ライオン「超ビッグバン型」基幹業務改革の全容 真のリアルタイム経営の実現を目指した4年間
リアルタイム経営の実現に向けて次世代経営基盤の構築
ライオンは、2018年に経営ビジョン「次世代ヘルスケアのリーディングカンパニーへ」を策定した。これを機に、国内外で生き残れる会社を目指すべく、さまざまな社内変革に着手する。その中でも経営戦略上の観点から、急務かつ重要な項目に位置づけられたのが「事業構造改革による経営基盤の強化」だった。
経営マネジメントの要となる業務システムについて、社内のシステム全般を統括する小林健二郎取締役兼上席執行役員は、当時を次のように振り返る。
「当社はかねて既存顧客を対象としたルートセールスをメインにしてきたことから、業務プロセスは複雑ではありませんでした。そのため、中央集権型のシステム開発というよりは、各部門が部分最適でシステム開発を進めることを通例としていました。現場のオペレーション観点からすると、それで不足はなかったのですが、個別のシステムで情報管理をしていたことから、スピーディーな経営判断のために必要なデータを可視化しづらい状況だったのです」
とくに昨今は事業を取り巻くマーケットが様変わりし、デジタルチャネルが台頭する中で販路の多角化や、商品のポートフォリオの複雑化が相まって、データ利活用の必要性は増していた。経営層には、精度と鮮度の高いデータを収集し、データに基づいた迅速な意思決定を可能にするための基盤を構築することが、激変する市場環境に対応する策だという共通認識があったという。
さらに、デジタル戦略部長(取材当時BPR推進部長)の木下陽児氏は、こう続ける。
「基幹システムは、1980年のライオン歯磨・ライオン油脂合併の頃に開発したものが原型であり、外付けの物流や生産のシステムもすべてが開発後20年近く経過していました。正直、老朽化は否めず、持続的にシステムを使い続けることに限界を感じていたのです」
社内外の垣根を越えて500名規模のチームを編成
新しい経営ビジョンの確立をきっかけに、盤石な経営マネジメントインフラの構築に向けて基幹システムの刷新を決断したライオン。目的は大きく3つ「データに基づく迅速な意思決定を可能にする(リアルタイム経営の実現)」「業務プロセスの標準化や機能統合による全体最適の視点での業務遂行(会社・事業・部門を超えたグループ全体の連携)」「業務のスリム化やスピード向上による高付加価値業務へのシフト(生産性の向上)」に整理された。
旧来型の基幹システムからの刷新に当たり、経営資源を全体最適で管理するため、各部門のシステムを一元管理できるERP(SAP S/4HANA®)の導入を決定した。導入自体はスムーズに決まったが、あくまでもシステムは手段であり、重要なのはビジネスプロセスの変革。情報システム部門に一任せず、あらゆる部門を対象に業務プロセスの見直しから始める全社横断型のプロジェクト“Regulus(レグルス)/しし座の恒星”を立ち上げた。
2018年8月からプロジェクトが編成され、ライオン側で専任の社員が30名強、社外のパートナーを含めると延べ500名近くが携わる巨大な体制を構築する。その中でも、プロジェクト成功の要となる伴走者として選んだのが、ITコンサルからシステム開発まで、ワンストップのトータルソリューションを提供しているJSOLだった。
プロジェクトマネジャーとして陣頭指揮を執った木下部長は、JSOLを選定した理由をこう説明する。
「システム構築の依頼先はコンペ形式で選定しました。業務領域が非常に広く、かつすべての機能を一括で導入・稼働させるビッグバン方式になるため、正直ご提案いただける企業が少ない状況でした。プロジェクトの規模が大きいので、他社からは国内のリソースだけでは不足するため、海外の会社とやり取りする必要があるという話もありました。
そうした中ですべてを一手に引き受けると表明してくれたのが、JSOLだったのです。プロジェクトマネジメントも含めて、すべての領域で責任を持てると断言してくれた点、またこれまでにERP導入で失敗がない点など、総合的に強い安心感を持てたことが決め手となり、JSOLを選定しました」
プロジェクトオーナーの小林取締役は、JSOLのプロジェクト参画に当たり、次のような要望を伝えたという。
「プロジェクトルームを用意するので、常駐して社員と同じ目線でシステム構築を進めてほしいとお願いしました。社員とパートナーの双方が同じ方向を見てよいシステムを作ろうとするマインドは、完成品の違いにつながります。社内外の垣根を越えてコミュニケーションを取り、現場の業務について解像度高く理解してもらうことが、アウトプットの質を向上させると確信しています。そうしたポリシーもあってコンペではJSOLのメンバーの『人となり』も重視しました」
