バンダイナムコのIP軸戦略を支えるテック系人材 ゲームエンジニアの新たなキャリア選択肢とは

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バンダイナムコエンターテインメント 3名
エンターテインメントとしても産業としても、年々存在感を増しているゲーム産業。今や世界のゲーム人口は30億人にのぼるともいわれている。そんなゲーム産業を支えているのが、システムエンジニアだ。業界大手のバンダイナムコエンターテインメントでは、急速に変化するゲームを支えるテック系部門に注力している。ゲームタイトルの開発でなぜテック部門が重要視されているのか、バンダイナムコエンターテインメントのデジタル分野を担うキーパーソン3人に話を聞いた。

オンライン主流のゲーム業界の今

日本のゲーム産業は、1980年代に家庭用ゲーム機の普及とともに大きく発展してきた。この40年の間にゲームのプレー環境は据え置きの家庭用ゲーム機から携帯型、さらにはスマホやパソコンにまで広がった。プレー環境の性能は年々向上しており、変化のスピードが非常に速い。

こうした変化は「ゲームをつくる側」にどのような影響をもたらしているのか。CX戦略室 デジタルテクノロジー部 ゼネラルマネージャーの田村雄也氏はこう話す。

「ゲーム機のスペックも上がり、今はゲームのエンジンで映画がつくれるほど性能が向上しています。その分、求められるのが品質の高さです。開発の体制もコストも昔に比べて大規模化していることに加え、期間も長期化、業務内容1つとっても分業化、高度専門化が進んでいます」

さらに、通信技術の進化と広がりによって、スマホやパソコンだけでなく、家庭用ゲーム機でもオンラインで遊ぶスタイルが主流となっている。

田村雄也氏
バンダイナムコエンターテインメント 
CX戦略室 デジタルテクノロジー部 ゼネラルマネージャー
田村 雄也

「通信技術の向上でゲーム体験がリッチになり、今やオンラインの要素なしではユーザーに満足してもらうことはできません。しかし、家庭用ゲーム機で通信が可能になったことで、テック面では解決すべき要素が増え、そして複雑化しています。例えば、重厚長大で高品質なタイトルを開発、提供できるパブリッシャーは限られるため、期待されるタイトルにユーザーが集中します。すると、サーバーにも負荷がかかります。国内だけであればプレー人数が増える朝の通勤時間や夜のピーク時に耐えられる環境を考えればいいのですが、今は世界中からユーザーがオンラインでアクセスする時代。いろいろな国や地域のピークタイムを考慮する必要があります」(田村氏)

さらに、田村氏によると、オンラインで遊ぶスタイルが主流となったことで、内容のアップデートが可能になったことも大きな変化だという。

「オンライン要素が前提となっている今、『いかに長く深く楽しんでいただくか』という工夫が重要になってきています。定期的なイベント運営や新要素のアップデートのほか、サーバー障害などが起こってしまった場合にはお客様の気持ちに寄り添い、状況によってはゲーム内でお詫びとしてのアイテムを配布するなどのようなファンとの対話の手段も多彩になっています。現在は、パッケージソフトのリリースをもってプロジェクト終了となる時代ではなく、リリースしてからが始まりなのです」

世界中のお客様にゲームコンテンツを長く楽しんでもらう。そのために必要なのが、技術的な品質の担保だ。しかし、オンラインが主流の現在、技術的な品質を担保するには、エンジニアにもこれまでとは違う視点が必要になっているという。

デジタルテクノロジー部 デジタルテクノロジー課 マネージャーの後藤卓氏はこう説明する。

「昔はプログラムを書いてパッケージソフトに詰めれば製品化できましたが、今はさまざまなサービスやソリューションを組み合わせる必要があります。例えば、世界中のお客様が複数人で同時に遊べるゲームを開発し、その後何年も運用し楽しんでいただきながらビジネスを成り立たせるためにはどのクラウド製品が最適なのか。通信部分を制御するためのエンジンは何を選択すべきか。エンジニアであっても、自分たちが届けたいものをつくるには、知識や技術だけでなくビジネス視点も必要なのです」

社内のプロデュース部門と外部開発パートナーを結ぶエンジニア

こうした環境の変化に対し、同社では複数ゲームタイトルのオンライン開発情報通信技術をディレクションする専門部隊を配置している。業界ではまだ珍しい職域だが、その背景にあるのが同社ならではのIP軸戦略(※1)という強みだ。

後藤 卓氏
バンダイナムコエンターテインメント 
CX戦略室 デジタルテクノロジー部 デジタルテクノロジー課
(2023年4月よりタイトルテック課)マネージャー
後藤 卓

「当社ではさまざまなIPを軸に商品を展開しています。『このキャラが好きだからこのゲームで遊ぶ』というファンも多く、品質の高さに加え、『IPでワクワクできること』が求められます。ファンの期待に応えるゲームタイトルの開発には必然的に時間がかかり、さまざまなIPを擁する当社では何十もの開発プロジェクトが同時並行で動くことになります。よって、タイトルごとに異なる外部の開発パートナーとともに開発を行っています」(後藤氏)

バンダイナムコエンターテインメントには、ゲーム開発を担当する部署はない。あえて開発部隊は社内に置かず、実現したいコンセプトに合った強みを持つさまざまな外部開発会社とタッグを組むことで、IPの魅力を存分に生かした高品質なゲームタイトルを複数かつ継続的に世に送り出すことが可能となっているのだ。

