日本半導体「復権」のカギを握るのは「共創」 新生レゾナックCSOが語る日本の半導体の強み

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レゾナック 取締役 最高戦略責任者(CSO) 真岡 朋光氏
日本の半導体産業が凋落して久しい。その様子をコンサル、PC、半導体メーカーでキャリアを積みながら間近で眺めてきた真岡朋光氏が次の活躍の場として選んだのは、半導体材料に強い化学メーカー、レゾナックだった。同社は2020年に昭和電工が日立化成(後に昭和電工マテリアルズ)を買収、23年に統合する形で誕生した。最高戦略責任者(CSO) に就任した真岡朋光氏に、日本半導体産業の可能性について話を聞いた。

――22年に経営陣が刷新されて、最高戦略責任者として招聘されました。参画の理由を教えてください。

レゾナック 取締役 最高戦略責任者(CSO) 真岡 朋光氏
レゾナック
取締役 最高戦略責任者(CSO)
真岡 朋光氏

真岡 私のキャリアは日本のハイテク産業の停滞とともにありました。1999年に入社した外資系コンサルでは、日本のハイテク産業が崩れ始め、その中で苦悩する日本企業のコンサルティングに従事しました。その後に転職した外資系半導体メーカーでは、競合の日本企業がグローバル化の波に苦しむ姿を目撃。次に転職した中国系PCメーカーでは、日本メーカーのPC事業買収の真っただ中にいました。その後、危機に陥っていた日本の半導体メーカーで構造改革を担当。キャリアの中で変曲点をいくつも経験して、そのたびに「日本の産業競争力は何か」と考えさせられてきました。

その流れの中でも世界で存在感を発揮し続けてきたのが、半導体の材料や製造装置メーカーです。ただ、実は違和感がありました。2015年から20年にかけて、米国を中心に半導体メーカーの合従連衡が一気に進みました。一方、そこに材料や製造装置を提供するサプライヤーに大きな変化はない。このまま動かなければ早晩大変なことが起きるのではないか。そんな分析をしていたところ、真っ先に動いたのが昭和電工で、20年に日立化成を買収しました。そのニュースを聞いたときに、「これは来たな」と。

その後、CEOに就任予定の髙橋秀仁と会い、「世界で本気で戦う姿を見せたい」と聞き、参画を決めました。日本の産業を救わなければいけないといった使命感を持っていたわけではありません。考えたのは、自分にとっての「カッコよさ」。自分に何かできることがあるなら、それに挑戦したほうがカッコいいじゃないですか。

レゾナック本社
昭和電工と日立化成(後に昭和電工マテリアルズ)が統合し、半導体材料分野で存在感が高まっているレゾナック

――CSOとしてどのようなインパクトを生み出そうと考えていますか。

真岡 2つのことに取り組みたいです。日本のサプライヤーは、歴史的に見て「日本の顧客」中心主義の傾向があります。かつては日本の最終製品メーカーに張り付いていれば一緒に成長できたからです。ところが1990年~2000年代にビジネスモデルの転換が起きた。レゾナックも、マーケットをグローバルに捉えていかなければいけないでしょう。

もう一つは、ものづくり盲信主義からの脱却です。ビジネスを成り立たせる要素はいろいろありますが、いまだに日本には「ものづくりさえ極めれば勝てる」という固定概念がはびこっています。

たとえばスマートフォンが最初に世の中に登場したとき、「あのプロダクトなら日本の技術でもつくれた」と言う人は多くいましたが、プロダクトを作る技術があれば勝てたかというと、そうではありません。アプリケーションを売るプラットフォームを作り、そこにサードパーティーを呼び込んで、ユーザーに課金して収益を得られるモデルをつくったことや、製造面では海外に委託生産して川上の設計に注力したこと。それらがすべて融合して成功につながったのです。

ところがものづくり盲信主義に陥ると、全体像から目を背けて技術に逃げこんでしまう。ビジネスを正しくとらえることが、自分に課せられた役割だと思っています。

カテゴリーキラーの枠にとどまってはいけない

――日本の半導体産業の中で材料や製造装置メーカーはなぜ好調なのでしょうか。

真岡 半導体は製造のステップによって求められる能力が異なるため、カテゴリーキラーが生まれやすい業界です。その中でも日本の材料・製造装置メーカーは、元気だった頃の日本の半導体メーカーに張り付いていた結果として技術の蓄積がありました。また、カテゴリーが分かれているがゆえに複数企業間で技術要素のすり合わせは必須ですが、その点でもすり合わせ文化がある日本企業は有利でした。

ただ、何もしなければそれらのアドバンテージも生かせなくなると危惧しています。半導体業界でも、2013年ごろから異なるカテゴリーの企業間のM&Aが加速しました。販管費などでコストを共通化できるからです。近年はサステナビリティーやDX、地政学リスクへの対応など、コーポレートとしてのアクティビティーがますます重くなっています。そう考えると、どこかの領域のカテゴリーキラーでも安心できません。今後はむしろスケールが意味を持ち始めます。私がレゾナックを選んだのも、まさにそうした理由からでした。

――昭和電工と日立化成の統合により、半導体材料で世界トップクラスの化学メーカーになりました。スケールが大きくなったほか、統合にはどのようなシナジーが?

