の場合は、モナカの水分量は時間経過とともに増えていく。バニラアイスの水分量は約60%あり、袋で密閉されているためどうしてもモナカに水分が移っていく。同じ冷菓に分類されても、商品特性は大きく異なるのだ。

マーケティング本部 冷菓マーケティング部 ブランドマネージャー
中村 望氏
「そのため、もし製造から日が経った『チョコモナカジャンボ』が店頭に並んでいれば、期待していたパリパリ感を味わえずにお客様をガッカリさせてしまいます」と話すのは、マーケティングを担当する中村 望氏だ。「できるだけ作りたてに近い状態を味わってもらいたい。そこで2000年代初頭に導入したのが、生産・営業・物流が一体となった『鮮度マーケティング』です」
工場で製造してから5日以内の出荷を目指し、鮮度の高い商品を流通させるという取り組みだ。日本気象協会の協力を得て、AIも駆使して地域によって異なる過去の出荷データとも突き合わせ、正確な需要を予測。小売店には商品の前出しや適切な保管も依頼している。一般的な冷菓は、最盛期の夏に在庫を切らさないよう2~3カ月前から作り置きを始めるが、その手は使えない。極力ジャスト・イン・タイムで届くよう、全社を挙げて取り組んでいるという。
「ストップ&ゴーを細かく指示しており、生産現場からするととても非効率だと思います。大量に発注してもらえても、状況によってお断りしてしまうこともあります。それでも、『チョコモナカジャンボ』のパリパリ感を味わっていただきたいというこだわりは貫くべきだと考えています」
多彩なアプローチでパリパリ感の価値を訴求

今回のリニューアルに当たり、消費者とのコミュニケーションを促進させる「ジャンボスマイルプロジェクト」も実施する。1つは「鮮度マーケティング」の取り組みを広報するもので、もう1つが「パリパリ食感研究」の発信だ。
「パリパリ食感研究」は埼玉大学大学院 綿貫啓一教授らの協力を得て、モナカアイスの食感がもたらす影響について学術的な研究を実施したもの。「水分量の少ないモナカアイスを喫食することで、精神的な満足感(充足感)を得られることを知見とすることができた」(埼玉大学大学院・綿貫教授)と言い、「複合冷凍菓子の水分量の違いが感性に及ぼす影響」と題した論文が日本機械学会に投稿中だという。
「チョコモナカジャンボがいかにこだわりの詰まった商品であるか、多くのお客様に知っていただきたく始動しました。動画共有アプリで製造風景を紹介するなどさまざまな方法でお客様に情報をお届けする予定で、ファンになっていただくきっかけになれば幸いです」(中村氏)
これら取り組みの背景にあるのが、2021年に策定された長期経営計画である「2030ビジョン」だ。
森永製菓は2030年にウェルネスカンパニーへ生まれ変わるという宣言を行っている。「いきいきとした心・体・環境を基盤にして、豊かで輝く人生を追求・実現している状態」をウェルネスの定義とし、「顧客・従業員・社会に、心の健康、体の健康、環境の健康の3つの価値を提供し続ける企業になる」ことを目指している。
「当社はアイスクリームや菓子といった、食べておいしい、楽しい、うれしくなるという、情緒的な価値を伴う商品を提供してきました。そして『心の健康にも寄与するのではないか?』という着眼点の下、商品の価値を新たな手法で深掘りしていこうと考えております。今回実施した科学的なアプローチも、こうした考えに基づいています」(中村氏)
新開発の「チョコの壁」によって、さらなるパリパリ感を実現した「チョコモナカジャンボ」。少しでもいいものを提供したいという森永製菓の想いが、その中に詰まっている。
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