SEIKYU+がもたらした「請求業務8割削減」の衝撃 「MUFG×マネーフォワード」合弁会社が挑む変革

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Biz Forword林氏
三菱UFJ銀行は2021年8月、マネーフォワードと合弁会社「Biz Forward(ビズフォワード)」を設立した。国内有数のメガバンクとSaaS企業の協業、その背景にあったのは「今までにない金融サービスの創出」という、金融の未来を担う挑戦だった。この協業はどんなインパクトを生んだのか。Biz Forward取締役副社長を務める林博之氏に話を聞くとともに、同社の請求代行サービス「SEIKYU+(請求プラス)」の導入企業への取材を通じて、新たな金融サービスの可能性を追った。

銀行の枠にとらわれない金融サービスへの挑戦

「新たなチャレンジが早急に必要だという、強い危機感がありました」

三菱UFJ銀行で新規事業の推進を担当していた林博之氏は、Biz Forward設立前の心境をこう打ち明ける。急速にパラダイムシフトが起こっている社会で、従来と変わらない取り組みで同様の業績を上げられる保証はどこにもない。たとえメガバンクでも、それは例外ではないという意識があった。これまでにない、新たな金融サービスを。そう考えたときに浮かんだのが、デジタルの力を用いて、中小企業や新領域に挑戦する企業をサポートするという道だった。

Biz Forword林氏
Biz Forward
取締役副社長
林 博之

「赤字決算でもイノベーションを創出している中小企業はたくさんありますが、決算書や取引実績といった過去のデータをベースに与信や融資の判断を行う銀行のやり方では、サポートすることが難しいケースがあります。現在のビジネスの価値を正確に捉え、そういった企業を支援するにはどうしたらいいのか考えました」

林氏の危機感の強さは、行動の速さに表れている。多数の中小企業に金融サービスを展開するマネーフォワードのグループ子会社、マネーフォワードケッサイに協力を仰ぎ、そこからわずか8カ月で合弁会社設立の話が進み、Biz Forwardが生まれた。

「銀行の商品やサービスはリリースまでどうしても時間がかかる。しかし、それでは『今まさに』困っている中小企業を支えるチャンスを逸してしまいます。銀行ではない合弁会社という形を取ることで、従来の銀行ではできなかったスピード感でサービスを提供したいと思ったのです」

請求業務の効率化が中小企業に求められている

現在、2023年10月から開始予定のインボイス制度と、電子帳簿保存法への対応が義務化される24年1月が間近に迫っている。とりわけインボイス制度で必須となる適格請求書への対応は、請求業務の現場負担増加が懸念されている。

「国内企業の9割以上を占める中小企業の中でも、10人どころか5人に満たない人数で運営している企業は非常に多くあります(※)。月末月初には請求書の山に埋もれてしまい、本業に注力できないという話はよく聞いていたので、請求業務効率化への貢献は必須だと考えていました」(林氏)

Biz Forwardで提供する「SEIKYU+(請求プラス)」は、まさにそうした請求業務のサポートに主眼を置いたサービスだ。

「『SEIKYU+』は、請求に関わるすべてのプロセスを代行するサービスです。請求書の発行・発送だけでなく、掛け売りに必要な与信審査や入金の催促、入金の管理・消し込みまで含まれるのが大きな特長です。中小企業だけでなく、人手の限られる大企業グループの新事業などでもご利用いただいています」(林氏)

SEIKYU+フロー図

「SEIKYU+」の特長は、問い合わせと注文に対応するだけで取引が完結できることだ。これにより企業間決済に必要な与信や売掛金の回収に気をもんだり、請求書に不備がないか神経をとがらせたりすることなく、企業は本来のビジネスへ注力できる。また、売掛金を期日前に入金するオプションもあり、キャッシュフローも安定する。インボイス制度や電子帳簿保存法といった法改正にも対応するため、請求業務のフローやシステムを都度見直す必要がないのも大きなメリットだ。

請求業務を「8割削減」したメディアドゥの事例

「SEIKYU+」の導入は、現場にどのようなメリットをもたらすのか。導入企業の1つである、メディアドゥの藤吉信仁氏は、与信管理と請求フロー全体が劇的に改善したと話す。

メディアドゥ藤吉氏
メディアドゥ
IP・ソリューション事業本部
出版ソリューション推進部
企画営業課長 NetGalley担当
藤吉 信仁

「当社では2017年から新規事業として、欧米で広く利用されている紙書籍の販促支援ツール『NetGalley(ネットギャリー)』日本版の提供を始めました。ただ、当時ネットギャリーは小規模で開始したため、請求業務に人的リソースを割いたりシステムを導入したりすることが難しい状況でした。少人数で対応するために与信審査のフローも簡略化することになり、前払い制を取引先の出版社にお願いしていました」

