製粉メーカーの枠を超えたニップンの多角化経営 冷凍食品・ロボット・新素材まで領域を広げる訳

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新素材「ソイルプロ」とトッピングロボット「ニトロン」
左:日本古来の豆腐加工技術を生かした新素材「ソイルプロ」
右:人と協働するトッピングロボット「ニトロン」
2022年にグループの経営理念・経営方針を策定したニップン。基盤となる製粉事業にとどまらず、今や冷凍食品や中食(弁当や惣菜などの調理済み食品)、ヘルスケアまで手がける総合食品企業となったが、今後はさらなる多角化を推し進める考えだ。将来は売上高5000億円、営業利益250億円を視野に入れる。それをどのように実現するのか。代表取締役社長の前鶴俊哉氏に成長戦略を聞いた。

新生・ニップンは「ウェルビーイング」を追求する

ニップンは2021年、創立125年を機に社名を日本製粉から変更。新たなスタートに合わせて、翌年には経営理念と経営方針を策定した。経営理念は「ニップングループは、人々のウェルビーイング(幸せ・健康・笑顔)を追求し、持続可能な社会の実現に貢献します」。前鶴俊哉氏は次のように解説する。

ニップン 代表取締役社長 前鶴 俊哉 氏
代表取締役社長
前鶴 俊哉氏

「ここでの『人々』はまずお客様です。素材から加工食品へと幅を広げてきた事業を通しておいしさや栄養を提供することで、お客様のウェルビーイングに貢献したいという思いを込めました。また、『人々』には社員や株主、そして地域社会などさまざまなステークホルダーを含んでいます。社員の働きがいやモチベーション、株主にも気を配り、時代を先取りした商品やサービスを提供することで社会課題を解決し、よりよい社会や地球の実現を目指します」

数値目標も明確にした。長期ビジョンとして売上高5000億円、営業利益250億円規模の成長を掲げるとともに、マイルストーンとして26年度までに売上高4000億円、営業利益150億円の中期目標を設定した。目標達成のカギになるのは、以前から進めてきた多角化戦略だ。同社のルーツは小麦の製粉だが、1950年代にパスタ、60年代にプレミックス、70年代に冷凍食品、90年代に中食など、新たな事業領域を次々に開拓してきた。

「人口減や高齢化の進行など日本の社会構造が変わることによって、それぞれの素材は影響を受けます。既存の素材の高付加価値化を進めるとともに、さらなる成長のためには、素材の幅を広げることが大切。穀物など植物の恵みを中心に新たな素材にも挑戦していきます。もう1つ、加工技術の開発も重要です。植物の恵みを食品素材にし、さらに冷凍食品やお弁当・お惣菜などの中食に加工する。“素材”と“加工”という2つの軸の掛け合わせで今後も多角化を進め、成長を目指します」

※プレミックス:天ぷら粉やから揚げ粉など、小麦粉を主原料にさまざまな副資材を混ぜ合わせて作られている食品素材のこと

時代を先取りするチャレンジ精神で新領域を切り開く

成長戦略のアプローチは2つある。既存事業を伸ばす「オーガニック」と、M&Aやオープンイノベーションなど外部リソースを取り入れながら成長する「インオーガニック」だ。

オーガニックでは、冷凍食品・中食・ヘルスケア・海外を重点領域に定めた。とくに冷凍食品は期待が大きい。近年では主食×主菜など複数の料理を楽しめる「よくばり」シリーズといったヒットがあるが、今後も時代を先取りした商品を開発していく。

「ヒットの裏には失敗も多いですよ。例えばチンするだけでパンケーキと温野菜といった朝食が楽しめる『よくばりプレートモーニング』シリーズは新規性があっていいと思いましたが、期待したほどに販売は伸びませんでした。ただ、ニップンは従業員が自由に提案して、面白いものは積極的に採用していくカルチャーがあります。そのチャレンジ精神はそのままに、今後はマーケティングを強化してヒットの確率を高めていきます」

日本古来の豆腐加工技術を生かした新素材「ソイルプロ」。ひき肉を使うメニューや、コメの一部置き換えなどに適している
日本古来の豆腐加工技術を生かした新素材「ソイルプロ」。ひき肉を使うメニューや、コメの一部置き換えなどに適している

時代を先取りするチャレンジ精神がよく表れている開発例が、植物性たんぱく質素材「ソイルプロ」だ。

一般的な大豆ベースの代替肉は搾油後の大豆を使って製造されることが多いが、ニップンは豆腐の加工技術を応用することで大豆特有の臭みや後味を大幅に改善した。

すでにソイルプロを採用したヴィーガン冷凍食品を発売し、サステイナブルな食事の可能性を広げている。まさに「素材×加工」で切り開いた新領域だ。

ソイルプロを使った冷凍食品の例
ソイルプロを使った冷凍食品の例。味にこだわったヴィーガン対応食品だ

「プラントベース市場は大きく拡大していくでしょう。ただ、ソイルプロは肉の代替という位置づけで展開するのではなく、肉とは違うおいしさを持つ素材として追求したいと考えています。そうなればもっと積極的に選んでいただけるはずです」

インオーガニックのアプローチが効果を発揮しそうなのは海外展開だ。ニップンの海外売上比率は3%台(2021年度)だが、26年度までに6%台への拡大を目指している。また、アジア・北米地域での販路拡大だけでなく、独自の設備増強なども進めており、新設のインドネシア製造工場は23年夏に稼働を開始する見込みだ。

なぜ食品会社がロボットを開発するのか

「素材×加工」のマトリックスに当てはまらない新規事業もある。注目はフードテックロボットの開発だ。ニップンは食品加工工場で稼働する産業用ロボットを、ロボットメーカーと一緒に開発している。

その1つ、協働型トッピングロボット「ニトロン」は1台で1時間当たり2000食分を処理できるスペックを誇る。すでに自社グループ工場で活躍しているが、ほかの弁当や惣菜工場への拡販を強化していく考えだ。

「機械部品のように形の決まったものをつかむことに比べて、例えばブロッコリーやから揚げなど、形が一つひとつ違う食材をつかむのは難しい。ニトロンはその難しい問題も解決できる潜在能力を持っています」

人と協働するトッピングロボット「ニトロン」。ほかにも、ニップンはAIを駆使した包装不良検査装置やソース自動充填装置などのロボットを開発・運用している
人と協働するトッピングロボット「ニトロン」。ほかにも、ニップンはAIを駆使した包装不良検査装置やソース自動充填装置などのロボットを開発・運用している

実は前鶴氏は技術畑が長く、生産技術のエキスパートでもある。それだけに製造現場が抱える課題には人一倍関心が高い。

「すべてをロボットにやらせる必要はありません。一部でも代替できれば人手不足の解消に近づき、品質が安定します。私たちは自社の製造ラインがあり、現場から『この作業を代替してもらえば楽になる』といったアイデアを出せる。その強みを生かしてロボットを開発し、食品業界のお役に立ちたい」

そのほか、冷凍食品では紙を使用したトレーを採用して脱プラ化を進めたり、タイ工場で日本発の食品安全マネジメント規格「JFS-C」の認証を取得したりするなど、ニップンは食品周辺の技術や管理体制でも新たなチャレンジを続けている。

最後に前鶴氏は、「挑戦を続けるために積極的に人的投資を進めていきたい」と語ってくれた。

「人的投資は以前からやりたかったことの1つです。IT、英語、知財などの基礎的な知識や能力が底上げされるだけでも、新しい事業やプロジェクトにも対応しやすくなります。人の成長が最大の成長戦略。しっかり人を育てていきたいですね」

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