顧客との共創時代の幕開け CXフォーラム2023
協 賛 NTTマーケティングアクトProCX ジェネシスクラウドサービス セールスフォース・ジャパン TMJ 富士通コミュニケーションサービス カラクリ スマート・アナリティクス Zendesk
後 援 公益社団法人消費者関連専門家会議(ACAP) 公益社団法⼈⽇本マーケティング協会 ⼀般社団法⼈⽇本コールセンター協会 ⽇本ダイレクトマーケティング学会
基調講演
顧客との価値共創をどう実現するか
─市場を超えた新たなビジネスの構築
消費者はモノの豊かさより心の豊かさを求めている。ICT(情報通信技術)が進展し、モノからサービスへというビジネスの流れも鮮明だ。日本マーケティング学会理事も務める村松潤一氏は「市場での交換価値を高めることに主眼が置かれた従来のビジネスでは消費者の心の豊かさを満たすことはできない。環境が変わった今、消費者が『生活世界』でサービスを利用することで生まれる『文脈価値』(利用価値)を高めるビジネスへの転換が求められる」と語る。
文脈価値は消費プロセスの中で消費者が決めることになるので、企業は製品のように事前に価値をつくり込めなくなる。そこで村松氏は、消費者との接点を構築し、双方向のコミュニケーションによって消費プロセスに入り込み、消費者の文脈をコントロールして利用価値を共創するアプローチを提案する。この動きはすでに建機や家電、ソフトウェア開発などの分野で見られるとした村松氏は「企業はモノから脱却し、顧客との価値共創から逆算してビジネスを考えるべきだ」と訴えた。
特別講演(1)
人とデジタルの最適化
~はじめてのCX~
「これから優先すべき投資対象を判断するには顧客が本当に望んでいることを理解する必要があった」。アコムの木下裕司氏は同社が2018年に行ったCX調査の目的を説明した。
調査から離反リスクが高い課題として浮かんだのがデジタル利便性の低さだった。ウェブで完結しない。電話以外の問い合わせ手段がない。アプリが使いにくい。これらに対し、同社はウェブで申し込みを完結する仕組みとして、チャットの問い合わせを導入し、新アプリをリリースした。
顧客の中心は若年層だが、つねにデジタルでの対応が望まれるわけではなく、返済などへの不安を感じるケースでは人による対応を望むことも調査でわかった。木下氏は「状況に応じて顧客が接点手段を選択できることが大切。デジタル拡充は必要だが、全面的なデジタルシフトではなく、人による対応についても充実させる必要がある。CX調査がなければ、このことに気づけなかったかもしれない」と調査の意義を語った。
特別講演(2)
J:COMのCX戦略
~エンゲージメントを高めるためのMYJ:COMアプリ~
CX戦略をスタートさせた4年前、JCOMはサービスを利用する562万世帯への営業活動を通じてすでに多くのVOC(顧客の声)を得ていた。しかし「お客様の行動をデータとして把握できていたわけではなく、顧客理解が不足していた」とJCOMの野橋亜弓氏は振り返る。
そこでCX調査を実施。同社サービスで痛点(悩み)を経験した顧客のうち、問い合わせをしてきたのは4分の1だけだった。質の高いカスタマーサービス対応は顧客満足、継続意向を向上させるが、問い合わせをしてこない顧客には対応できない。同社は、痛点を減らし、コンタクトしやすくするデジタル強化に取り組んだ。
その1つが番組検索・録画や手続き、サポートなど、すべての顧客体験をワンストップで提供する「スーパーアプリ」の開発・提供だ。同社の田島真氏は「ログインして利用するので、問い合わせの際の本人確認の手間を省いてお客様のエフォートレスにつながる。また、現場営業の問い合わせ対応の労力を減らしつつCXを推進できる」と効果を説明した。
セッション(1)
四方よしのCX共創
"生の声"がナレッジに進化するDX
21年にNTTマーケティングアクトから生まれ変わった「CXのプロ集団」NTTマーケティングアクトProCX(プロクス)の米林敏幸氏は「顧客、企業、従業員、社会の四方よし」のCX共創を説明した。
その戦略の1つがVOCの徹底活用。コンタクト理由の重要性を企業、顧客の2軸で分析することでチャネルを最適化。大量の声から明らかにした顧客の潜在ニーズなどを社内にフィードバックする。
長年の経験に基づく評価基準21項目をAI(人工知能)で自動評価する仕組みも開発。このDXにより、評価作業に追われる管理者がコーチングする余裕を生み、均質な全件評価により、抽出サンプルに対するオペレーターの不満解消や、個々の強みを生かすことでEX(従業員体験)を向上させる。
さらに同社はVOC分析の技術・ノウハウを地方創生に応用。市民共創型のまちづくりを行う大阪・堺市のプロジェクトに参画し、市民の声を把握して市民とともに社会課題解決にも貢献する。米林氏は「『四方』が共に成長するCX共創の実現」を訴えた。
セッション(2)
共感性のある顧客体験を提供するためのIT活用のポイント
80%の企業は自社を顧客中心思考だと思っているが、それに同意する顧客は20%――。「このギャップを埋めることが顧客との共創のカギ」と、世界7000社以上のユーザーを持つCXのリーディングカンパニー、米ジェネシスクラウドサービスの武者昌彦氏は語る。自分への理解を求める顧客に対して重要なのが、相手の立場で相手を理解する「エンパシー(共感)」の力によるパーソナライズな体験提供だ。そのために、部門・チャネルごとの情報サイロ化、膨大な顧客接点データの処理といった課題を乗り越え、顧客理解を深める必要がある。
