ITインフラのエキスパートが明かすDX成功の鍵 PoCで終わらせない「仕掛け」には何が必要か

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今、あらゆる組織で最重要課題の1つとなっているDX(デジタルトランスフォーメーション)。しかし、実際には思うように進んでいなかったり、取り組む方向性を見定められなかったりといったケースも散見される。なぜDXは進まないのか。有効な処方箋はどのようなものか。ITインフラのエキスパートとして、幅広い業種のDX推進をリードしてきたJSOL プラットフォーム事業本部 上席プロフェッショナルITアーキテクトの林大介氏に見解を聞いた。

課題を俯瞰し、ITをトータルコーディネート

──林さんが所属するプラットフォーム事業本部は、どんな役割を担っているのでしょうか。

「クラウド」「ネットワーク」「セキュリティ」と企業のDX実現に欠かせないITインフラの構築を手がけています。これはJSOLの全部門に共通していることですが、顧客の新たなビジネス創出に向けて付加価値をいかに生み出すかを重視しています。インフラ領域だけ、または業務アプリケーションだけ、を見ていては企業が本質的に何を必要としているのかは見えてきません。つねに顧客とコミュニケーションを図り、「どんなことに困っているのか」「何を必要としているのか」「あるべき姿はどこにあるのか」を考えています。

私自身もそうですが、そうやって企業と向き合うことで、依頼いただいた業務以外のことも俯瞰的に見ることができます。JSOLが多数のベンダーが参加するプロジェクトのマネジメントを任され、クライアントに代わってシステム全体のプランニングやチェックを担うことも多いのは、そうやって“引き出し”を増やしてきたからだと思っています。

──SIerには「受け身」のイメージもありますが、JSOLのプラットフォーム事業本部は、ITを全体的にコーディネートして顧客をリードするポジションを確立しているのですね。

林 大介 氏
JSOL プラットフォーム事業本部
上席プロフェッショナルITアーキテクト
林 大介

顧客企業のビジネスだけでなく業界動向を考慮したうえでIT環境を設計するには、やはり課題を俯瞰するスキルが求められますね。最近はとくに、単独の要素技術だけでなく、領域を横断した知見が必要となってきました。クラウドのインフラを構築するならば、ネットワークにも通じていなければなりませんし、セキュリティもアプリケーションとの連携方法も知らなくてはなりません。さらに、IT技術はつねに進化していますので、昨年使った技術が今年は使えないということが当たり前になってきています。自分なりの強みは持ちつつ、幅広い領域のスペシャリストと緊密な連携が取れないと、DX推進のサポートはできません。

ハイブリッドクラウドが「DX遅れ」を解消する

──DXをめぐっては、「思っていたより進まない」という企業の声も多く聞かれます。林さんから見て、「進まない」企業にはどのような問題がありますか。

DXの実現に欠かせないクラウド環境に課題が多いと感じています。クラウドはボタン1つで手軽に導入できますが、オンプレミス環境をそのまま移行しただけの「クラウドリフト」にとどまっているケースが非常に多いのです。クラウドの特徴の1つは、ほかのシステムとの連携が容易な「柔軟性」ですが、多くの企業がそれを生かせていないと感じています。想定したコスト削減効果が出ず、逆に運用コストが上がることもあります。

──コロナ禍や2021年の国際的スポーツイベントの開催などによって、近年急速にテレワークが普及しました。そこでクラウド化は進んだものの、メリットを生かしきれていないのですね。

例えばスピード感を最優先に急きょクラウド導入を決めた企業では、セキュリティがおろそかになっているケースも目立ちます。また、クラウドが手軽に導入できることで、従業員や各部門が利用しているクラウドサービスを企業の統制部門側が把握しきれていない「シャドーIT」が発生しているケースもあります。そうした状況を重く見て、一部の企業ではクラウドからオンプレミス環境へ回帰する動きも出てきています。

しかし、繰り返しになりますが、DX実現にはクラウド環境が不可欠です。オンプレミスとパブリッククラウド、プライベートクラウドなどを組み合わせて適切に利用できる「ハイブリッドクラウド」や「マルチクラウド」と呼ばれるITインフラ形態を実現させることが重要でしょう。