デジタル変革の成功のカギはヒト×ヒトの関係性にある
こうして始動したプロジェクト“Regulus”は、JSOLが主体となり13の業務改革テーマを設定。具体的には「販売・需給・生産・調達計画が連動した事業運営の実現(全社ワンナンバー化)」「リアルタイムデータ収集による会計情報把握の迅速化」などだ。各テーマに関して実装のポイントを整理した。そして、テーマごとに「業務設計」「システム構築」「移行」「教育」などカテゴリーに分類し、タスクを細分化。コアとなるシステム(SAP S/4HANA®)に分析ツールなど複数のソリューションを結合して、インフラの整備を進めた。
プロジェクトオーナーのポジションで携わったJSOLの常務執行役員で、システム導入による企業の業務改革を数多く手がけてきた増田裕一氏は、「ここまで大規模なシステム刷新は類を見ない」と言う。
「ERP導入、業務改革、全体のマネジメントをすべて同時に実行するのは、非常にチャレンジングでした。しかし、ベンダーという立ち位置ではなく、もっと踏み込んだパートナーとして迎えていただけるということで、私たちの感情的なモチベーションも上がり、ぜひ一緒に取り組ませていただきたいと申し出ました」(増田氏)
高い専門性と経験値を保有するJSOLのメンバーが、ライオンの社員とひざ詰めで議論を交わしながらプロジェクトを推進。同じくJSOLのメンバーで、プロジェクトマネジメントを担当した宮下雄介氏は、こう振り返る。
「分断したシステムの結合に当たり、それぞれの業務をつなげていくことをチーム全員が意識して進めました。その際には双方向から改善を提案。コミュニケーションの蓄積で、忌憚のない意見交換ができたことも、プロジェクトの大きな成功ポイントです。
システムを刷新すればすべてがうまくいくわけではありません。業務を動かすヒトの利便性や効率化につながってこそ成功です。きめ細かいコミュニケーションを重ねながら、一つひとつの壁を乗り越えて本稼働に至ったことは、運用のフェーズを見据えても意義深いことだったと思います」
変化のスピードに負けない仕組みの標準化で強い経営を
JSOLと二人三脚での4年にわたる歳月を経て、2022年5月にプロジェクト“Regulus”はゴールを迎え、システムの稼働がスタートした。今後の見通しについて、小林取締役は「国内外の事業での売り上げや輸出の損益など、さまざまな数字を把握して経営の予測に役立てたい」と期待を込める。
「現在、当社の新規事業では、製品ではなくサービスを売る取り組みも始めています。損益予測の立てにくさがネックでしたが、これからはデータを基に予測を立てられるようになります。複雑化した事業ポートフォリオをドラスティックに変える場面が来たときにも、データで判断できる点も経営的に大きなメリットになると考えています。また、“Regulus”を通して、当社の新しい基幹システムを熟知するJSOLというパートナーができたのは大きな財産だと感じています」(小林取締役)
JSOLの増田氏は、コロナ禍、ウクライナ危機、円安、原料高など、この数年で企業経営を取り巻く環境はかつてないほど激変していることを挙げ、ビジネスプロセスの標準化やデータ活用の重要性を強調する。
「日本企業は現場の創意工夫を強みにしてきました。その強さは海外企業に比べても圧倒的です。ところが、それゆえに各部門でデータを個別に保有していたり、システムがサイロ化したりと、連携の難易度が上がっているケースは少なくありません。それが迅速な意思決定の足かせになっている状況は否めないと思います」
不確実で変化の激しい時代には、部門最適ではなくビジネスプロセスやシステム、データを全社で標準化することで、鮮度の高い情報を経営判断の場に届けることができる。“Regulus”はまさにそれを可能にするための取り組みだったわけだが、増田氏はこの経験を横展開していきたいと展望する。
「“Regulus”というビッグバンプロジェクトのスピード感や、全社の改革テーマに一気通貫でコミットしたノウハウは、業界問わずさまざまな企業に生かせます。企業の業務改革の伴走者として今後も挑戦を続け、日本社会全体の効率化を実現したいと考えています」
生き残りを懸けて競争優位を維持するためには、レガシーシステムからの脱却と意思決定のスピード化をかなえるデータの収集は最低条件といってもいいだろう。
単純な「システムの入れ替え」に終始するのではなく、『今はない、答えを創る。』をブランドメッセージとするJSOLの経験と知見を生かして業務プロセスの改善を達成したライオン。盤石な経営インフラを武器に、経営ビジョン達成に向けて走り始めている。
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