同社のクラウドサービスは、好みや状況に応じて接点チャネルを変える顧客のデータを一元集約し、時系列のCXジャーニーにまとめて個々の顧客体験を俯瞰的に可視化する。また、AIがウェブ上の顧客行動などの分析からその意図を予測し、適した提案を行う機能なども備える。武者氏は「環境変化が激しい現在、AIやクラウドを活用し、大規模かつ高速にCXを改善することが企業競争力に直結する」と強調した。
セッション(3)
BtoBtoCにおける顧客起点主義
アウトソーサーならではの"三者共創"とこれからのCX
現状のCXは、顧客理解、サービス間などの連携、そして継続的改善の基盤が足りない。(1)顧客の声をつかみ、(2)全体をつなげ、(3)持続的に取り組む――ことを課題に挙げるのは、コンタクトセンター運営受託、CXを支援するTMJの北村岳大氏だ。
手作業で顧客の声を一部だけ分析しても正しい理解はできない。同社は、AIをはじめデジタルを使って大量のすべての声を効率的に分析し、正しい考察の土台構築を提案する。社内連携不足の典型はFAQ運用だ。部署ごとの運用では、品質がばらつき、顧客の不満を招きかねない。社内横断的な組織を設けて関係者全員によるカスタマージャーニーマップを作成し認識を共有、ナレッジベース集約などの運用見直しも支援する。CXを持続的取り組みにするには、組織として学ぶ姿勢、ナレッジ流通の仕組みが大事だ。CXをテーマにした研修やポータルサイトなど、自社の取り組みを紹介した北村氏は「痛点解消にとどまらず、真のカスタマーサクセスを実現する『これからのCX』に邁進する」と語った。
セッション(4)
お客様の『本音』から読み解く体験価値
CX起点で組織のチカラを解き放つ
消費行動の変化やコロナ禍の顧客接点オンライン化により、企業はCXの重要性の認識を高めているが、うまくいっていないことも多い。富士通コミュニケーションサービスの金井美紀和氏は「まず顧客から直接困り事が寄せられるコールセンターに集まる声に注目することがCX推進の近道」と強調した。
コールセンターでは、会社全体への広がりは欠いたものの、以前からVOC分析を行ってきた。その経験知を蓄積する同社は、不備(使えない)、不便(使いにくい)、不信(不安を感じる)の「3つの不」に着目する分析の方法論を確立。デジタル基盤で一元管理した大量の声から「3つの不」を発見するAIも自社開発した。ロイヤルカスタマー獲得のカギとなる「人」については、会話の基本から顧客視点を理解するミステリーショッパー体験まで取り入れたエージェント教育を実施。ロイヤルカスタマーは通話時間が平均の2倍というデータもあり「顧客の本音を読み解くにはICTと人の両方の力が重要」と訴えた。
海外講演(1)
アウトソーサーのベストプラクティス市場の常識を覆す
"CXディライト"の挑戦記録
高級ブランド向けカスタマーサービスを受託・提供する米VIPdeskのオスマー・ミュラー・ボン・ブルメンクロ氏は、顧客満足より高いレベルの顧客ディライト(感動、喜び)体験の実現に向けて、CCMCと行った調査結果を紹介した。
調査では過去1年に66%の顧客がディライトを体験。誠実さ、透明性、共感などの項目の影響が大きかった。接点は対面・電話以外のチャット、メールなどが約半数を占め、デジタルでのディライト体験が可能だとわかった。ブルメンクロ氏は「コミュニケーションを工夫するディライト体験は、値引きなど従来型の価格による競争を変える」と指摘。グッドマン氏も「デジタルの有効性は、AIによるディライト提供自動化の可能性を開く」と評価した。
海外講演(2)
カスタマーサービスにおけるAIの先進事例コミュニケーターのエンパワーメントをサポートするAIの活用とその成果
ペットフードなどを展開するNestlé Purina Petcareは、ペットに強い思い入れを持つ飼い主に対する難しいカスタマーサービスで、現場へのエンパワーメント(権限委譲)を重視している。少額返金の決定権を与えるなどスタッフの判断を尊重。テリィ・デメント氏は「オーナーシップを発揮してリスクを恐れずに顧客対応することを推奨している」と話す。
会社側はスタッフへのサポートとして、回答例や適切な言い回しなどのナレッジベースを整備。AIも積極的に活用し、音声会話のテキスト化、会話中に出てくるキーワードでナレッジを自動検索するシステムに取り組んできた。グッドマン氏も「顧客のディライトにはスタッフを信じることが大事」と応じた。
パネルディスカッション
CXの現在地を知る
(2022 US-Japan Rage Studyの結果から)
消費者の苦情と企業対応に関する調査「レイジ・スタディ」が22年、日米両国で実施された。痛点を体験したのに企業に問い合わせなかった顧客の割合は米国21%に対し、日本は51%と高く、その離反リスクが大きいこと。米国に比べて日本はチャットやSNS投稿など新しいタイプのデジタルチャネルの利用が少なく、チャネル多様化に課題があること。トラブル原因の説明、親身な対応などの項目で企業対応が消費者期待に達していないことが明らかになった。
ラーニングイットの畑中氏が司会した議論で、企業の顧客サービス担当者の団体、ACAPの坂倉忠夫氏は「多様なチャネル、データをシームレスに統合することが重要」とした。調査に携わったNTTマーケティングアクトProCXの井上雅博氏は「顧客を理解して期待や要望に応える仕組みを整え、地道な活動を積み重ねる必要がある」と強調した。