戦略コンサルDIが提案する「働きやすさの新常識」 パフォーマンス最大化のカギは「自由と自律」
「育休・育児によるキャリア停滞」は杞憂だった
「平日でも日中はおむつ交換やミルクをあげるなど、小まめに子どもの世話をするようにしています」
そう笑みを見せるのは、DIでビジネスプロデューサーとして活躍する井田翔氏。製造業や情報通信業などのクライアントに対して、新規事業や事業成長、アライアンス、営業などの戦略策定を支援するコンサルタントだ。日頃の業務はクライアントやチームメンバーとのディスカッション、リサーチ、資料作成など多岐にわたる。
2022年1月に入社後すぐに子どもが誕生し、生後7カ月の頃に育休を1カ月取得。入社から1年経たないうちに育休を取ることについて、「迷惑をかけてしまうのではないかとか、スムーズに復帰できるのかと不安でしたが、結果的には取り越し苦労でした」と振り返る。
「われわれの仕事はPJごとに少人数でチーム編成し進めることが一般的ですが、育休取得の旨を会社に伝えてからは、後任メンバーの割り振りや上司からクライアントへの説明など、しっかりと引き継ぎできる体制をつくってもらえました。また、PCを返却したうえで育休に入ったので、育休中に会社から連絡がくることはなかったです。
育休明けも即日フル回転ではなく、徐々にキャッチアップさせてもらえたので、配慮が行き届いていると感じました。われわれの業界は環境変化が激しいので、1カ月の休みでもキャリアが停滞してしまわないかと懸念しましたが、実際はそんなことはありませんでしたね」(井田氏)
結果、育休中は育児だけに専念し、復帰した現在も平日は18時から21時までの間はなるべく家族との時間に充てるようにしているという。
「働く場所を柔軟に選べるので、在宅勤務中心で仕事をしています。子どもに顔を忘れられないように、仕事の隙間時間にもなるべく小まめに触れ合うことを意識していますね」と子育てに積極的だ。
もう1人、育児真っただ中のコンサルタントがいる。20年3月、DIにジョインした吉田草平氏だ。現在はシニアマネジャーとして、エネルギーや金融分野のクライアントを中心に、新規事業立案や投資戦略策定などに携わっている。
吉田氏のある日のスケジュールはこうだ。9時に出社後、常時3つほど受け持っている案件のミーティングや資料の作成を進めて夕方に帰宅後、数時間は仕事を入れずに家事と育児に専念する。その後、必要があれば自宅で仕事を再開する。
大きな責任を伴う仕事を任されているが、家庭への思いも強い。育休はまだ取得していないが、成長に合わせて自分の手が必要なときを見極めて取得する予定だという。また、子どもの誕生で変化したことについて吉田氏が挙げるのは「一日の時間の使い方」だ。
「もともとプロジェクトメンバーの検討内容の詳細まで入り込むことが好きなタイプで、関わる範囲を広く取っていました。それゆえ業務時間も線引きしていなかったのですが、子どもが生まれてからは限られた時間の中でどう仕事をするか考えるように。マネジャーとしてメンバーに権限委譲をして、どう動いてもらうか意識するようになりました。加えて、家庭に専念する時間を取らせてもらっている分、それ以外の時間はできるだけメンバーの相談に乗れるよう時間外も含めて柔軟に対応しています」(吉田氏)
社員の意見や要望をカタチにする柔軟な姿勢
激務のイメージが強いコンサルタント業務に反して、家族との時間をしっかり確保できている2名の働き方。それを可能にする要因はどこにあるのだろうか。
井田氏と吉田氏はともに「育児中かどうかに関係なく、DIはプロフェッショナルに対して自由で柔軟な働き方を推進している会社」と口をそろえる。
また、働き方の制度が形骸化していないことも特長だ。吉田氏は「入社時に、執行役員が毎日17時に退社して育児に注力していることを知り、コンサルティング会社のイメージが変わりました。社長をはじめ幹部も折に触れて子育ての大切さや面白さを伝えてくれるので、社内全体の雰囲気として子育てに時間を使うことに、心理的な阻害要因がありません」と話す。
メンバー共通のスケジューラーに、「子どものお迎え」「お風呂の時間」といった形で予定が表記されているのも、柔軟な働き方を可能としている証左といえるだろう。
社員の意見や要望を吸収して、制度にする姿勢について、井田氏は次のようなエピソードを明かす。
「実は私が育休を取得する前まで、就業規則上では入社1年以内は育休を取れないという規定になっていました。そのことに疑問を感じて、人事にかけ合ったところ、規定を変更してもらえました。意見や要望をキャッチアップして、柔軟にアップデートしていく会社のスタンスにとても好感を持ちました」
こうした社風は、どのように醸成されているのだろうか。人事総務グループを管轄する執行役員を務める堀場利穂氏は、こう説明する。
「従来の規定や制度にとらわれずに、すべてのプロフェッショナルが最大限活躍できるように会社がサポートすることが重要だと考えています。どんな環境だと働きやすいと感じるかは十人十色。ライフステージによっても変化して当然なので、個人の事情や希望に寄り添い、制度設計にも柔軟性を持たせたことが、現在の自由な企業風土の醸成に寄与していると感じています。プロフェッショナルな社員を支える職場環境を検討してきた結果として、個人の自由と自律を重んじる社風とオープンなコミュニケーションにつながっています」
経営刷新で社員の個別最適な支援の構築へ
20年に経営体制を刷新し、社内の改革を推進しているDI。採用強化や育成、ダイバーシティの推進といった人事制度の改善に注力する中で、社員のエンゲージメントの課題が見えてきたと堀場氏は言う。
「当社はストレスチェック・エンゲージメントサーベイを年に1度実施しています。その調査を踏まえると、ビジネスプロデューサーの企業理念への共感度・エンゲージメントは非常に高く、働きがいを感じている反面、プロフェッショナルマインドが強いがゆえに頑張りすぎて疲弊している人、私生活に支障が出ている人も少なくないことが明らかになりました。
そこで、社員の声を拾うスピークアップの仕組みを強化して、多様な価値観に寄り添い、さまざまな社員が継続的に活躍できる環境づくりに着手しました」(堀場氏)
ただ単に労働時間を短くすればよいわけではない。高いアウトプットを求められるために、やらなければならないときもあるし、自己成長のためのインプットの時間も必要だ。
子育てや介護などは必要な時間にいったん離脱し、手が空いたらまた仕事を再開するなどの自由度がある方が、生産性が高く動きやすい場合もある。一律的な制度設計にこだわらず、当事者のニーズをくみ取りたいという思いについては、経営陣からも絶えずメッセージを送っているという。
最近では、アルムナイ(卒業生)ネットワークも活発だ。家族の転勤に伴い海外で暮らす元社員や、起業した元社員と業務委託の形でつながるなど、正社員という雇用の枠を超えた人材エコシステムの構築にも注力。DIの人的ネットワークは拡大中だ。
情報・スピード・ハイレベルなアウトプットを求められることから、プライベートを犠牲にする覚悟で働くコンサルタントも多い。実際、コンサルティング会社としても、仕事の質を担保しながら、コンサルタント一人ひとりの多様な人生設計に寄り添うという難問を解くことは容易ではないだろう。
だが、DIには働く一人ひとりが充足感に満ちた日常を送ることが、仕事の質につながるという信念がある。それが、プライベートを大切にしたい社員を許容する、オープンでフラットな企業文化の源になっているようだ。