「ゲームの企画を担当するプロデューサーとプログラムを書く開発エンジニアはそれぞれ見えている部分も課題の種類も全く異なるため、“違う言語で会話している”ような状態に陥りがちです。そこで、間に立って翻訳したり、システム面においてあるべき姿に向かってディレクションしたり、課題解決しながらリードするエンジニアが必要となります。こうしたシステムディレクションを行うエンジニアのことを、社内では『テクニカルアーキテクト(※2)』と呼んでいます。プログラムを書くエンジニアが大工さんだとしたら、この仕事はインフラを含む全体像を見る建築家というイメージです」(後藤氏)

テクニカルアーキテクトは複数のゲームタイトルのプロジェクトに同時並行で関わりながらテック領域の課題解決のために動く。プロジェクト個別最適の目線を持ちながら、同時に全体最適の視点で開発や運営を効率化させるとともに、これまで難しかったノウハウや情報の横展開をすることも大切な仕事だ。横断専門機能部門だからこそ、複数の案件を通じて、社内のどの部門よりも「このサービスを使うと効率がいい」「この手法はここで失敗しやすい」など、気づきを得やすいためだ。

バンダイナムコエンターテインメントではテクニカルアーキテクトを重要視し、人材の確保と活躍の場の拡大を進めている。テクニカルアーキテクトに向いている人について後藤氏はこう説明する。

「社内の他部署や社外の協力会社と連携する場面が多いため、エンジニアの素養や経験に加えて、関係者を巻き込みながら課題感や思いを伝え、マネジメントする力が求められます。また、いくつものゲームタイトルをファンに届けるには、それぞれの案件を自分事化できることも重要ですね」

※1 IP軸戦略:IP(キャラクターなどの知的財産)の世界観や特性を生かし、最適なタイミングで、最適な商品・サービスとして、最適な地域に向けて提供すること

※2 このページでは社内の呼び名である「テクニカルアーキテクト」を用いているが、求人情報などでは少しでも業務内容が伝わりやすいよう「システムディレクション」と表記されている

大量の情報とノウハウを吸収できる仕事

デジタルテクノロジー部 デジタルテクノロジー課 チーフの道脇翔平氏は、テクニカルアーキテクトとして活躍する一人。複数のゲーム会社でエンジニアとしてゲームタイトルの開発を手がけた経験を持つ道脇氏は、テクニカルアーキテクトという新たなキャリアを選択した理由をこう話す。

「前職のモバイルゲームパブリッシャーで、チームマネジメントを行う傍ら、企画からリリースまでリードエンジニアを務めたプロジェクトが一段落し、次のキャリアを考えました。そのときに思ったことが、『最新の技術が多く取り入れられるゲーム/エンタメ業界において、幅広い知識を持つゼネラリストを目指したい』ということ。そこで、出合ったのがテクニカルアーキテクトという仕事です。ゼネラリストにもいろいろな道があると思いますが、多くのタイトルに携わり、さまざまな外部開発パートナーと会社を超えるスケールでタッグを組むことができるこの仕事に興味を持ちました」

2022年に入社し、テクニカルアーキテクトとして約1年が経った今、自身の成長を実感しているという。

道脇翔平氏
バンダイナムコエンターテインメント 
CX戦略室 デジタルテクノロジー部 デジタルテクノロジー課 チーフ
(2023年4月よりタイトルテック課 アシスタントマネージャー)
道脇 翔平

「通常、開発で得られた知識やノウハウは、その開発パートナーやチームに蓄積され、共有されることはあまりありません。しかし、当社のテクニカルアーキテクトは多くの開発パートナーと関わる中で得た知識やノウハウを当社社内に蓄積し、会社の利益貢献、ひいてはファンの期待を超えるコンテンツ提供や他プロジェクトの問題解決のために役立てることができます。会社もこの仕事を重要視し、しっかり予算をつけてくれているので、全社視点で大胆な提案やチャレンジできることがありがたいですね。技術や知識に対する探究心がある人にとって、とても魅力的な仕事だと思います」

パフォーマンスを発揮すれば、在籍年数に関係なくポジションも用意される。道脇氏は、23年4月からアシスタントマネージャーに就任することが決まっており、着実にキャリアを積み上げている。

「当社に入社する以前も、自社で使用するシステム基盤を実装したり、ミドルウェアの選定を行ったりと、チーム横断の仕事を経験していました。当時は個人の力で頑張っていましたが、当社のテクニカルアーキテクトにはチーム・組織力を使って物事を進めるという醍醐味があります。当社では何十以上ものゲーム開発プロジェクトが同時進行しているので、そのスケール感にワクワクしています」

急激に変化する業界におけるエンジニアキャリアの新たな選択肢

バンダイナムコエンターテインメントのデジタルテクノロジー分野全体を統括する田村氏は、今後のゲーム業界とテクニカルアーキテクトについてこう語った。

「ゲーム業界の進歩は速く、課題は尽きません。今後はテクニカルアーキテクトの重要性がさらに増していくでしょう。私たちも課題解決できるチームとして貪欲に進化し続けたいと思っています。さまざまなIPを擁する当社では常に複数のゲームタイトルを開発しており、使えるソリューションも豊富です。貪欲に知識を得て成長したい人には、そのための環境を提供できます。そうした方に、ぜひテクニカルアーキテクトとして私たちのチームに加わっていただけたらうれしいですね」

通信インフラや社会のあり方とともに、急速に進化し続けるゲーム業界。ゲーム開発を支えるエンジニアの新たなキャリアの選択肢として、テクニカルアーキテクトの存在はますます注目されていくだろう。

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