ネットギャリーは書店員や図書館司書、メディアなどの本のインフルエンサーに発売前の書籍の見本をデータで配布し、選書や下読みに役立ててもらうWebサービス。出版社にとっても、書いたレビューを販促に役立てることができる革新的な仕組みで書籍の販促に貢献しているが、利用料を宣伝費として計上している場合、前払いはなじみにくい。実際、出版社によってはそれが理由で、社内の稟議が通らず契約に至らないケースもあったという。

また、社内請求フローの問題も深刻だった。前払いで対応すると、ネットギャリー事業の多数の取引先からの入金をプールしておかなくてはならず、経理部門は別対応をする必要が生じて負担となっていた。さらに事業部門としても営業やトラブル対応などの多様な通常業務に加え、相手の名前や請求内容を都度確認するといった請求に関する繊細な業務を、少人数体制で毎月対応する負担は次第に大きくなっていったという。

「うれしい悲鳴ですが、事業が拡大し、契約先が増えるのに比例してヒューマンエラーが起こるリスクも高まり、心理的な負担はかなり大きかったですね。事業を伸ばすうえで大きな課題となっていました」(藤吉氏)

この課題を解決したのが「SEIKYU+」だった。掛け売りでの請求に関わるすべてのプロセスを代行するカバー範囲の広さは、サービス全体の請求業務にかかっていた時間を8割以上削減するという驚異の結果をたたき出した。藤吉氏は心理的な負担がゼロになった点と、現場業務における使い勝手のよさが大きかったと話す。

「未入金があった場合の督促をすることもなくなり、私たちはもちろん経理部門にかかっていた手間もほぼゼロになったことで、別の業務に注力するなど生産性も上がりました。またサービスの管理画面についても直感的に使えるUIで使い勝手もよく、現場からも大変好評です。請求方法の変更にご理解、ご協力をいただいた出版社の皆様にしっかりと還元できるように、『SEIKYU+』の力を借りながら事業を拡大していければと思っています」(藤吉氏)

デジタルサービスを支える「アナログなサポート」

興味深いのは、「SEIKYU+」の導入が自社サービスの取り組みを振り返るきっかけとなったということだ。藤吉氏は次のように説明する。

「当社もWebサービスを展開していて感じることですが、利用者側の既存の業務フローに組み込んでもらわないと、そのサービスは根付きません。その際に『チャットボットをご利用ください』とか『ヘルプページを見てください』と言われることが多いのですが、Biz Forwardさんは電話で終始手厚い対応をしてくださったので、疑問をその場で解決できて、非常にスムーズに理解できました。当社のWebサービスも、同様に丁寧なサポートをしなければならないと学ぶことができました」

導入の最終的な決め手がこの誠実な対応だったと藤吉氏は話す。デジタルサービスにおけるアナログなサポート。ともすれば時代に逆行する考え方と思われるが、アナログな関係構築へ貢献することの重要性は、林氏も強く意識していると話す。

「Biz Forwardでは『SEIKYU+』ともう1つ、資金調達サービスとして、オンライン型のファクタリングサービス『SHIKIN+(資金プラス)』も提供しています。いずれもオンライン上のサービスですが、サポートの手厚さにもこだわっていますので、まだデジタルに対応しきれていない方でも、気軽に問い合わせていただきたいですね」

「SEIKYU+」導入検討時のサービス説明は、MUFGで請求関連サービスの提供を行う三菱UFJファクターが担っており、MUFGとして万全な顧客サポートを行う態勢を整えていることも大きな安心材料だ。

中小企業の請求業務に大変革を起こす新たな金融サービス。その魅力はほかの金融機関へも波及し、ビジネスマッチング契約によって、それぞれの法人顧客の価値提供へ活用の流れができつつある。「金融」の字義どおり、資金の流れをスムーズにして経済活性化を促す――。新たな金融ビジネスの萌芽が、異色の合弁会社から現れ始めているのかもしれない。

SEIKYU+ サービスページ

SHIKIN+ サービスページ

※「令和3年経済センサス」によれば、従業員数10人未満の企業は国内企業の約75%、5人未満は国内企業の約60%を占めることが明らかとなっている。
https://www.stat.go.jp/data/e-census/2021/kekka/pdf/s_outline.pdf
https://www.net-bizs.jp/dataguide/19007/

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