──ハイブリッドクラウドを実現するうえで留意すべきポイントは何でしょうか。

ハイブリッドクラウドの環境を整備するに当たってのポイントは、大きく3つです。1つ目は「クラウドは止まるもの」と認識することです。もちろん、こういったシステムは止まらないことが理想です。しかし現実には、クラウドサービス側との責任分界点においてサービス障害が意図せず発生します。業務要求レベルによりシステムの一部あるいは全体をオンプレミスに移したうえで、クラウドサービスとの間でセキュアなデータ連携基盤を構築することが効果的です。

2つ目は「ビジネスの仕分け」です。新たなビジネスは高速でPDCAサイクルを回さなくてはなりませんから、スピードや柔軟性を重視したクラウドで構築すべきでしょう。瞬発性が求められるシステムも同様です。

そして3つ目は「運用の効率化」です。クラウドもオンプレミスも迅速に管理できなければ、目まぐるしく変化するビジネス環境に対応できません。ちなみにJSOLでは、ハイブリッドクラウド環境の構築から運用管理・監視まで、迅速かつ容易に一元管理できる運用管理サービス「J-Across」を独自開発・提供しています。加えて、当社ではアマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社、日本マイクロソフト株式会社、グーグル・クラウド・ジャパン合同会社とビジネスアライアンスを組み、クラウドリフト&シフト加速の支援に力を注いでいます。とくにアマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社、日本マイクロソフト株式会社については当本部が契約窓口となり、クラウドリセールなどの付加価値サービスも提供しています。

DX実現の舵取りを担うのに必要なスキルとは

──ハイブリッドクラウドを実現することで、DXの推進もしやすくなります。DXを成功させるためにはどんなことに注意するべきでしょうか。

PoC(Proof of Concept:概念実証)で終わらせない仕掛けづくりをしておくことでしょう。DX化が一種のはやりとなり経営トップダウンでDXを推進する中で盛んにPoCを実施している企業が多いですが、その検証結果を実際の業務へ適用できないケースも少なくありません。これは、クラウドリフトにとどまってしまうのと同じで、「手段の目的化」に陥っていることが多いのです。

──「手段の目的化」を解消し、DXを実現するにはどうすればいいのでしょうか。

必要不可欠なのは、明確な達成目標の設定です。とくにDXは、何のために取り組むのかいまだにはっきりしていない企業が多いですね。だから、「デジタルツールの導入」で話が止まってしまい、ビジネスの本質的な課題解決につながらないのでしょう。

そうした状況を踏まえると、私たちプラットフォーム事業本部としてはITインフラの提供だけにとどまっていてはいけないと強く思います。インフラ基盤のみの提供だと、お客様任せのビジネスになってしまうため、「手段の目的化」は解消できません。顧客のビジネス展開まで踏まえて明確な目標を設定し、達成するための舵取りを担うべきだと考えています。

──ビジネスを取り巻く環境が目まぐるしく変わる中で、DX実現の舵取りを担うプラットフォームビジネスは存在感を強めていくと感じます。そうしたビジネスフィールドで活躍するのに必要なスキルや人材要件は何でしょうか。

先ほど、領域を横断した知見が必要になってきたと申し上げましたが、とりわけ「クラウド」「ネットワーク」「セキュリティ」の3領域についてはバランスのよいスキルが必須になってくると思います。また、提案から設計、構築、運用まで一通りの経験を積むべきでしょう。

そのうえで、「これが自分の価値だ」と表明できる得意領域があれば、なおチャンスは広がります。お話ししてきたように、クラウドの活用に向けて多大な課題がある今は、プラットフォーム領域で新たなビジネスを開発する絶好機でもあるからです。顧客のニーズを的確に引き出し、潜在的な課題まで掘り下げて解決をしたうえで付加価値を創造する。JSOLのプラットフォーム事業本部はその先鋭を担う存在を目指していますので、キャリアアップを狙う方はぜひジョインしていただきたいですね。

林 大介 氏

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