真岡 昭和電工は、原材料寄りの川上に強い会社でした。対して日立化成は、最終製品に近い川下――材料を混ぜたり組み合わせて作る材料――が得意でした。川下でよい製品を開発するには、材料である川上の素材が最適化されている必要がある。従来は川上と川下が別の会社ですり合わせていましたが、ノウハウをどこまで開示するかという問題もあって簡単にいかない面がありました。今回の統合でそれをグループ内でできるようになり、より多くの最適化ポイントをつくれるようになりました。

たとえばウェハーの研磨に欠かせないCMPスラリーという液は研磨のために粉を混ぜますが、昭和電工のセラミック技術を活用することで新製品開発のロードマップを描くことができました。また、樹脂を染み込ませたガラス繊維を銅フィルムに挟む銅張積層板は、昭和電工の樹脂を組み合わせることで最適化ポイントが増えました。すでによりよい製品開発につながる例が生まれており、シナジーを感じています。

CMPスラリーと銅張積層板
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左:CMPスラリー 右:銅張積層板

複数企業の「共創」を日本の半導体産業の強みに

――日本の半導体産業は復活できますか。

真岡 機会は十分にあります。今、半導体の後工程に光が当たり始めています。半導体は前工程における微細化の進展により、小さなチップの中に大規模回路が書き込まれるようになりました。大規模回路化すると入力・出力する端子も膨大な数になりますが、そこにつながる配線を細くするのには限界があります。そこで、どうやって配置するかというパッケージの技術、つまり後工程技術の高度化が求められるようになっています。後工程に強みがある日本企業の出番がやってきたという認識です。

――レゾナックは後工程材料で強力な商品を複数持っています。

真岡 半導体メーカーが、ある材料について「このスペックが欲しい」と部材メーカーA社に頼んだとします。それができたものの、今度はトレードオフで別の材料に調整が必要になるケースが多い。その部材を作っているのが別メーカーのB社なら、そこでまたやり取りが必要になってしまいます。複雑なパッケージになるほどこのやり取りが煩雑になりますが、レゾナックは1社で複数の後工程材料を持っています。さらに何をどうすればパフォーマンスが変わるのかを具体的に見ながら開発できる「パッケージングソリューションセンター」を神奈川県の新川崎に開設しています。

実はこのセンターを活用して、他の材料や製造装置メーカーを巻き込んで一緒に先端半導体パッケージのプロトタイプを作る協業のコンソーシアム「JOINT」「JOINT2」も始動しています。もともと日本企業は複数組織間でトレードオフが起きる課題についてすり合わせすることが得意なので、その特性を生かせるモデルだと考えています。実際、海外の方に「JOINT」の話をすると「どうやったらそんなことができるのか」と興味を持たれます。こうした「共創」が日本の半導体産業が注目されるきっかけになればいいと思います。

パッケージングソリューションセンター
神奈川県の新川崎にある「パッケージングソリューションセンター」では、他社と協業して先端半導体パッケージのプロトタイプも開発する

――近年、地政学リスクが顕在化して、自国で半導体のサプライチェーンを完結させようとする動きが表れ始めました。後工程技術を持つ日本企業にとって、この動きは追い風でしょうか。

真岡 米国大使館の方とお会いしましたが、「米国での投資に関して質問があれば誰にでもつなげるよ」と非常にサポーティブでした。ただ、実際の投資判断は難しいですね。米国は半導体開発に歴史と強みがあり、そうした企業と協業する機会が広がることにはポジティブです。一方、ネガティブな点は、生産の場所としてコストが高いことが挙げられます。最初の設備投資は補助金でサポートしてもらえたとしても、ランニングコストは割高です。加えて、補助金をもらうことで中国向けのビジネスを失うリスクもあります。

私たち日本企業にとってチャンスは広がっていますが、その機会を生かすには頭を相当に使わなくてはいけません。私たちも現在、さまざまなシナリオをつくって、今のうちに何をすべきか検討しているところです。

――最後に日本の半導体業界が目指す姿について教えてください。

真岡 日本が将来的に目指すべきは台湾の産業モデルでしょう。強みにフォーカスしたことで優秀な人や技術が集まって産業が強くなり、さらにビジネスを超えたさまざまな面での競争力や交渉力につながり、他の産業においても有利なポジションを取れるようになりました。このサイクルを日本でもつくるべきです。レゾナックは材料メーカーですから先頭に立ってリードするというより、周りをつないでいく立ち回りがふさわしい。ぜひそれに貢献して、自分の中で「カッコいい仕事ができた」と胸を張れるようになりたいですね。

半導体業界の「共創」担うレゾナックの詳細はこちら

レゾナック 取締役 最高戦略責任者(CSO) 真岡 朋光氏のポートレート